Stage3 -陽炎-
札幌の要塞を制した翌日、カナチは誰よりも早く起きた。
(昨日のゴタゴタは片付いたのか。彼女らは大丈夫だったのだろうか…)昨日カナチが無力化した人の事を考えてると、けんまが起きてきた。
「カナチ、もう起きてたンマか。」「さっき起きたばかりだ。昨日の彼女らはどうなった?」「症状の大小はあれど誰一人死んでないンマ。ただ後遺症が心配な人も居たンマが…」
「ひとまず誰も死んでないなら安心した。座間子の様態はどうだ?」「彼女は多少の肉体損傷はあれど、精神汚染は無さそうンマ。とりあえず朝ご飯用意するンマ。」
けんまが台所に向かう。カナチがテレビを点けるとやはり昨日のニュースが引き続き流れていたが、札幌の物だけは内容が変わっていた。今日から復旧工事らしい。
カナチがテレビを眺めていると、座間子が起きてきた。「おはようございます、カナチさん。」「あぁ、おはよう。身体は大丈夫か?」「えぇ、この通りもう大丈夫よ。」
「そうか、変なとこを斬ってなくて良かった。」
三人は朝食を食べながら"A.C."の事について話していた。「こんな事聞くのもアレンマが、捕まった時の事を教えてくれないンマか?」「ごめんなさい…その時は何が何だか分からなかったの。
確か、帰りに自転車に乗っていたら後ろから何か刺されたような…」「麻酔か?」「多分違うンマ。麻酔は血管探さないといけないから多分スタンガンンマ。」
「年頃の女を拉致した挙げ句、洗脳して自分の手駒にするとは卑劣な奴だな…」「襲った奴は男ンマ?女ンマ?」「分からないわ。死角から音も無くやられたから…」
「一昨日の通信じゃ変声機使ってたから分からないンマね…」空前の畜生にカナチは怒りを募らせる。「50年前より酷いな…」
カナチが最初に食べ終わる。「今日は福岡を叩く。出撃準備頼む。」「ちょ…ちょっと待ってほしいンマ…」けんまが頬張りながらカナチを止める。
「…ふぅ。座間子のアーマーを解析してたらバスターの強化に使えそうなパーツがあったンマ。だからバスターに組み込ませてほしいンマ。」
そう言ってけんまは急いで朝食を食べ、カナチのバスターを改造した。「…よし、出来たンマ。これで"アイスジャベリン"が撃てるようになったンマ。」
けんまが試し打ちをすると、弾丸が氷を纏い、氷の槍として飛んでいった。「通常の弾を撃ちたい時はこのパーツを外せばいいンマよ。あと酸素ボンベに防塵機能を付けたンマ。」
カナチに酸素ボンベとバスターを手渡す。「悪いな、それじゃあ行ってくる。」「ファイトンマ!」「…日が暮れるまでに戻る。」カナチは福岡に転送された。
「くっ… なんて熱さだ…」ニュースで見たとおり火災現場なのは分かっていたが、現場は想像を超えた熱さだった。
「出来ればLサイズの水筒を飲み干す前に帰りたいところだな…」生きているが故の悩みを抱えながらもカナチは燃え盛る工場へと入っていった。
流石にこの熱さの中洗脳兵を投入する訳にはいかないのか、敵は機械兵ばかりだった。「コイツは斬りがいがありそうだな。」
カナチが目の前に居た機械兵を斬ろうとした瞬間、機械兵は口から青白い炎を吐いてきた。カナチは直撃を逃れたが、その温度で水筒の塗料が溶けていた。
近付こうにも近づけなかったカナチだが、けんまから通信が入る。「カナチ!大丈夫ンマか!?」「あぁ、大丈夫だ。どうした?」「よかったンマ… カナチが出た後に座間子から説明があったンマが、
どうもアイスジャベリンの氷は熱を寄せ付けない特殊な氷らしいンマ。その程度の炎なら消火出来るらしいンマ。」「なるほど… コイツを使えってか。」
カナチがバスターにエレメント・アクアをセットする。「喰らえッ!!」カナチが機械兵に向けてアイスジャベリンを放つ。
機械兵は再び炎を放ったが、氷の槍は物ともせず、放った燃料ごと凍らせた。周囲の熱ですぐに氷が溶けたが、足止めには十分だ。
「サンキューけんま。これで炎も怖くねぇな。」「ンマ!頑張るンマ!」敵の効率的な倒し方を知ったカナチは次々と敵を倒していった。
無双していたカナチだが、ここでこんな事に気づく。(待てよ…?氷が効くって事は"アレ"も効くって事か?)敵との相性を考えながら、炎に塞がれてない一室に入る。
何事も無く通り抜けようとした時、部屋のシャッターが下りる。「クソッ!罠か!」突破口を見つけようとするカナチだが、どこからか声が聞こえた。
「フフフ… この先に進みたければこの部屋の守りを破ってみなさい。もし全員倒せたならば私はこの部屋のシャッターを上げましょう。
