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1話.山を貰った

設定甘々なところがあるかも知れませんが、温かい視線で読んでもらえると嬉しいです。

「これよりエドウィン家の生前分与を行う」

 ジョージ・エドウィン辺境伯には3人の息子がいた。

 ジョージはすでに高齢であり、そろそろ第一線から退いて息子達に後を任せようと思っていた。それに伴い伯爵家の財産を相続させるために3人を屋敷に集めていた。

「長男アドルフ、エドウィン家の家督を与え、全領地を引き継いでもらう」

「次男ランドル、一部領地分与と王都の土地を与える」

「三男ロッソ、山を与える」


「は?山?」


 三男ロッソ・エドウィンは自分の耳を疑った。あまりに不平等すぎて思わず声を出してしまった。

「な、何で山!?おかしいだろ」

「あそこはエドウィン家の聖地だ。頼む、どうかあそこを管理してくれ!時間のあるお前にしか頼めない仕事なんだ」

 エドウィン伯爵はロッソに頭を下げて頼んでくる。

「毎日遊んでいるんだから仕方ないだろ」

「くくく、女を他所の男に奪われて、引きこもっている情けない奴にピッタリじゃねえか」

 アドルフは冷たく言い放ち、ランドルはニヤニヤしながらロッソを嘲笑う。

「2人とも黙りなさい、今まで管理を頼んでいた叔父上が引退してから数年も放置してしまった。今更高齢の私が管理を引き継ぐ事が出来ないから、頼む、この通りだ!」

 滅多に頭を下げない父に頼まれてるとロッソには断る事が出来なかった。


 それに兄達に言われた通り時間はたっぷりとある。

 ある日突然、婚約者から「他に好きな人が出来た」と言われ、王都に住む侯爵家の四男と二股をかけられた挙句にフラれてしまった。そのショックで寝込み、王城での仕事をクビになって自領に出戻ってきていたのだ。

 1年程落ち込んでいたが今では父の手伝いをしながら少しずつ社会復帰しつつあった矢先の出来事であった。


 結局は父の懇願に根負けしてロッソは山へと行くことになった。

 広大なエドウィン辺境伯領には未開の広大な土地があり、通称「山」と呼ばれていた。山というには標高は低いが手付かずの自然がそのまま残っている。エドウィン家は昔からそこを聖地として信仰し、管理する仕事を与えられていた。以前まではロッソの大叔父がその職に就いていたが、高齢のため亡くなりそのまま放置していたのだ。


「本当に何もねえ、木しかねえ、草ばっかだ、そして何で誰も着いてこねえんだ!」

 ブツブツ言いながらロッソは山を登っていた。本当に不満と愚痴をこぼすしかやる事が無かったのだ、財産分与で一生遊んで暮らせるくらいの金を手に入れ、一緒に着いて来てくれる人間募ったが誰も手を上げなかった。着いて来てくれると信じていた昔からの使用人も、こんな僻地で枯れたくないと拒絶され、給料を今より倍出すと言っても誰も着いてこなかった。

