独自言語
今回も月曜日に間に合いました。良かったです。
次話もほとんど出来ているので次回も月曜日にお届け出来ます。
馬酔木とノートの切れ端のメッセージを送ってくるとすれば、秋田か滋賀かのどちらかに違いない。秋田の可能性は既にないのだが、ニュースを視ることも出来ない岡山はそう考えた。
ただ送り主は若い女性だったと聞く。
教授をしていた頃の秋田であれば、学生の誰かにでも頼んだのだろうかと考えるが、今はそんな人脈があるとも思えない。
それに、会社は確か秋田の捜索願を出している筈だ。
自分の意思でもう何年も姿を眩ませているのに、今更連絡を取ろうとするだろうか?
消去法で考えると滋賀からのメッセージである可能性が高いと思われた。
岡山は、送り主に会って直接キャンセル出来なかった事をお詫びしたい、と言ってみようかと考える。
しかし、言ったところで今も傍にいる福岡が許可を出すとは思えなかった。
それとなく花束を水の入った花瓶に挿して見栄えを整えるフリをして、確認してみたが他にメッセージが隠されている様子は無い。
「これ、デスクの方に飾っておいてよ」
「そうします」
地下一階のデスクワークの為の場所に飾るよう福岡に任せて、この件は終わったように振る舞った。福岡も特に疑問を持った様子は無い。
「……あ、そうそう。複製の件だけど一度、実際に店舗のプログラムのコピーを試したい」
岡山は破裂しそうな心臓の音が聞こえないよう祈りながら、花瓶を抱えた福岡に何気なくを意識して声を掛ける。
わざわざ店舗の実行ファイルを複製する必要は無いのにさも必要な工程のように装った。更にすでに実現したと確信しているのに進捗を遅めに報告する。
専門外の福岡なら気付かないと思いたいが、独自言語の理解を深め始めた他の研究者達には疑問を持たれるかもしれない。
「……他の者では複製作業は出来ないのですか?」
「コピーガードの解除に生体認証が掛かっている。認証登録が一人分しかなく、一度認証登録した人物は再登録が出来ない。秋田の生体認証の複製で試したが無理だった。他の者に書き換えたらその人物が再登録を実現させるまでは僕が解析を続ける事が出来なくなる。それでも構わなければ書き換えるよ」
些か早口であまりおすすめしないと理由を述べる。現状確かに認証の枠は一人分だが実はそれはなんとか出来るかもしれないとは思っている。しかし、今直ぐには出来ない事は確かだ。
再登録に関しては、そりゃあデータで試しても失敗するよな、って感じだ。つまり秋田本人がいれば再登録は可能なような気がする。
福岡に見つめられた他の技術者達は、やはりまだ自信が無いらしく岡山の言葉に反論は無かった。
「日程を調整します」
そう福岡が言い残して階段を上って行くのを見送りながら、ニヨニヨと緩めそうになる顔を引き締める。
おそらくこれで店舗へ行くことは出来るだろう。
そんな考えを隠すように普段の業務を始める。桜田通りの店舗にもあるシステムの本体とも言える機械がここにもある。店舗に置いてある機械よりも数倍大きい。
制限チェックや未来に座標を合わせる機能……大事な処理はすべてこの中にある。店舗からはネットワークを介して実行しているのだ。もう一つ使用済みのタグの回収もここに集約されている。
コピーガードと同じ生体認証のある鍵付きの引き出しがあるのだが、そこを開けると使用済みのタグが戻ってきているのだ。
タグ自体には音と光を出す機能がある。そのタグに座標を本体に知らせる機能と帰巣機能がある回路を貼り付けてある。
回路は使い切りで焼き切れてしまうので、帰巣機能が実行されると同時に役割を終える。
十ヶ月から一年に一度くらいの割合でここからタグを回収して新しい回路を貼り付ける作業が必要だった。
今、生体認証に登録されているのは岡山だけなので、この引き出しを開けるのは彼しか出来ない仕事だった。
それなのに何故か、開けられた引き出しの中にしわくちゃなノートの一頁が混ざっていた。
その紙は一度濡れた紙特有のパリパリとした感触があった。しかもどこか青臭い匂いがする。
ふと監視カメラの存在を思い出しその紙をそっと服の下に隠すと、タグを回収して洗浄、消毒、新しい回路の貼り付けの作業をした。
洗浄の作業に紛れて、ハンカチを濡らして雫が垂れないように軽く絞ったものを用意した。
監視カメラの死角を狙って服の下の紙を取り出すと濡れたハンカチで軽く湿らせながら皺を伸ばしていく。
濡れた事により文字が浮かび上がってくる。水のあぶり出しだったのだ。
その文字が秋田の独自言語だということは直ぐにわかった。独自言語はキーボードの三つのキーで一文字を構成する。浮かび上がった文字は六文字。しかし、岡山が把握している命令文では無い。
あまり長くカメラの死角にいると勘繰られるかもしれないため、その六文字を脳裏に焼き付けると紙は再び服の下に隠し、濡れたハンカチで頭を押さえながら死角から出る。
『VS= ITP [KJ 5KA LI6 UD[』
頭の中でキーボード配列に置き換えた文字列も思い浮かべてみるが、やはり意味のある言葉は作られなかった―――。
捜索願は今は行方不明者届というそうですね。
世俗から切り離されている岡山には呼び名が変わった事を知らないため「捜索願」と書いています。




