表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4話.最高に幸せだ

最終話です。

 状況が飲み込めないジョージ達は呆然としていた。とんでもない事態に陥っているのは理解出来る、すぐにロッソ達を追いかけてくる。

「おい!いったい何が起こっているんだ!!」

 厳しい口調でアドルフが詰め寄ってくる。

「上手く言えないが、実はこの山は境界と呼ばれる特殊な場所なんだ、だから代々エドウィン家が守ってきた。山頂の(やしろ)に境界を塞ぐ要石という大きな水晶玉が祀ってあるんだ、それをランドル達が取ったからこうなったんだ!」

 眉唾物の話にアドルフは戸惑う、しかし話を信じようと信じまいとロッソは続ける。

「境界の向こうには雷獣のような化け物が闊歩している!この現象はその雷獣のせいだ」

 空は稲光が激しく光り、そこらじゅうに落雷が落ちている。

「もしかしてあの大きなダイヤモンドは?」

 ディッカが便乗してダイヤモンドの出所を聞いてくる。

「コノハナはこの山を守る神様なんだ。以前コノハナに境界の向こう側に連れて行ってもらった時に手に入れたんだ」

「「「神様!!」」」

 ディッカの下世話な詮索にもロッソは馬鹿正直に答える、そのついでにコノハナの正体まで暴露してしまった。ロッソの胸の中にいるコノハナは自慢げな顔をしているが、今の状況が分かっていないようだ。

「お前、神様を嫁って・・・え?本当に神様なの?」

 ジョージは別の意味で頭を抱えている。

「今はそんなことはどうでもいい、神ならこれを何とか出来ないのか!!」

 アドルフの強めな言い方にコノハナはビクッとして怯えてロッソの胸の中に隠れる。

「コノハナの力は日中しか使えないんだ、だからさっきもランドル達からも逃げていた。それで夜に力を失うコノハナをフォローするために封印用の要石が存在するんだ、それをアイツは・・・」

 やり切れない怒りにロッソは唇を噛む。


「ぎやぁぁぁぁ!!!!」

 山頂の方から悲鳴が上がる、ギョッとして全員が立ち止まる。

「不味いぞ、奴はすでにこっち側にいる・・・」

 コノハナが呟く、奴とは雷獣と呼ばれる怪物の事だろう。激しい光る上空の稲光にそれを察する事が出来る。

 慎重に山頂を進むと巨大なライオンのような異形の怪物が何かを咥えている、よく見ると人間の下半身のようだ。そして雷獣の足下には見覚えのある顔がある、次兄のランドルが尻餅をついて動けずにいた。そしてその手には大きな水晶玉を持っている。

「あれが要石だ、あれを社の中に戻さないと!」

 コノハナが鋭く言う、しかしあれでは誰も近づけない。

「おい!その水晶玉をこっちに投げろ!!」

 ロッソがランドルに声をかける、するとランドルは縋るような目でこっちに這ってくる。

「た、たすけてくれ、足が、足が潰されて、動けねえ」

 泣きながら助けを懇願するが、今の状況でどうする事も出来ない。

「くそ、朝まであとどれくらいだ!?」

 コノハナが悔しそうな顔を見せる、無力な自分を呪うように舌打ちをする。

「あと少しで朝だ」

 アドルフが懐中時計を取り出して時間を確認する。


『ガアアアァァァァ!!!!』


 雷獣が咆哮を上げる、すると雷が周囲一帯に落ちていく。遠目にいつも買い出しに行く麓の街にも雷が落ちるのが見えた、煙が上がっており、さっきの雷で火事が起こっているようだ。

「あそこは!」

 コノハナもそれに気がついたようだ、一番最初に行った街だけに思い入れがあるようだ。

「もう止めんか!犬畜生が!!」

 コノハナは相変わらず後先考えない、直情的に雷獣を罵倒してしまった。そしてその不味さに気づいた時にはもう遅かった。

「ゴメンなさい!!」

「もう遅いって!!」

 コノハナを抱き抱えたままロッソは走り出す。

「こっちだ化け物!!」

 大声で雷獣を煽る。

「今のうちに要石を!」

 アドルフ達にそう言うと社の後方にある境界の向こう側へ走り出した。雷獣はすぐにロッソとコノハナを追いかける。

「やべえ、思ったより速い!」

 最近はずっとコノハナを抱き抱えて移動しているので脚力には自信があった、しかし雷獣の前ではそんなものは役に立たなかった。先に走り出した分のアドバンテージはあっという間に無くなってしまった。