 口から漏れるのは不満と愚痴ばかりで嫌になり、気分転換のためにロッソは取り敢えず山頂まで行ってみようと思い立ったのだ。

 小さい頃に大叔父に連れられて登った事があるので道は何となく覚えていた、低い山なのであっという間に山頂に辿り着く事が出来た。

「確か(やしろ)があったと思ったけど・・・」

 山頂を見て回ると幼い頃の記憶の通り山の神様を祀った社を見つける。

「ふう、本当に誰も管理してないのか」

 社は壁に苔が生え、草が伸び放題で荒れ果てていた。このままでは忍びないと思い、草を刈って社を掃除しているとあっという間に時間が過ぎてしまった。

「夢中になり過ぎた。初日から遭難するのは不味いよな」

 ロッソが周囲を見渡し、周囲が暗くなっているのに気がつく。

 その時ロッソは茂みの奥から巨大な気配を感じる。

「不味いな・・・山の獣か?かなりデカい」

 剣術は得意ではないが死にたくはないので構える、腰が引けているのは実戦が初めてだからだ。

「何をしている?」

 茂みから出て来たのは巨大なヘラジカであった。そしてそのヘラジカが女の声でロッソに話しかけてきたのだ。

「シ、シカが喋った!?」

 ロッソは驚いて後ずさる、魔物が本当に実在するとは思ってもみなかった。

「何を言ってる、喋っているのは私だ!」

 ヘラジカは微動だにせずにロッソと対峙する、だが女性の声は威嚇するように高圧的だ。

 ロッソは声のする方を見る、すると巨大なヘラジカの背中に誰かが乗っているのに気づく。

「子供?女の子か?」

「子供じゃない、私はこの山の主だ!」

 女の子はヘラジカから降りてロッソに近づいてくる。

「あ?何言ってんだ?この山は俺のだ、代々エドウィン家が所有しており、相続して俺が受け継いだんだ。勝手に所有物みたいに言うなよ」

 女の子の横柄な態度にいくら温厚なロッソでも怒れてしまう、

「はぁ!?小童が何を言っておる!」

「明らかにお前の方が年下だろ!!」

 子供の喧嘩のような言い争いが始まる。

「つーか、何で子供がこんな所に一人でいるんだよ」

「子供ではない!山の神だ!名をコノハナ姫と言うんだぞ!偉いんだぞ!」

 自分のことを山の神と自負している時点で胡散臭い。

「何だその目は?疑っておるのか!?」

 コノハナと名乗る女の子は存外に勘が鋭かった。

「なら特別に見せてやる!」

 そう言うとコノハナは静かに佇んでいた巨大なヘラジカを消してしまった。

「なっ!?」

 ロッソは驚いて思わず尻餅をつく。

「ふふふん!どうだ!我が神通力を!!」

 自慢げに胸を張る。

「う、嘘だろ、本物なのか?」

「ふははは、これで分かったか、分かったら敬え、讃えろ、ひれ伏せ!」

 自慢げに高笑いする姿はとても尊敬出来なかった。

「ふん、小童はとっとと帰れ・・・あれ!?社が綺麗になってる!?」

 唖然とするロッソを他所に社の中にコノハナが入る、すると驚いた声を上げて再び出てくる。

「其方がやったの?」

 嬉しそうに跳ねながらロッソに近づいてくる。あまりの勢いにロッソは頷くしか出来なかった。

「すまぬ!感謝する!ありがとう!嬉しい!」

 さっきまでの横柄な態度から子供のような無邪気な喜ぶ姿を見せる。ひと通りはしゃいだ後、コノハナは嬉しそうに社の中に入ろうとする。

「ま、待て、もしかしてここで寝てるのか?一人で?」

 ロッソは慌てて呼び止める、コノハナは不思議そうな顔をして首を傾ける。

「女の子一人でここは不味いだろ!」

「は?何が?私は神だぞ?」

 ロッソは眉間に手を当てて考える、目の前にいる女の子はとても神様には見えない。

「あーーーー、仕方ない。麓に俺の家があるから、そこには行こう、な?」

「知らない男に着いて行くほど私は尻軽ではないぞ?」

 今更警戒されても困る。

「俺の名前はロッソ・エドウィンだ、よろしく頼む。ほら、これで知らない仲じゃなくなった!」

 取り繕うように自己紹介する、しかしコノハナの視線は疑いに満ちている。

「ふかふかのベットがあるぞ?風呂も入れる、ご飯も食わせてやる」

 誘拐犯みたいだとロッソは自笑してしまう。

「何?ご飯?お供えをしてくれるのか!?」

 ご飯という言葉に反応する、チャンスと思いロッソは食べ物で釣ることにする。

「今は非常食のビスケットしかないが、家にいけば何でもあるぞ?どう?行こう!」

「お、お主、良い奴だな!」

 あまりにチョロすぎる、女心に苦心していた昔の自分は何処に行ったのだろうか?

「じゃあ行くか、こっちだ」

 話が決まったのでロッソが麓の別荘まで案内しようとするがコノハナは動かない。

「どうした?」

「ん!」

 何やら手を広げてロッソに何か催促している。

「歩きたくない」

「・・・」

 ロッソは明らかに苛つく。

「さっきのヘラジカは?」

「夜は私の神通力が使えない、だからわざわざ社まで寝に来たんでしょ!」

 自信満々に言われてロッソはキレそうになる、さっきヘラジカを消したのも怪しく思えてきた。

「早くおぶって!」

「・・・はあ〜、仕方ねえな」

 背中を向けて屈む、するとコノハナが飛び乗ってくる。小柄な女の子なので軽いと思っていたが本当に軽くてビックリしてしまう。

「うふふ、頼むぞロッソ」

「へいへい」

 神と言っても人の温もりと何も変わらない。

「それにしても変な服だな、何枚も重ね着して」

「何だ?十二単衣をしらないのか?」

 見たこともない格好を突くと小馬鹿にされる。

「何だそれ?」

「高貴な者しか着れない服だ!」

 高貴な人間が社で雑魚寝するのか?聞き返したかったが倍返しされそうなので言うのを止める。

 暗い山道をロッソはコノハナを背負って歩いていく、月の光があって本当に助かったとロッソは心底感謝した。


「ロッソ、ロッソ!何だこれは!初めて食べたぞ!!」

 ロッソは別荘につくなりコノハナに食べ物を催促される、取り敢えず有り合わせで食事を出すと貪るように食べ始める。

 こうしてコノハナを明るい場所で見ると雰囲気だけは高貴な存在だと分かった、ストレートの黒髪で美しい容姿をしており、年齢は16か17くらい、体格は小柄、12枚の服を重ねた変わった服を着ていた。見た目には高貴な人間だが、今の貪るように食事をしているのを見ていると高貴な存在には到底見えなかった。