但しもし勝てないようであればここで炎に飲まれてもらいます。札幌の要塞を落とした貴方ならこの位は余裕ですよね?」「どこだ!どこに居る!出てこい!」
「私はこの先に居ますよ。逃げも隠れもしませんが、会いたければこの守りを破ってください。」何者かがそう言った時、天井を突き破って多数の機械兵が出てきた。
「…どうやら"アイツ"はオレが戦うとこを見たいようだな。ならば望み通り見せてやろう。 全員まとめてかかって来い。スクラップにしてやる。」
双方が構えて睨み合った次の瞬間、敵兵の一体が姿勢を低くして突っ込んでくる。「試合開始だ!」カナチは敵の裏に周り、放ったアイスジャベリンを壁にして突っ込む。
「まずは一体!」氷の破片とオイルが飛び散る。息つく暇もなく次の敵が背面から飛び込んでくる。「無駄ァ!」カナチは敵の懐に飛び込み関節部を斬り裂き無力化する。
着地隙を狙って別の機体がバーナーを吹き付ける。カナチは着地硬直を打ち消すかのように後ろの台に飛び退く。
もう一度アイスジャベリンを盾に飛び込もうとしたその時、カナチの上下から機械兵が飛び込んでくる。何たる機械的連携か!だがカナチは屈さない。
「ならコイツだ!水月斬!」セイバーが水を纏い、三日月の如き軌道を残す。濡れた斬撃は敵が吐いた炎ごと叩き斬る。着火装置が故障したのか、斬られた敵は炎を吐かなくなった。
「"当たり"だな。オレの読み通り水月斬が通ったか。」敵の新たなる弱点を知ったカナチの眼には、最早恐れなど無かった。
「次はどいつだ!たたっ斬てやる!」機械兵5台が陣形を組んで突っ込んでくる。カナチも負けじとアイスジャベリンを盾にして突っ込む。カナチの手は水月斬の構えを取っていた。
アイスジャベリンが一体を貫く。だが機械兵は倒された一体を無視して突っ込んでくる。敵兵が残骸を飛び越えてカナチを襲いかかろうとした時、カナチは水月斬を放つ。
斬撃は残された4体を一度に斬り裂く。飛び散るクーラント液が炎を消す。消えた炎の中から別の集団が現れる。
「…まだ残っていたのか。」機械兵はカナチを取り囲むように陣形を取る。「しつこい野郎だな…」敵兵がカナチを包囲すると、一斉にバーナーを噴射した。
流石に360°全ての敵を一辺に対処する事はカナチでも無理なので一旦飛び退く。もう一度アイスジャベリンを壁に敵を斬る。一体、二体、三体…
半数を処理した時、更に上から追加で敵兵が投入される。「クソッ!まだ増えるのかよ!?」カナチが増え続ける敵に苛立ちを覚えたその時だった。
「スピリット・オブ・ジ・オーシャン!」
突如視界の外から氷竜が飛んできた。「座間子、何でここに!?」カナチが振り向いた先には座間子がアーマーを着込んで立っていた。「私も手伝いたくて。」
「お前、そのアーマーはどうしたんだ?それに身体も…」「身体のほうは朝にも言った通りもう大丈夫です。アーマーに関してはけんまさんに頼んで修復してもらいました。」
けんまから通信が入る。「カナチ、間に合ったみたいンマね!」「けんま!何で彼女を転送したんだ!」「それは… 彼女が直接行きたいって言ったンマ。」
「座間子、どうして…」「あら、仲間を助けるのに理由なんて必要かしら?それにこの数だと一人じゃ厳しいでしょ。私も手伝うわ。」「…分かった。けんま!座間子のサポート頼む!」
「了解ンマ!」二人は手分けして敵を倒す。一人は水を纏ったセイバーで、もう一人は氷の竜を従えて。けんまから引き続き通信が入る。「カナチ!敵の増援生産を止めたからあともうちょっとンマ!」
「通りで次から次へと湧いてた訳だな…」現場となった工場だが、制圧された後に機械兵を作り出す工場へと変えられていた。「今からシャッター制御を乗っ取るからもう少し頑張ってほしいンマ!」
「了解した。出来るだけ早く頼む。」二人は引き続き敵を倒し続ける。一室には壊された敵の残骸が数多く散らばっている。二人が敵を倒してるうちに、気づけばその一室の火は鎮火していた。
「カナチ!制御権取れたンマ!」行く手を阻んでいたシャッターが開く。「サンキュー、けんま!」カナチはまた燃え盛る工場の中へ進んでいく。
カナチが再び進んだのを見送った時、座間子は力を失い床に座り込んでしまった。「座間子、大丈夫ンマ!?」「…少し無茶をしすぎたようね。」「まだ体力が回復しきる前に出たンマから…」
