表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

日南河さんは特別な人

 放課後、いきなり土砂降りの雨が降り、弱まるまで帰れないなと照をちょっかいをかけに行った。


「……なにか…………ないかな?」


 部室(物置)の扉を開けようとしたら中から高い声が聞こえたので、咄嗟に手を止めてしまった。まさか照が合いびきでもしているのかと耳をそっと扉へと当てた。


「アイツが好きな物、ねぇ……」

「照くんなら知ってるかなって」


 まりりんの声にドキッとして、鼓動がやたら早くなる。何故まりりんとアホ面が話なんかしているんだ!?


「その気持ちだけで大丈夫だと思うよ? まりえさんの贈り物なら何でも喜ぶと思うから、アイツ」

「そうかなぁ」

「ハハ」


 何が『ハハ』だ!

 あの野郎。少しでも余計な事を言ったら、簀巻きにして東京湾に浮かべてやる……!!


「でね、どうして龍樹くんはあんなにケーキをくれたんだろ?」

「さ、さぁ……」


 やべ、些かケーキを買いすぎたのだろう、まりりんが困ってしまったのか……俺は死罪確定だ。


「本人に直接聞いてみたら?」

「え? まあ……あ! そう言えばなにか好きな物聞かれた気がする! だから龍樹くんケーキを買ったんだ」

「お返しに今度は龍樹の好きな物を?」

「うん♪」

「今ならまだ校舎に居ると思うよ? この雨だし」

「ありがと。行ってくるね」

「お気をつけて〜」


 まりりんが出て来そうだったので、慌てて観葉植物の裏に隠れる。上手くやり過ごし何食わぬ顔で校舎をうろつくことにした。




「龍樹くん」

「……まりえさん」


 昇降口で雨が止むのを待っていると、後ろから声をかけられた。


「龍樹くんの誕生日っていつ?」

「4月25日です」

「もう終わってるね……」


 照から干からびたぬれ煎餅を貰った誕生日だったけど。


「じゃあさじゃあさ、誕生日とは関係無しで欲しい物とかある? この間のお返しがしたいな」

「お気持ちだけで十分です」

「そんなそんな! だってあんなにケーキ沢山貰って」

「いいんどす」


 噛んでしまった。恥ずかしい。


「あんなに…………」


 と、まりりんのトーンが下がってしまったのを見て、ちょっと罪悪感が湧いた。やはりやり過ぎたのだろうか。


「…………龍樹くんはどうしてあんなにケーキをくれたの?」


 いつになく、まりりんが真面目な目付きで俺の顔を見た。可愛げのあるあどけない笑顔とは違う、真剣な視線だ。冗談では切り抜けない。そう思った。


「どうして龍樹くんはいつも私に優しくしてくれるの?」


 これは…………まりりんからの……なんだ?


 ──尋問?

 ──それとも本音?

 ──まさか……催促?


「どうして?」

「いや、それは……」


 まりりんからの視線が剥がせない。

 心の準備すら許されぬまま、俺はそれを言うしかなくなってしまった。

 幸い他に人の姿は無い。むしろ、雨の音に紛れて言うならば今しかない。


「まりえさんが好きだからです。まりりんが好きなんどす」


 噛んでしまった。最悪だ。


「天ヶ崎さんは?」

「へ?」


 何故そこで天ヶ崎嬢の名前が?


「天ヶ崎さんが龍樹くんに向ける表情は、なんか他と違う気がして」

「……」

「きっと天ヶ崎さんは龍樹くんの事……」

「俺はまりりんが好きです。ずっと好きでした。いつの間にか『推し』から『好き』に変わって、どうしていいのか分からなくて……でも好きで」

「……」


 気まずい空気が漂った。雨音だけがそれを紛れさせてくれた。


「……ごめん、わたしは龍樹くんの事……面白い人だなって思うけど、それ以上は…………ごめん」

「謝らないで下さい。むしろ俺が謝らないと」

「……」

「ごめんなさい」

「そんな」

「じゃ」

「あ」


 いたたまれなくなり、そのまま雨の中を走った。


 ただ、走った。


 終わりは、突然だった。


 このまま死ねれば楽なのに。


 だけど歩道橋から下を見たらすぐに怖くなって止めた。


 帰って風呂入って、ベッドの中で泣いた。

 

 メッチャ泣いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うおおおおん!!!!(ブワッ)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