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TTS 過去からの贈り物  作者: 加藤爽子
Case 6.岡山栄治
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転職と広告

 福岡が食事やら着替えやらに気を配ってくれて、生活に何も問題が無かったためそんなにも日が経っているとは思わなかった。

 まだまだ続けたいと浮かれた気持ちで、気が付けば福岡の誘い(ヘッドハンティング)に頷いていた。


 やってしまった。


 研究所から帰宅した岡山が、預けたまま長く放置して充電を切らしてしまっていた携帯をようやく確認した時、電話もメールもその着信履歴の多さに絶句した。

 そこで初めてこの三ヶ月を後悔した。

 職場は無断欠勤、一週間を過ぎたあたりで実家からの連絡が増え、ところどころで滋賀から飲みの誘いがあり段々と心配へと変わっていく。伝言もメールも未確認のマークが大量に並ぶ。

 いっそうのこと、竜宮城から戻った浦島太郎のように自分を知る人が誰もいない時間に帰りたかった。などと、益体もないことを考えてしまった。


 まずは職場へ電話する。滋賀が訪ねてきたらしく何か事件に巻き込まれたのではないかと心配してくれた。

 正直に恩師の研究に夢中になっていた事を告げると流石に工場長も腹を立てて長い説教とともにクビを言い渡された。三ヶ月も音信不通だったのだから言い訳のしようもなく、岡山はどこか他人事のように話を聞いていた。

 電話を切った後でようやく恩人に対して申し訳ないと自分の流されやすさに後悔だけが胸を締め付ける。

 実家や滋賀にも連絡をしなければならないことは分かっているが、手が震えて怖くなる。

 今でもほとんど追い出されるように実家を出ているのに今度こそ本当に勘当されるかもしれない。

 恐る恐る実家に電話をすると母親に「無事ならそれでいい」と泣かれた。怒られるものだと思っていたから少し拍子抜けだったが、それ以上にかなりの心配を掛けたのだと衝撃を受けた。

 明日にでも失踪届を出すところだったと言われて背筋に冷たい汗が流れた。

 近いうちに一度顔を見せるように約束させられて電話を切る。

 最後に電話した滋賀には、やはり怒られ「らしい」と呆れられ最終的には笑い話にしてくれた。


 こうして岡山はTTSの技術者になった。

 大学院を卒業して十五年。それなりの月日は過ぎていたが秋田のオリジナル言語を読むのにブランクはまったく感じなかった。

 むしろ当時理解していなかったコードが面白いようにストンと入ってくる。それから五年が過ぎた頃、研究はようやく形になった。

 相変わらず即時送信は出来ないが時差を三時間まで減らすことが出来た。

 元々の目標を達成したわけでは無いので岡山としては全然喜ばしい事とは思えなかったが、福岡は大喜びで気が付けばサービスとしての形を整え店舗を構えるまでになっていた。


「宣伝を考えているのですが、確かお友達に雑誌社にお勤めの方がいましたよね?」


 福岡に言われて、そういえばTTSに転職してから携帯を職場に持ち込めないこともあり、最近は滋賀と全然飲みに行っていないな、と思った。

 ニュース的な内容が多い雑誌だから宣伝なんて載せる事は無いのではないか?、と頭を過ぎったが判断するのは滋賀の勤め先だからと考え直す。

 珍しく岡山から誘ったので滋賀はすぐに時間を作ってくれた。相変わらずのフットワークの軽さに感嘆する。


 誘ったのは岡山だったが店を決めて予約してくれたのは滋賀だった。今が旬の鯵と生ウニが食べたくなったというと魚介中心のお店に連れていってくれた。

 希望通り鯵やカツオのたたき、生ウニなどの旬の刺身盛り合わせに加えて、茹でた枝豆、焼き茄子、うざくを肴に一献傾ける。

 ほとんど手が加えられていない料理ばかりだが、それだけに素材の目利きと料理人の腕が試される。滋賀の店選びに間違いはなかった。

 しばらく会わなかったうちに皺が増えた友人の顔がアルコールで赤く染まる前に宣伝の話を切り出した。


「いいんじゃねぇの」


 十中八九、雑誌の色に合わないと断られるかと思っていたが滋賀の返答は軽いものだった。


「いいんだ?」

「広告は金さえ出せば大抵の業種は載せられるだろ」

「言われてみればそうだけど」

「でも、記事の方がいいかもな。未来に荷物を届けるなんて今までに無いサービスだから広告枠だけだと伝わらないかも」

「滋賀のところの雑誌とは毛色が違うだろう?」

「そうでも無いって。要は読者の興味が惹ける題材だったら何でもいい。まぁうちが無理なら科学雑誌でも紹介するよ」

「確かに科学雑誌なら興味持つ読者が多そうだけど、大衆紙じゃないと読者が少な過ぎるから広告にならないだろう」

「それもそうか」


 本題もそんな感じで軽く流されたと思っていたが、滋賀が岡山の勤務先である赤坂のビルに訪れたのは、それから二週間後の事だった。

 部長からインタビュー形式の記事のスペースを分捕った、と滋賀が誇らしげに胸を張る。

 福岡曰く、研究所の場所は会社との契約で明かせないが研究内容は話しても問題無いそうだ。

 ある程度システム概要を話したとしても、そもそも秋田のオリジナル言語なくして再現することは出来ないだろう、という判断だからだ。

 インタビューに答えるのは、研究の責任者である秋田ということになっているが、コミュニケーション能力に問題のある秋田だと些か不安なため、福岡と岡山も同席することになっている。

ストックがなくなってしまいました。

出来るだけ更新頻度は守りたいと思いますが、次回から不定期更新になります。

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