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TTS 過去からの贈り物  作者: 加藤爽子
Case 2.島根孝太朗
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卒業記念実行委員会

「卒業記念ね…ここは昔の卒業生の先輩方に習うべきか」


 高校三年生の二学期、島根孝太朗(しまねこうたろう)は、卒業記念実行委員会に任命されてしまった。

 各クラス一名ずつ。五クラスあるので合計五名のうちの一人だ。

 島根の言葉に集まったみんなも首をひねりながら顔を見合わせる。

 元生徒会長でもあった島根が口火を切った形になってしまったが、しかしこの集まりは生徒会では無いし、その生徒会も島根はもう引退しているのだからでしゃばる必要は無いだろう。

 生徒の自主性だかなんだか知らないが、受験生の時間をこんな事に使わせるな、と言いたい。

 まぁそこは学校側も一応は考えているみたいで、推薦が決まっている人や就職の内定が出ている人ばかりが集められてはいた。ちなみに島根は進学組だ。


「過去の実績は………壁画、記念樹、タイムカプセル」


 委員のうちの一人の女子が、そういえば先生から預かっていたと、過去の記録を読み上げる。


「壁画は今から描く絵を決めてとかしていたら大変そう」

「そうだよな。昔の卒業生、この時期からなんてよくやったよな」


 他にも似たものでは、階段アートやらボトルキャップアートなんかもある。


「うちの姉ちゃんが階段アートの時だったけど、非難轟々だったみたいだぞ。進路決まっているやつは全員駆り出されて実行委員会にはかなり苦情が集まったって言っていた」


 卒業記念と名が付くのだから卒業生全員がそこそこ参加できるものが好ましいが、将来が決まる大事なこの時期にやれと言われて不満が出るのも当然のことだろう。

 それに進路が決まっていない人はやらなくてよかったのだから、手伝わなくてもいい人が居るということも不満の種になったようだ。

 とはいえ、これまでの卒業生もやってきたのだから出来るだろうと学校側は特にやり方を変えるつもりが無いようだ。


「記念樹植えんのが無難じゃない?」

「学校の備品寄贈ってのもあるぞ。時計とか体育マットとかそうだったらしい」

「え?あれって卒業記念だったんだ?!」

「他には、学校には何も残らないけど、卒業生への記念品の贈呈とかあったみたいよ。図書カード、テレカ、インク内蔵の印鑑…」

「あ、印鑑はいいんじゃない?でも、テレカって!古っ」

「公衆電話とか使ったことねぇわ」


 適当に指名されて集まっただけの特に親しいという訳でもないメンバーだったが、雑談のような話し合いに自然と空気が打ち解けてきた。

 文句と笑い声が教室を包むが、話はあまり進まない。


「あとなんだっけ?」

「タイムカプセル」

「タイムカプセルといえば、薄汚くなったブツが出てきて、何でこんなの入れたんだ?ってなるやつじゃねぇの」

「そういえばアレ。なんだっけ?香川陽菜(かがわひな)がCMしているやつ」

「ああ、香川はちょい役じゃん。メインの山梨晴香(やまなしはるか)の方が可愛くね?」

「タイムなんちゃらってやつか?」

「それそれ、タイムトランスポートシステムだ!」

「システム?サービスじゃなかったっけ?」

「まぁTTSってことで」

「で?TTSがどうしたんだ?」


 話の流れがどんどん卒業記念から離れているような気がするが、みんなのお喋りは止まらない。

 早く帰りたい島根は脱線し始めた会話にこっそりとため息をついた。そろそろ自分が仕切った方がいいだろうか。

 もう生徒会長では無いのだからと放置していたが、実のある会話に繋がらないのは不本意だ。


「TTSって未来に荷物を届けるんだろ?タイムカプセル向きじゃね?」

「現状がそのまま未来に届くんだっけ?それなら中身に劣化は無いよな」

「十年後の自分に宛てた手紙を学年全員分詰めて、十年後に開けたらいいんじゃない?」

「黄ばんだ便箋よりも綺麗な白い便箋の手紙の方が家に持って帰りやすいしね」


 このまま脱線するかと思っていたら本筋に戻ってきた。

 黄ばんで少しぐらいボロくなっていた方が経過した年月を感じさせていいんじゃないか?と考えなくもないが、島根はまとまり始めた話を混ぜ返すことはしなかった。このまま決まるならそれはそれで良いと思ったのだ。

 ただ、ノリノリになってくるみんなの様子を見ていると、逆に何か落とし穴があるんじゃないかと不安になってくる。

 本当に未来に届ける事が出来るのか?とか、店舗はどこにあるのか?とか、容量制限などは無いのか?とか…一人一通の手紙だったとしても学年全員だとおよそ二百通の手紙になるから結構嵩張るはずだ。

 話がTTSを利用したタイムカプセルにまとまりそうになった時、最初の発言以来閉じていた口から、ついポロリと不安を出してしまった。


「もっと詳細を調べてからの方がいいんじゃないか?」

「じゃあ島根が調べろよ」


 そう言われて、渋々島根は頷いた。口を出してしまったからには仕方がない。

 しかし、このまま突っ走って出来ないとなると、期限が短くなった上にフリダシに戻る可能性もある。それだけは避けたかった。

 学校の思惑にのせられている感はいなめないが、委員になったからにはあまり消極的なのも、島根の性分には合わない。

 場所はネットで検索したらすぐに分かった。

 予想はしていたが都内に出なければならないけれど、まぁ行けない範囲ではない。


 こうして島根は、TTSへ一度行ってみることになったのだ。

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