「よし!要石は戻したみたいだ」

 コノハナが後方を確認するとガラスのような壁が天高くそびえ立っていた。

「あとは奴を撒いて向こう側へ戻れ!」

「簡単に言うな!!」

 絶対に逃さないようという雷獣の強い意志を感じる、執拗にロッソを追いかけてくる。

「止まれ!前に何かいる!!」

「それは無理!!」

 コノハナが鋭く言う、前方に熊のような怪物がいる。手には巨大な斧のような武器を持って二足歩行している。

「くっそぉぉ!!」

 コノハナを抱き抱え、下り坂の勢いを利用してスライディングの要領で滑る、それで運良く熊の足元を滑り抜ける事が出来た。

「凄い凄い凄い凄い!!さすが私の旦那様だ!!」

 本当に運が良かっただけなのだがコノハナは嬉しそうに抱きついてくる。


 ドガァァァ!!!


 次の瞬間、轟音と共に雷撃が走る。チラリと後ろを見ると雷獣の雷で熊は丸焦げにしてしまった。

「さすがは雷獣だな」

「おい!悠長に感心しているな!!」

 二人を捕食するのを諦めたのか、雷獣はロッソ達に向けて無差別に雷を落としていく。

「無理無理無理無理無理無理」

 頭を低くして無我夢中で走る、近くに雷が落ちくる恐怖と戦いながらとにかく走り続ける。

「いかん!止まれ!!」

 コノハナの声で慌ててストップする、あまりの勢いで目の前の崖に落ちそうになってしまった。

「ここは例のダイヤモンドのあった竪穴か!」

『グルルルルル』

 背中の圧力に振り向きたくなかった、すぐ近くまで雷獣の足音が聞こえてくる。

「これはヤバイな」

「・・・ん?」

 ロッソはコノハナをその場に下ろして離れる。

「おい!こっちだ!犬畜生!!」

 手元にあった石を雷獣に投げつける。

「ロッソ?何をしている・・・ねえ!!」

「お前の相手は俺だ!馬鹿野郎!」

 ロッソの煽りで雷獣は標的を固定したようだ、コノハナから視線を外す。

「ダメだ!止めろ!止めて!!」

 声を荒げてコノハナがロッソを止めようとする。

「安心しろ!絶対に朝まで逃げ切ってやるさ」

「朝!?」

 コノハナは空を見上げるとすでに空は明るんでいた。

『ガアアア!!!』

 雷獣がロッソに飛びかかろうとした瞬間、別の巨大な生物が横から割り込んで雷獣を吹き飛ばす。

「え!?シシガミ?」

「やれ!シシガミ!!その犬畜生を倒せ!!」

 コノハナがシシガミに命令する、すると巨大な角を前に頭を低くして突進する。

 ロッソは巨大な生物同士の戦いに巻き込まれそうになるがなんとかその場を離れる、するもコノハナが走って来て思いっきり抱きついてきた。

「馬鹿馬鹿馬鹿!なんであんな事をしたんだ!!私を一人にしないと約束しただろ!!」

 大泣きしながらロッソの胸に顔を埋める。それを見て呆れて息を吐く。

「俺は逃げ切るつもりだったんだけどな?」

 手を背中に回して強く抱きしめる。


 ゴッ!!


