表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TTS 過去からの贈り物  作者: 加藤爽子
Insert.秋田栄介
30/37

折れた心とチャンス

 秋田は、キーボードを前に独自言語を用いた文章を打ち込んでいく。実質、秋田のみが使用しているオリジナル言語は読みたくても読むのは難しいようだ。

 この言語のベースになっているのは、秋田がまだ小学生だった頃に発想を得ているので子供の浅知恵と言われるかもしれない、実は単純なものだ。だけど、却ってそれが頭が良いと自認している人達の目を曇らせるのか、今まで読めた人は誰一人としていなかった。

 もしも、読める人が現れるとしたら、それは岡山だろうと秋田は考えている。

 岡山は単調な秋田の講義を熱心に受講していた生徒だ。

 秋田が院に誘った当初は、ちゃんと指導して研究の助手にしようと思っていた。

 しかし、秋田が自分の研究にのめり込み、気が付けば指導を怠ったまま前期の半分が過ぎていた。他の者は付き合いきれないと言わんばかりに研究室を変わるか辞めるかしていったのに、岡山はその間、自力で解析を進めていた事に純粋に驚かされた。

 何も取っ掛かりが無くともよくそこまで解析したなと感心したのだ。それは工学の分野ではなくむしろ考古学の分野だっただろう。

 それと同時にどこまで自力でやるのかという好奇心が出て来て、ついそのまま観察してしまった。

 今思えばそれが良かったのかもしれない。

 岡山が中途半端な知識だからこそ二人とも生かされている気がした。

 いや、そもそも秋田が研究室に岡山を誘わなければ、彼は何も知らないまま普通の人生を送っていた筈だ。その点は大変申し訳なく思う。


 秋田はある地点から別のある地点を繋いで瞬間移動をする装置を研究していたが、研究にはお金がかかりいつも金策に苦しんでいた。そんな秋田を救ったのは、今はTTSの社長である山口という男だった。

 パトロンとなった山口とその部下の福岡は、投資という名の支援金と耳に心地の良い言葉を並べて秋田の自尊心と生活を満たしてくれた。

 結果として瞬間移動は実現する事は未だ叶えられていないが、それでも物の転送が出来るようになった事を山口と福岡は絶賛してくれた。

 いくつかの物を実際に送ってくれと頼まれて実行したが、それは封筒に入った書類であることが多かった。

 書類ではなく鞄や衣服の時もあった。

 はじめの頃は言われるがままに転送していたが、そのうちその中身に汚職や密輸などのやり取りが含まれている事に気付いた。

 そうと知ってしまえばこれ以上送ることなど出来ない、と拒む秋田に福岡は恫喝や暴力を厭わなかった。

 これまでそんなものとは一切縁のなかった秋田の心はあっさりと折れてしまったのだ。

 抵抗も一時的に終わり、言われるがままに犯罪の片棒を担がされる。山口はそんな表沙汰に出来ない物の配送を請け負って利益を得ているようだった。

 ただ、最初に刃物や薬物を禁じる仕組みを作っていた事だけが救いだった。システムのルールを超えた物を送ることはなかったからだ。

 しかし、やがて彼らは制限を解く事を要求し始める。秋田は激しく抵抗し一部のソースコードを削除するという暴挙に出たのだ。素早く取り押さえられて結局一部しか出来なかった。

 いっそうのこと殺してくれればいいと思っていたが、ただ秋田を研究所に軟禁させただけだった。今までも寝食は研究所内で行っていたので表面上は何も変わらない。

 しかしながら、その後からは証拠隠滅の作業も頼まれなくなったため、悪用は止めてくれたのだと思っていた。


 ―――しかし、そんな甘い話ではなかったのだ。


 それから幾年か経った時に、福岡が岡山を連れてきたのだ。

 目を輝かせてプログラムを追う岡山は学生時代のままの純粋さを持ち合わせたままだった。

 昔よりも更に吸収力が磨かれており、一言のヒントで驚く程読み取っていく。

 親兄弟もなく嫁や子もいない秋田に用意された人質だったが、山口や福岡にとっては嬉しい誤算で年老いた秋田の後釜としても見られるようになってしまった。

 秋田は、極力岡山に興味が無いように振る舞ったが、そんな虚勢はすぐに見破られて、再び悪事を手伝わされる事になってしまった。せめてものの抵抗としてソースコードに裏稼業の顧客リストと利用記録を紛れ込ませていった。

 それが今書いている文章だ。


 制限が転送の仕組みに深く紐付いていてしかも削除したソースコードに含まれていたためなかなか解除出来ないという秋田の説明に半信半疑ではあったが、裏稼業に協力的な姿勢を見せることで渋々納得させた状態だ。

 少しでも収入を得ることを考えたのか、テストケースを多くすることで研究を進めようとしたのか、会社の裏稼業の目眩ましなのか、とにかく様々な思惑がからんで、実店舗が出店する事になった。

 そして、開発者として広告のためのインタビューを受けるよう指示された。

 インタビュアーは、教授をしていた頃の学生で岡山の友人だという。

 この地下から出て、福岡が立ち会いのもと二階の会議室で行われる。

 地下の事(研究所の場所)と裏稼業の事は箝口令が敷かれたが、それ以外は普通に答えていいらしい。

 福岡の話に興味なさそうに頷きながら、まるで天啓のように、これが最期のチャンスだと思った。

なんか燃え尽きた……。

次回、もし更新が遅れちゃったらすみません。


2022.12.03 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