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TTS 過去からの贈り物  作者: 加藤爽子
Case 7.滋賀武史
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打ち合わせ

 滋賀は東京に着くとその足で会社に向かった。

 島根紘子に到着時間は告げていたから、それに合わせて打ち合わせスペースは押さえられているはずだ。


「あっ、滋賀さん。お帰りなさい」

「おう」


 片手を上げて紘子に軽く挨拶を返すと早速打ち合わせスペースの確認をする。

 紘子が告げたのは部内にあるパーテーションで区切られた区画ではなく、資料室近くにある、どちらかといえばミーティングよりも資料を調べるためのスペースだ。

 パソコンが普及し資料といえば電子ファイルになっているこのご時世、紙媒体の資料室は滅多に人が来ないので人気(ひとけ)がなく窓もない薄暗い雰囲気のこの場所は不人気だ。

 いつもなら陰気くせぇなぁと舌打ちの一つでもしていたところだが、電車に乗り込む数時間前に連絡して押さえてもらったし、これから話す内容を考えると聞き耳や横槍の心配が無いから好都合だろう。


 まずは店に呼び出された紘子の話から聞く。

 フロアマネージャーである宮城から「改めてお詫びをしたいためもう一度ご来店頂けないでしょうか」と言われて、店に赴いたところ、別件でたまたま(・・・・)来ていた研究所のトップ(岡山)からお詫びの言葉をもらったそうだ。

 更に「次にサービスを利用する時に割引して貰えるよう一筆書きましょう」とその場に持っていたノートに直筆で三割引きする旨を記して渡してきたそうだ。

 その場でコピーを取って「今日出社じゃない人の確認用」って宮城に預けていた。

 その夜、自宅でその即席の割引券に何かメッセージが隠されていないかと眺めていたところ、前触れも無くA4サイズの紙の束に化けたそうだ。

 割引クーポンは消えてしまったので、宮城からコピーの写真を送ってもらった、とスマホの画面を見せてくる。

 それから紘子が差し出してきた三枚の紙束。

 一枚目には、うちの雑誌社の名前と「滋賀と言う名のライターに届けて欲しい」と懐かしい筆跡で書かれていた。よっぽど慌てて書いたのか字は荒れていたが悪筆の滋賀と違って解読不能という事は無い。

 二枚目、三枚目は、TTSの利用者の記録の一部だった。一枚目によると秋田は暗号で残していたので、二枚目と三枚目は岡山が解読して翻訳済みのものらしい。

 その中には過去に収賄疑惑で逮捕されたものの証拠不十分で釈放された今なお現役の政治家の名前もある。

 それでピンときた。とはいえ、顧客の名前は全てカタカナで記載されているので、漢字にしてしまえば全く別人の可能性も考えられなくは無い。けれど、ここは仮に滋賀が思い浮かんだ本人のものとしておく。


「裏の顧客リストだ」

「裏?」

「こいつも……あとこっちのやつも、きな臭いのに尻尾がつかめなくて記事に出来なかった」

「あっ」


 滋賀の指摘に紘子の目が驚きに開く。滋賀から奪い返すようにリストを手にして目を通している。


「うわぁ~上からの圧力で記事に出来なかった大御所もいるじゃないですか」

「そうだな」

「これ全部一度に表沙汰になったら大騒動ですね」

「ああ…いや、今の段階だと夢想だと握り潰されるかもしれない」


 岡山が滋賀の用意した馬酔木とノートの切れ端のメッセージに気付いたからこそ、こんな問題だらけのリストを送り付けてきたのだろう。正直、情報過多過ぎて一介のジャーナリストの手にはあまる。

 一番新しい情報で三年前のものだった。当時騒がれていたとしても今は有耶無耶で立ち消えているものが大半だ。


「……しかし、TTSは潰しておいた方がいいな」


 開発者である秋田が自殺の決断をした訳がこの裏の記録なのだろうと、無意識に拳を握り締める。

 別に正義の味方を気取るつもりでは無い。ただ純粋に、あっては良くないものだと思った。


「……潰さないとダメですか?」


 少ししょんぼりとした紘子に滋賀は目を細める。


「宮城さんもあかりちゃんもとってもいい人なんですよね」


 いつの間に誼を持ったのか、TTSの新米を名前呼びしていた。


「TTSでのキャンセルがきっかけで彼との結婚が決まったし、彼の上司のクリスマスの話とか、香川陽菜の親友とのエピソードとか…」


 紘子がここで話すキャンセルは岡山に連絡を取るための馬酔木の件ではなく、紘子の彼氏である石川の婚約指輪の話だ。


「幸せを貰った人もいっぱい居ると思うんですよね……TTS嫌いだった私が言うのも何ですけど……」


 そういって寂しそうに笑う紘子に滋賀は居た堪れない気持ちになってしまった。先程までは秋田自身までも追い詰めた悪魔の研究で、ぶっ潰さないといけないと思っていたが、紘子の言う通り悪い面だけでは無かった。

 滋賀は行くのを避けている為訪れた事は無いけれど、話を聞く限り、システム含めて店舗は優しい空間なのだろうと思う。その店舗を纏めている、今風に言えば『神対応』の宮城があってこそかもしれないが。


「先にこっちの話をしようか」

「またI県に行ったんですよね」

「ああ。どうやら秋田は自殺だったらしい」


 どうしてその結論に至ったのかの経緯を話す。

 山口明彦との出会いと、自殺というのはTTSの研究員である彼の見解である事も。遺体の不可解な状態もそれで説明が付く。

2022.12.05 誤字修正

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