 どうやらシシガミと雷獣の戦いも決着がついたようだ、シシガミの強烈な突進で雷獣は吹き飛ばされて谷底へと落ちていった。

「・・・この高さから落ちたら死ぬよな?」

 恐る恐る下を眺める、あまりの高さにすぐに見るのを止める。

「この程度で雷獣は死なないかもしれんな、だけどもう追いかけては来ないだろう」

 泣きながらもコノハナも下を見る、この高さを落ちても死な無いなんて本当に化物だと今更ながらに戦慄する。

「ふう・・・疲れた」

「うん」

 終わったと思うとその場にヘタリ込んでしまう。

「まあ、元を正せばコノハナが怒りっぽいのが悪いんだけどな?」

「うっ!」

 ギクリとしてコノハナは目を背ける。

「ふふふ、まあ、いいか!」

 ソッポを向いているコノハナを後ろから抱きしめる。

「帰ろう」

「・・・うん」

 シシガミに跨り来た道を帰る。二人にとって長い長い夜がようやく終わった。


 境界の社に戻ると父のジョージと兄のアドルフ達がロッソ達の帰りを待っていた。

 最初は巨大なヘラジカが目の前に現れて驚くが背中にロッソ達が乗っていてさらに驚かれてしまった。

「凄いな、伝説の鹿の王が実在したとは・・・」

 ジョージの言葉にロッソとコノハナは首を傾げる。

「エドウィン家の伝承では、伝説の鹿の王がこの山を守り、天変地異から人々を守ったと言われているんだ」

「え!?そうなの?」

 まさかの神として崇められていたのはシシガミの方?見るとコノハナは端っこで小さくなっている、自分で山の神を名乗っていただけに恥ずかしかったようだ。

「それでランドルは?」

 ロッソは周囲を見渡しランドル一味の姿が見えないので心配になる。

「アイツらは大怪我をしていたから連れて行った。ランドルは下半身が潰れてもう二度と自分の足で歩けない、自業自得だから気にしなくて良いし同情もするな。手下共も二人が死亡して一人は片腕をなくして背骨が折れている、もう一人は失明して片足を失った。まあ、そいつらもならず者だから同情しなくても良い」

 アドルフが教えてくれた、そしてコノハナ方を向くと跪いて深々と頭を下げた。

「数々の無礼を陳謝します、コノハナ様」

 するとアドルフの部下やジョージまでも跪く。ロッソは驚いて言葉を失うがアドルフは続ける。

「エドウィン家は代々この地を管理する役目を持っていたのに使命を失念していました、さらに我々の手により危険な目に晒してしまった、どうかお許しを」

 するとコノハナはロッソと腕を組む、その行動に戸惑いつつもコノハナが口を開く。

「お前達は嫌いではないが好きではない。私にはロッソだけいれば良いから、お前らが今後私達の邪魔をしなければ許してやる」

 ロッソはコノハナの言い分を聞いて恥ずかしくなる、顔が熱くて汗が止まらない。

「あっ、そうだ!ロッソ様これを」

 ディッカが荷物から小さな箱を取り出す。

「出来たのか?思ったより早いな」

 箱を開けると大きなダイヤモンドの指輪が鎮座していた。

「コノハナ、手を」

 コノハナの手を取るとロッソは指輪をはめる、コノハナは目を輝かせて指輪を眺めている。

「ふふふ」

 ロッソも自分の指にはめてニヤニヤしてしまう。

「これでちゃんとした夫婦(めおと)だ!」

 コノハナは腕に抱きついたまま見上げてニヤニヤする。

「ふう、まさか義理の娘が神様とはな・・・」

 ジョージは冷や汗が止まらないようだ。

「ならあの話はしなくても良いな」

 アドルフの言葉にロッソは首を傾げる。

「・・実はお前の元婚約者から復縁要請が来ていてな」

「はぁ!?今更何を言ってるんだ?」

 気になって追及してみたらアドルフが失笑しながら教えてくれた。

「例の侯爵家の四男だがな、実は四人の女と同時進行だったようだ」

 四人?ロッソは本当に意味が分からない。

「そのうちの1人は既婚者でな、それがバレて王都では大騒ぎだ。それで四男坊の正規の婚約者から浮気相手全員が訴えられているらしい」

 吹っ切れているのであまり関心は持てなかったが、見事な転落人生だ、人を裏切っておいて復縁したいというのも恥知らずとしか言いようがない。

「もう弟は素敵な女性と結婚したと言っておく」

「頼むよ、二度と近づくなって釘をさしておいてくれよ」

 本当に二度と関わり合いたくないと願ってしまう。


「これで一件落着かな?」

 改めてロッソは伸びをする。

「さすがに夜通しは疲れたわ」

 高齢のジョージは腰を叩きながら立ち上がる。

「そうだね、取り敢えずフカフカのベッドに飛び込みたい」

 コノハナは神様なのに眠たいらしい。

「なあ、少しだけ別荘で休ませてくれんか?」

「やだ、あそこは私とロッソだけの場所」

 ジョージの懇願にコノハナは即拒否する、あまりの拒否ぶりにジョージは残念そうに引き下がる。

「今度は子作りするんだから近寄らないで!」

 コノハナが爆弾発言をする、慌ててロッソはコノハナの口を塞ぐがその顔は真っ赤になっている。

 するとアドルフは何かを考え込むような顔をする。

「あの、一つ聞いて良いですかな?」

 改まってコノハナに質問するようだ。

「神と人間は子を作れるのですかな?」

「・・・は?」

 コノハナが思考停止する。

「・・・さあ?」

「「「知らないのかい!!」」」

 全員から同時に突っ込まれてしまった。



 あれから数日が経った、壊された扉などはすぐに修復され、二人の穏やかな日常が戻っていた。そして今日はディッカはダイヤモンドの差し引き分の代金という大金を持ってきていた。

