大学の跡地
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先週は更新できずで、すみませんでした。
TTSのスタッフかつ協力者の宮崎あかりから滋賀の現在の相棒である島根紘子の元へ連絡があった。
数日前、TTSでわざとキャンセル騒ぎを起こして、配送日時を前倒しにさせようとしたのだが、その件について再度来店を促されたらしい。
既に指定した日時は超えており、前倒しには出来なかったのは確定しているしその件の連絡とお詫びは貰っていたので特に呼び出される用事は無いはずだが、もしかしたら、音信不通の岡山から何か連絡が有ったのかもしれない。
だからといって岡山の友人として顔が割れている滋賀がTTSへ行っても、何らかの警戒をされるだけだと推察される。
行きたいのは山々だが、そちらはそのまま紘子に任せた方が良いだろう。
その代わりと言ってはなんだが、TTSの山口社長と福岡の動向を調べる。
そのなかで、一時期I県にある滋賀の母校になる大学が閉校した跡地に建物をそのまま利用した形でしばらく秋田が研究を続けていた事を知った。
その当時から福岡らしき人物が頻繁に出入りしており、どうやら山口が出資していたようだ。
もう二十年以上も前の話なので、秋田の研究所について更に詳細を調べるには時間が経ちすぎていた。
それでも、何か分かることがあるかもしれない、と再びI県へと足を運び、母校の跡地を訪れる。
彼の地は転々と色んな企業の手に渡り、今は、廃屋のようになっていた。
侵入禁止の看板や監視カメラもあるがお飾りのようにも見える。
事前に確認していたが今の所有者は東京の不動産屋だった。物理的な距離が管理をおざなりにしているのだろうか。
活用出来ないなら何故ずっと所有したままなのだろうか?
そんな疑問も浮かばないわけでも無かったが、ただ単に売れないだけかもしれないと自分の中で結論を出す。
中に入れたらいいのだけど…と侵入できそうな場所を探して見渡す。
「随分と熱心にご覧になられていますけど何かありますか?」
「いえ。ここの卒業生なんですよ。懐かしくて当時の面影を探していました」
突然掛けられた声に驚くが、滋賀は何食わぬ顔で振り返った。
そこに居たのはポロシャツ姿の汎用な中年男だ。中年とはいえアラフィフの滋賀からすれば少なくとも十歳は若そうだ。
「卒業生?」
そう言って首を傾げた男に大学名を告げた。
「ああ。在りましたね」
「いや本当に懐かしくて。建物もそのまま残っているみたいだから中も見てみたいな、とか思っていました」
在学時の学部を告げてひとしきり当時の思い出を語った。
「じゃあ、入ってみます?」
「ありがたく」
うんうんと楽しげに話を聞いていた男は、気さくにそう言って、ポケットから取り出した鍵束で門にかかっていた鍵を開けてくれた。
件の不動産会社にここの管理を任されているそうだ。
こういうのを瓢箪から駒とでもいうのだろうか。滋賀は愛想よく笑うと男の厚意に甘えることにした。
秋田の研究室がある建物に行きたかったので、それとなくそちらの方に歩みを進める。
可能ならばその痕跡を調べてみたかったのだが、ずっと着いてこられるとそれも出来ない。
さて、どうするか……。
滋賀は迷いながらも内心はおくびにも出さずに廃屋を見て回った。
秋田の研究室の前まで来ると歩みが自然と緩まった。何故かそうしなければならない気になって、戸の前でそっと手を合わせる。黙祷を捧げてから戸をそっと開けた。
中は、予想していたが伽藍堂だった。
棚一つ残されていない空っぽの空間に『そうだろうな』とガッカリする気持ちと『むしろ良かった』とホッとする気持ちが同時に滋賀の胸に訪れた。
おそらく建物の前でうろついていた滋賀を不審に思って態々様子を見に来たであろう男がこの場に着いてきている。
ここで紙切れの一つでもみつかったとして、それを手にすることはままならなかっただろう。
「秋田教授と親しかったですか?」
「いえ。在学中はあまり……卒業後にお話を聞く機会がありまして」
「話を聞く?あなたTTSをご存知なんですか?」
「ええ」
下手に誤魔化しても後から知られた方が拗れる場合がある。だから滋賀は男が聞いてくるままに答えた。
「もしかしてあなたは、滋賀武史というのでは?」
その問にヒヤリとした。
直ぐに返答出来ずに強張った顔がもう肯定を示していた。
滋賀がゆっくりと頷くと、男は息を飲んだ。
「記事を読んだんです。TTSのインタビューの……あれを書いたのはあなたですね?」
「ええ」
絞り出すような男の言葉に、今度は直ぐに頷いたものの、口の中が乾いて妙にざらついた声になった。
記事は本名で書いているので知っている人もいるだろう。しかし、それが何年も前に書いた毒にも薬にもならない当たり障りのない記事だった場合、フルネームでインタビューワの名前を何年も憶えている事はあるのだろうか。
仕事柄、体力には自信があるが腕力や武力は全くだ。しかし、入ってきた戸の前に男が居るのでそちらには逃げ辛い。
最悪、硝子を突き破ってでも窓に飛び込むか……。
幸いにも男は中肉中背で荒事が得意そうにも見えないし、ここは一階だから、窓から出たとしても大怪我にはならないだろう。
そう見て取れると気持ちに余裕が出てきたので、滋賀は男から話を聞き出そうと試みた。
2022.11.27 文言修正




