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前編



私、フルーナ・ヴァイオレットには前世の記憶というものがる。わりとはっきり。


なので幼少の頃から賢くお淑やかで将来はどれだけ素晴らしい淑女になるのだろうかと期待された。が、残念な事にただ単に前世コミュ障で本ばかり読んでいた引きこもり。仕事はテレワーク可能な事務員をしていたので当然引きこもりだった。


よって現在、人との接し方がよく分からず一歩引いて壁を作っているだけだった。教師達からの評判は良かったが、社交場では最低限必要な定型分の会話とコミュ障を悟られないようにキリッとクールに表情を固定して壁の花になっていることから『鉄壁令嬢』などとあだ名が付けられてしまった。


不名誉だが致し方ない。そのおかげで外に出なければならないというミッションをつつがなく完遂できているのであれば甘んじて受けよう。いや、むしろ喜んで受けたい。


そんな私に現在、災難が降りかかっている。


「いつも壁際にいてつまらないだろう。良かったら一曲踊らないかい?」


どういうわけか容姿端麗でおまけに秀才と名高い公爵令息であるリカード・ロジエに絡まれていた。すでに公爵の仕事の殆どを引き継いでいると噂の今、社交界で最もお買い得株。ただし、難点が一つ。大変に女癖が悪い。女性を取っ替え引っ替え。修羅場に発展することも数知れず。公爵夫妻も頭を悩ませる問題だった。


(どうせ、変わり種をつまみ食いしたくなったのでしょう)


まったくもっていい迷惑だ。ここで一曲踊ってしまえば明日から針の筵なのは目に見えている。だがしかし、我が家は子爵。格上からのお誘いをほいほいと断ることはできない。それでもどうにか踊らずに回避せねばならない。ふと視線を感じて彼の方を見れば彼の背後から凄まじい数の殺気を放つほどの視線を向けて来るご令嬢達。これを背中で受けてけろっとしている彼はどういう神経をしているのか…。いや、そのぐらい図太くなければ取っ替え引っ替えなどできないか…。などと無表情で考えつつ彼を透過して後ろを観察していて思いつく。


(押し付けて…いや、引き取っていただけば良いのだわ)


思い立ったら早速行動あるのみ。私はわざとらしくいつもの鉄面皮をほんの少し残念そうにして声もいつもよりがんばって張って


「私などでは公爵令息様には釣り合いませんわ…。そうですわ!最近輸入業が好調なマリア・カスラ伯爵令嬢様やダンスが蝶のように素晴らしいオリーヌ・ブラハン侯爵令嬢様。あぁ、忘れてはいけませんわ。優雅なマナーは私達の憧れのロザリー・ブライアン侯爵令嬢様が相応しいですわ!!ねぇ、皆様。そう思いませんこと?」


一息に捲し立て周りにちゃっかり責任の一旦をなすりつければあとは思ったよりも簡単にことが運ぶ。


取り巻きや「我こそはリカード様と」という令嬢達がわらわらと集まりリカードを囲み始める。そうなってしまえばこちらのもの。しれっとその場を離れて難を逃れる。壁の花をしながら人間観察をしていた成果がここに現れた。


「フルーナ!囲われていたようだったが大丈夫だったかい?」


挨拶回りに出ていた兄が血相を変えて駆け込んでくる。


「大丈夫です。挨拶回りを中断させてしまってごめんなさい」


「いや、丁度終わって探していたところなんだ。だから気にすることではないよ。もう、大丈夫ならそろそろ帰ろうか」


「はい。お兄様」

 

そんな優しい兄の言葉に甘えて帰宅するかにした。正直面倒な予感しかしないので兄には大感謝である。



***



その後も何度かパーティー会場でリカードと居合わせることがあったが前回の反省を活かして同じ場所に留まらず、ある程度の時間で壁から壁へと移動して回るということを覚えたおかげで面倒ごとの回避に成功していた。


…のだが。何故かさらに面倒な事が起こった。


「どうか、フルーナ嬢と結婚させていただけないでしょうか」


そう、何故かリカード本人が我が家に直々に求婚に参上したのである。全くもって謎だった。直接関わりがあったのはあの日だけ。なのにどうして求婚などと。まさか隠れ蓑にするためのお飾り妻を探して…とか言われたほうがしっくりくる。


