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TTS 過去からの贈り物  作者: 加藤爽子
Case 6.岡山栄治
27/37

この紙は?

閲覧、いいね、ブックマーク、評価をありがとうございます。

おかげさまで、今回も何とか月曜更新に間に合わせる事が出来ました。

 岡山はどうにか外と連絡が取れないかと思ったが、研究所のメンバーはまず間違いなく福岡の手の者だった。

 TTSの地上階に勤めている人の中にもきっと福岡の仲間が居るだろう。

 岡山の頭に浮かんだのはここに連れてこられる直前に話していた宮城の姿だ。彼女は本気で驚いていたし怖がっていたように思える。

 朝の短い間しか会話した事は無いが、それでも好奇心に目を輝かせ、岡山が話しに相槌を打つ姿に打算は無いと思った。

 外に出る機会を作ろうと思えば、店舗へ行くことでは無いだろうか?

 そう考えたが、店舗へ向かう仕事は自分以外に割り当てられ、その機会は訪れない。

 何かトラブルでも起きればにわか技術者達では無く自分が行くことが出来るのに…。

 従順なフリをしてプログラムを解析しつつ、福岡の不正の証拠となりそうなものを探しながら脱出の機会を見付けようと決意した。しかし、その秘めた決意も福岡には予測されていたようだ。


「そうそうご両親お元気そうでしたよ。長生きされると良いですね」


 さも思い出したといった風情でサラリと告げられた。その内容とは裏腹に感情の籠もっていない声にゾワリと鳥肌が立った。

 岡山では秋田の楔に成れなかったか、と福岡が溢した言葉に、平凡な工場の技師だった自分がヘッドハンティングされた理由を思い知る。

 大学時代の時点で、既に親兄弟もなく、結婚しているわけでもない秋田は、天涯孤独だった。

 そんな秋田が唯一研究室に誘った生徒は岡山しか居なかった。関係は弱いかもしれないが枷になるためにここに連れてこられたのだ。

 岡山は両親が盾に取られて初めて自分が秋田に対しての人質だったのだと思った。

 そして、秋田が居なくなった今は、唯一秋田の独自言語を読める人材なのだ。その事実があるから人質の役割を果たさ(命までは取られ)なくて済んでいる。

 でも、岡山の両親は違う。福岡は、あっさりと人質の役割を遂行させてしまうだろう。

 岡山が外に出たらそれだけで両親の命は亡くなるかもしれない。それに気付かされると岡山の決意なんてあっという間にどこかへ行ってしまった。

 余計なことは考えず、ただ課せられた仕事を果たすしか出来なかった。


 月日はあっという間に過ぎ去った。岡山は既に時間の概念は見失っていたが世間では五年近い時間が流れていた。

 その間に両親は寿命を迎え他界していたのだが、もちろん岡山に知らされる事は無かった。

 秋田は一向に見付からないまま、一つ目の教育、二つ目の複製は着々と進んでいる。三つ目の条件解除は、岡山自身前二つと変わらぬ態度で挑んでいるつもりだったが、遅々として進まなかった。無意識に心の何処かでブレーキをかけてしまっているのかもしれない。

 折しも複製に成功したその時、店舗へ出向している技術者から電話が来た。


「一度送った荷物をキャンセルしたい?」


 岡山は掠れた声でそう返しながらも首を傾げる。

 だって荷物は既に到着している。ただその時間軸が未来のため現時点では確認出来ないだけだ。

 もし。キャンセルさせる事に成功していたら、そもそも荷物はその場に残っている筈なのだ。

 電話口の技術者に考えた事を伝えてお客様に説明してもらうが、岡山の説明を繰り返しても頭に血が上ったお客様は冷静に考える事が出来ないようで「まだその日になっていないのだからキャンセル出来るでしょう」と平行線を辿っているようだ。

 フロアマネージャーの判断でひとまず時間を置いて冷静になってもらうしかないということで、タグを預かることになった。

 新しく指定された日時より前に荷物を取り戻せた場合、新しい指定日時に送りなおす。その際は一回目のキャンセルを認めてキャンセル料以外の返金を行い、改めて所定の料金を支払ってもらう。

 荷物を取り戻せなかった場合は、荷物はこちらで破棄してもいいということだ。返金は行わず通常料金をそのまま貰う。荷物の保証もしなくていいらしい。

 つまりタグをこちらで預かるだけで何もしなくても店に損失は無い。

 ちゃんと考えていればそんな事すぐに気付くだろうに、お客様はよっぽど冷静さを欠いているのだろう。

 しかし、実績を残す為、荷物を取り戻すか指定日時を変更出来ないかは調査しておく。


 案の定、岡山の予想通り調査の結果は芳しくなく、予定調和に終わった。

 そうだろうなぁと思っていた。預かったタグがチリリンという音と色の異なる三度の光を放った後、荷物が届くまでは―――。

 それは、一見何の変哲もない花束のように思えた。

 白百合がメインで全体的に白い花で纏められており、そこに小さな緑の葉がついた枝が彩りを添えている。

 変哲もない、とは言ったが些か色味が少なく、まるで死者に送るためのもののようにも見えた。

 こちらで処分していいという事だが花盛りの花束をただ捨ててしまうのは忍びなく福岡に花瓶を用意してもらう。

 青と黄色の不織布と青いリボンで束ねられていたが、不織布を解くと内側にもう一枚、無作為に破ったノートの一頁が入っていた。


「百合とかすみ草と馬酔木?この紙は?」


 立ち会っていた福岡が不思議そうにノートの切れ端を摘み上げペラペラと裏表を見ている。


「……何も書かれていませんね」

「どこかから紛れただけでしょう」

「そうですね」


 あの枝は馬酔木なのか。

 岡山が初めて名前を知った馬酔木と千切ったノートで思い出す。あの時、福岡は退室した後だったから分からないのだ。

 福岡は、岡山のただ紛れただけだろうという意見にあっさりと頷くと不織布とリボンと一緒にゴミ箱へと押し込んだ。

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