「今回はディッカのおかげで助かった、報酬としてこれは全部受け取ってくれよ」

 代金をそのまま返そうとするがディッカは大慌てで止める。

「これはロッソ様とコノハナ様夫婦の正規の収入です、どうかお納め下さい。それにまた良きものが手に入ったら是非ともお取引をしたいので」

 チラリとコノハナに視線を向ける。

「良いぞ、そのかわり食べ物を定期的に持ってきてくれ」

 本当に食い意地が張った神様だと呆れてしまう。


「それよりも聞きました?ランドル様の浮気相手が例の女の他にもう一人いたそうです。それを全部知っていた奥様は復讐の機会をずっと待っていたようで、すべて暴露して離縁要求し多額の賠償金を請求しているそうです、足が不自由なのを見て絶好の機会と思って追い討ちをかけたようですね。さらに分領されたあの街も没収されてアドルフ様の管理になりました。おかげであの街も平和になって本当に良かったですよ」

 ディッカが嬉々としてあの後の事を教えてくれる。

「それに御実家に例の婚約者が乗り込んで来たらしいですよ?裏切り者!責任とれ!と喚いていたそうです」

 ディッカは余計な情報までどんどん口にする。

「ですが相手はアドルフ様ですからね、冷徹にあしらわれて、さらには器物損壊と暴行でお縄になったそうです」

「マジかよ、すっげえ迷惑をかけちまったな」

 それを聞いて少しだけアドルフに申し訳なくなってしまう。

「詫びに何か送るか?銀水晶があったでしょ」

「あ、いいかも」

 コノハナに言われ、ロッソは奥の部屋に行って銀色の輝く鉱石を持ってくる。

「は?これは?」

 ディッカが目を丸くしている。

「銀水晶っていう珍しい鉱石らしい、この前の落ちた雷獣の様子を見に行った時についでに手に入れてきた」

「・・・は?ついでに?」

 ディッカは固まっている。

「こ、これはミスリル銀と呼ばれる凄まじく希少な金属なのですよ!!それをついでに取ってきた!?はぁ!?」

 固まっていたと思ったら突然喚き出す、どうやらディッカは銀水晶を見て壊れてしまった。

「価値があるのなら良かった、これを兄に届けてくれ。これが欲しかったら兄に売ってもらうように頼みなよ」

 全く価値が分かっていない男にディッカは絶句する。しかしこれ以上言っても無駄だと思い何も言わないことにした。

「・・・それでは責任を持ってこれはお届けします」

 大事そうに銀水晶を抱えてディッカは馬に跨る。

「それじゃ頼む。それからまた食料を持ってきてくれ、甘い物は特にコノハナが喜ぶ」

「喜ぶぞ!!」

 二人からの見送りの言葉にディッカは呆れるだけであった。

「何か他に伝言はありますか?よろしければお伝えしますが?」

 ディッカからの提案にロッソとコノハナはお互いを見合って笑顔になる。

「そうだな・・・」


「取り敢えず今の俺たちは最高に幸せだって伝えておいてくれよ」

最後まで読んでいただきありがとうございました。

練習を兼ねて短い小説をたくさん書いており、その中でもイチャイチャラブラブなお話を初めて書いてみました、作者のリアルとは程遠い世界の話ですね(汗)

また突発で短い小説を投稿するかもしれませんが、どうかお付き合いください。良かったら感想等を頂けたら嬉しく思います。


☆補足です。本文では説明出来なかったので。


*コノハナは花の神様で、花は境界を分ける線引きを意味します。つまり実際はコノハナは山の境界を司る神様であり、本当の山の神様はシシガミです。シシガミは山の守り神であるが境界を守れる訳では無く、コノハナを招いて境界を守ってもらっており、逆にシシガミはコノハナを庇護する役目を負いお互いに持ちつ持たれつの関係。

*シシガミは本来は実体を持たない霊体であったが、コノハナの神通力で実体を得る事が出来た形なので一切喋らないし、静かに佇む事しか出来ない。

*コノハナが山から出ても平気なのは境界の神様であり、本当の山の神であるシシガミは一歩も山から出る事は出来ない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