「失礼ですがリカード様。何故縁もゆかりもないうちの娘に?しかも家格も合いません。我が娘では公爵家には不釣り合いです。理由をお聞かせ願いますか?」


父の疑問はもっともだ。さらに言うなら私自身が1番疑問に思っている事である。


「ごもっともです。簡単に申し上げますと私ととにかく関わりたくないという心意気に惚れました!」


「は?」


意味がわからなすぎてうっかり声が出てしまった。家族も揃ってぽかんとしている。


「ダンスを断られたのはあの日が初めてでした。それからも見かけるたびに今度こそはと声をかけに行こうとするとそこにはいないのです。それも初めての経験でした。避けられていると気づいたときには怒りや悲しみよりどうすれば貴女に振り向いて貰えるのかと頭がいっぱいになっていました。そして気付いたのです!これが本当の恋なのかと!!」


熱く語るリカードに子爵家一同はさらにポカンとして黙って聞いていたがおそらくあまり内容は入ってきていない。


「貴方様のお気持ちはわかりました。ですが、私は浮気性な方を夫にできるほどの心の広さを持ち合わせてはありません。私だけを愛して下さる方でないと嫌なのです」


1番最初に我に帰った当事者が失礼を承知でそれとなくお断りを入れてみた。


「もちろん。婚約はこれまでの事を清算してからと思っています。貴女のおかげで私が今までどれだけ不誠実な事をしてきたかを思い知りました」


まさかの不発かつ更生発言にこれ以上何を言えば良いのかわからなくなってしまった。


「しかしながら公爵様はこの話しをどうお考えなのですか?流石に婚約となると家の事。何も知らないまま話は進められないでしょう」


父のアシストのおかげでどうにか話が繋がる。


「父も母も貴女の名前を出したらとても喜んでいました。ようやく身を固める気になったか。しっかり支えてくれそうな良いお嬢さんだと。ご本人の了承が得られればかまわないと申しておりました」


なんてこった。あまりの放蕩ぶりに結婚して落ち着いてくれるなら何でも良いという意味にしか聞こえないのは間違っていないはず。それでもここで了承してしまえば社交界でのやっかみがとんでもない事になるのは目に見えているし、何より壁の花に努めて来た努力が水の泡である。どうにか回避できないものか…。


「やはり、今までの事が気になりますよね」


どうやら空気感であまり歓迎されていないことは悟ったらしい。今までだけではなくてこれからも不安なんですよーと、付け加えたい。


「でしたらどうか私に1年間チャンスを貰えませんか?

1年で貴女に認めてもらえるように努力します。1年後に貴女の気持ちが変わっていなければ諦めます。もちろん好きな方ができたのならその時点で諦めます。いかがですか?」


「わかりました。それでしたら考えさせていただきます。ただし、無理矢理娘を納得させるのはたとえ公爵家であっても絶対に許しません。フルーナもそれで良いかな?」


格上からこれ以上ないほどの譲歩をされてしまえば嫌とは言えない。私も素直に頷くしかなかった。



***



もしかしたらただの気まぐれですぐに飽きてくれるのではと期待する事数ヶ月。期待とは裏腹に誠実かつ猛烈なアタックが続いている。暇さえあれば我が家に通い、花やら菓子やらを数日おきに送ってくる。何故か好みドストライクな物ばかりなのは少々怖い。そしてとても困ったのは公爵夫人からのお茶のお誘い。断るわけにもいかないので公爵家にお伺いしたところ…


「こんなバカ息子だけど選んでくれると嬉しいわ!!貴女の教師をしていた方々から太鼓判をいただいたの。彼女なら間違いないと!!」


泣き付かんばかりの物凄い勢いだった。それに曖昧に微笑みを返すので精一杯だった。と、いうよりも先生方ったらこんなところで宣伝しないで欲しい。私はひっそり引きこもりとして生きていたかった。


また、社交界ではリカードがとある令嬢に求婚しているという噂はあっという間に広がった。当然である。彼は有言実行で今までの関係を清算して回っていたのだから。

おかげで壁の花でひっそりすることもできず針の筵で酷いと嫌がらせも…あったにはあったが、いつも通りの鉄面皮を貼り付けて胸を張って黙って聞いていたら割とあっさりいつもの壁の花ができるようになった。理由はいじめがいもなくこんな面白みのない爵位が低い女などリカードはすぐに飽きると踏んだらしい。当の本人はどうしていいかわからずただ固まっていただけなのだが…。


驚きがあったとすれば、リカードがダンスに誘ったりしてこなくなったことくらい。彼曰く、


「君にちゃんと振り向いてもらえたらダンスに誘わせて欲しい」


だそうだ。なので会場で会えば挨拶をして少しお喋りをしてリカードは誘われるがままにダンスを踊りに行っていた。本当にダンスを踊るだけでその他の派手な遊びはきっぱりやめようだった。





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