「・・・おい待て、俺のは?」

「は?」

 気がつけば二人分あったはずの料理がコノハナが全て食べ尽くしてしまった。

「ふざけるな!俺も腹が減っているんだぞ!」

「ま、待って、ここにさっきロッソから貰った菓子がある!これで許して」

 懐から道中で渡したビスケットを取り出す、それが割れて無残な姿になってロッソの元に戻ってきた。

「マジかよ・・・」

 大きく溜息を吐くとロッソは仕方なくビスケットを口に運ぶ。

「仕方ない、湯浴みしてさっさと寝るか。先に沸かしておいて正解だった」

「風呂か?久しぶりだ!」

 なぜかロッソに付いてくる。

「ん?先に入るか?」

「は?」

 二人の間に謎の沈黙が生まれる。

「私は一人で入れない」

「あぁ!?」

 ロッソは変な声を上げてしまう。

「服を脱がせて」

「か、勘弁してくれよ」

 ヘタレなロッソは自身に戒めの目隠しを装備し、脱衣場に入る。

「なんでこんなに難しい服を着たんだよ!」

「それは私が高貴な存在だからだな!」

 自分で言えば言うほど高貴さが薄れて行くのをコノハナは分かっていない。

「何で一緒に入って来てくれない!そこに居るんだな?居てよ!」

「無茶言うなよ」

 風呂の中からコノハナの文句が飛んでくる。浴室にまで入って来いと命令されるが、さすがに断って仕方なく脱衣場で待機する。

「・・・まさかとは思うが、体は自分で拭くよな?」

「まさか拭いてくれないのか!?」

 ドア越しにロッソは頭を抱える。

「それだけは自分でやってくれ、頼む、俺の自制心が限界だ」

「ん?・・・そうか仕方ない、分かった」

 風呂から出たコノハナに自戒の目隠しをした状態でタオルを渡す。コノハナは文句を言いながらも自分で拭いている。

「一緒に浴室に入るが平気なのかよ」

「は?どういう意味?」

 ロッソの苦言にコノハナは理解に苦しんでいるようだ。

「一緒に風呂に入るのを許されるのは伴侶のみだ」

 コノハナの言っている事が矛盾している、本人も気がついたようだ。

「・・・あれ?」

「え?」

 コノハナの反応が無くなった。

「何だよ、裸を見られても平気なんじゃないのか?やっぱ恥ずかしんだよな?」

「こ、こ、この変態!!助平!!」


 ゴッ!

「ぐぶっ!」


 思いっきり股間を蹴られて脱衣場から追い出される。この理不尽な扱いにロッソは涙が溢れ落ちてくる。

「おい、服を着させてくれ」

「・・・」

 自分で叩き出しておいて理不尽なことを言い出す、ロッソは自分の不遇さに涙が止まらなかった。


 この後ロッソはようやく汗を流す事が出来た、一日の疲れを取るようにのんびりと湯に浸かる、気持ち良すぎて危うく眠りそうになったので慌てて風呂から出る。着替えて広いリビングに行くとコノハナが立っており、壁に掛かっている自画像を見ている。

「この絵は俺の大叔父だ、もう亡くなっちまったがな」

「何と!この老人の親族だったのか!そうか亡くなったか」

 コノハナは大叔父が亡くなったと知って悲しそうな顔をする。

「長年お供えをしてくれて、いつも社の掃除をしてくれた。礼を言いたかったが最後まで私に気づいてくれなかった」

 絵を見る目には涙が溜まっている。

「そうだったのか、でも何で俺にはコノハナが見えるんだ?」

「はて?」

 コノハナも首を傾げる。

「もしかして俺って何か特別な何か!?」

 思わずロッソの声がうわずってしまう。

「もしかしてこれは運命!?」

 コノハナまで見当違いの事を言い出す。変な事を言われてロッソは焦り出す、しかしコノハナは本気だ、熱を帯びた瞳で見つめてくる。

「きっとそうだ!私を見つける事が出来る人が現れた、きっとこれは運命なんだ!」

 コノハナに見つめられてロッソはさらに焦る。

「待て待て待て!コノハナは神様なんだろ!人間と結ばれて良いのか!?」

「え?・・・さあ?」

 突然素面になるので雰囲気が台無しだ。するとお互いに顔を見て吹き出して笑ってしまった。

「使えるベッドが一つしかないから使ってくれ、俺はリビングのソファで寝るから」

 そう言って自分の使うつもりだった部屋のベッドを明け渡す。

「何だコレは!フカフカだ!!」

 コノハナは無邪気にベッドにダイブして感触を堪能していたが、しばらくすると動かなくなる。慌てて駆け寄ると静かに寝息を立てて眠っていた。



自身の欲望のままにイチャイチャラブラブが書きたくて書きました。

本当はGWに投稿するつもりでしたが、だいぶ遅れてしまった・・・

次話は19時頃に投稿します。

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