「いいの。私を救ってくれたあの人の役に立てたなら…」座間子はカナチに完全回復したと言っていたが、それは嘘だった。彼女はカナチを安心させるためにわざと嘘をついた。
朝見た時にけんまも薄々気づいてはいたが、あえてそれを指摘しなかった。彼もカナチを最善の状態で送り出す事が第一であり、カナチに不安要素を持たせたくなかったからだ。
「とりあえず早く戻ってくるンマ!」「…分かったわ。」座間子は持っていた緊急用転送装置を使い、拠点に戻る。「…負けないでね。」座間子は燃え盛る工場を後にした。
さっきの部屋に兵力を投入して生産ラインを止めたからか、あの一室を出てからはほとんど敵は居なかった。そしてカナチは工場の最奥に辿り着く。
「罠、突破したのですね。残念なこと。」「…お前の目論見通りには物事は進まなかったようだな。」「えぇ。なのでここでこの六実が、直々に"始末"してあげましょう。」
「望むところだ。果たしてどちらが"始末"されるのだろうな。」「甘く見てると火傷するわよ?」「そうか?ここまでの道のりのほうが熱かったけどな。」
「減らず口も…」六実が手を構えると、炎で出来た弓と矢が現れる。「そこまでよ!!」先に仕掛けたのは六実。炎の矢がカナチを襲う。
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ!」カナチは放たれた矢の合間を掻い潜り、懐へ潜る。「喰らえッ!!」カナチがセイバーを振り上げる。
「そんな物などお見通しよ!」
なんと、六実はカナチのセイバーに反応して手に宿らせていた炎の弓でそのまま斬り上げた。「グッ…!!」敵の一撃をモロに喰らうカナチ。
幸い急所は外れたが、それでもかなりのダメージを受けていた。「どう?私の必殺技の"昇炎斬"の威力は。決してさっきの言葉が過大表現じゃないって分かった?」
まだ致死量ではないものの、カナチの身体から血が滴り落散る。荒い息遣いのまま何も返せないカナチ。「どうしたの?もう終わり?さっきの威勢はどうしたの?」
カナチは急いで拾った治療キットで応急処置をする。「その様子だと相当きてるようね。いいわ、待ってあげましょう。"獲物"は"新鮮"なほうがいいですし。」
余裕を見せる六実。思わぬ被弾に焦りを見せるカナチ。「そろそろ次いきますわ。唸れ!烏座の力よ!ペインヘルフレイム!!」
六実の両手から禍々しい色をした炎が次々と飛び出る。「これで終わりよ!灰となりなさい!!」
「そうは…いくかァ!!」カナチがアイスジャベリンを盾にして突っ込む。「何度やっても同じこと。その手は私には通用しないわよ。喰らえ!昇炎…」
アイスジャベリンごと斬り裂こうとした六実だが、構えた炎ごと槍に振り払われる。「…!!」すかさずカナチも追撃体制に入る。
「水月斬!!」コアにこそかすらなかったが、斬撃は敵のアーマーを引き裂いた。アーマーの下から生身の身体が姿を見せる。
「…どうやらこちらも一筋縄ではいかないようね。いいわ。楽しもうじゃないの!ヘル・ノクターン!!」六実のアーマーのマントと思われていた物が突如伸び、壁や床に突き刺さる。
引き抜くと同時に刺した穴から爆炎が吹き出す。「もっと…もっと私を楽しませて頂戴!!」爆炎の波がカナチに押し寄せる。カナチは奥へ奥へと逃げていく。
壁際に追い詰められたカナチだが、壁を蹴って敵の頭上を飛び越える。「そう、それでいいの。貴方がそうする事で私はより楽しくなれるの。だからね…」
六実が再び禍々しい炎を放つ。「もっと逃げ回って頂戴!グレイヴクロー!!」炎が壁となって押し寄せる。カナチはセイバーを構える。
「何故…!何故こんな事をする!」カナチが水月斬を放つ。斬撃が炎を斬り裂く。「それはね… "あの御方"が私に最高の"遊び"を教えてくれたからよ!」
六実がマントでカナチを引き裂こうとする。「何言ってるんだ!正気を取り戻せ!!」カナチは飛び退きつつ相手の攻撃をかわす。
「いいえ、最初から正気よ!」六実は禍々しい炎を展開する。「ならば力尽くでも…」カナチがバスターを構える。「取り戻すだけだ!」カナチがコア目掛けてアイスジャベリンを放つ。
「そんな攻撃、当たる訳が―」六実は動こうとしたが、動けなかった。先程の斬撃のガタが来たのだろう。
氷の槍はコアを砕く。六実はそのまま倒れ込んだ。「…死んではないか。」倒れた六実の脈を取りながらカナチが呟く。
「こちらカナチ、対象を無力化した。これより帰還する。」
激闘の福岡での戦いは幕を下ろした。
Stage4に続く