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TTS 過去からの贈り物  作者: 加藤爽子
Case 5.島根紘子
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I県にて 後編

 思い付いたら吉日とばかりに詳細を詰めていく。

 店員である宮城と宮崎には、素で驚いて欲しいから詳細は語らない。『迷惑を掛けると思うけど手に負えない客だと匙を投げて欲しい』とだけ伝えておくことに決めた。

 もしかしたら技術者が三年前にインタビューに来た滋賀の事を知っているかもしれないから、駄々を捏ねるのは紘子一人で行った方がいいだろう。

 もし電話で話せた場合に相手が本当に岡山だと分かるので滋賀の方が適任なのだが、記者だと知れたら岡山の身が危なくなるかもしれない。

 そこまで計画を練ったところで、滋賀がストップをかけた。


「しばらく別行動だ。担当警察官と池は任せた」

「滋賀さんはどうするんですか?」

送る荷物(ダミー)の準備でもしておくさ」


 茶化してはいるが、明らかに何か隠しているような言い草に気付いた。でも、その事を指摘させてくれない。のらりくらりとした返答をされながらも、とにかく滋賀から待機を解除されるまで実行に移すなと念を押されて頷くしかなかった。


 紘子一人で行った事件の担当者(けいさつ)の見解は部長と同じく事故寄りで目新しい情報は無いまま早々に追い出されそうになってしまう。

 遺体の第一発見者は、電話で匿名の通報があっただけで誰かなのは分かっていない、ということは何とか教えてもらえたが、やはり新米の紘子一人ではまともに相手してもらえない、と悔しさに思わず唇を噛んでしまう。

 滋賀のように虚を突く事が出来無いかと、一見関係ない話題を振ってみたりしたが相手をイライラとさせる事しか出来ず、結局は聞きたいことを真正面から訊ねるしか紘子には出来なかった。

 変わらぬ警官の態度に、ここで粘ってもあまり成果は無さそうだと見切りを付けてレンタカーで(現場)へと向かうことにした。

 車で行けるギリギリの場所まで近付くが、鬱蒼とした木々に囲まれその木々を鮮やかに映し出す鏡のように凪いだ池には、外傷も無く飛び込める程近くは無かった。

 どこか池に降りられる場所は無いかと外周をトロトロ走る。外周は荒れたアスファルトで対向車が来たら退避に避けないと躱せないくらいの狭い道だった。

 比較的広くて長い退避場所を見付けて車を停めた紘子は、滋賀から連絡が来ていないかスマホを確認する。

 滋賀からの連絡は無かったが彼氏からの返信はあった。


 朝方I県に来た時の電車の中から「しばらく忙しくて会えない」と恋人(石川)にメッセージを送っていたが、その時は反応が無かったメッセージにいつの間にか『りょ』と書かれているスタンプの返信が来ている。

 随分と淡白な返信だが向こうも勤務時間中だし、いつもの反応だ。誕生日以外はお互いを尊重する(仕事優先)というルールが二人の間にあった。

 ついこの間の紘子の誕生日に出張で会えないと連絡が有った時に、そのルールが破られこのまま自然消滅すると思っていた。こういう時素直になれない紘子は自分からは連絡もしないし会いに行くことも出来ない。もちろん、会いたいと伝えることもない。

 誕生日前に強引に預けられたタグは、兄の話を聞いて大っ嫌いになったTTSのものだと知って、思い付く限りの方法で破損させた。こんなもので誤魔化されてなるものかという意地もあった。今思うと、何であんなにもむきになってしまったのか自分でも理解出来ない。

 だけど、石川はそんな見栄と意地をあっさり飛び越え、会えないはずの誕生日当日に会いに来てくれて、しっかりと紘子の薬指に指輪を嵌めてしまったのだ。

 後日、TTSへ謝りに行く律儀な石川に、一緒に連れて行ってもらう事にした。

 初めて行ったTTSは拍子抜けするくらい普通のお店で、その時の店員さん達とまさか店の外(こんな形)で会うことになるなんて、本当に世の中何があるのか分からない。

 折角TTSの印象が悪いものでは無くなったのに、秋田や岡山の話を聞いて心がザワザワとする。

 東京に戻ったら今度はワザと騒動を起こす予定なので、TTSからしたら印象は悪いだろうな、と想像するとなんだか笑いが込み上げてくる。


 目的の池には岸辺を通る舗装された道は無い。

 一番近くまで行ける土が露出した柵の無い獣道は、立入禁止になっていた。道を阻む黒と黄色のロープは年季を感じさせ遺体の発見前から立ち入れないようになっていたようだ。

 今日、身元がニュースで出たためかロープの手前のところにまだ新しい献花が置かれていた。真っ白なユリと鮮やかな緑の葉のついた細い枝ものの組み合わせはあまり見ないので、余計に目を引いた。

 秋田は態々このロープを(くぐ)って中に入って行ったのだろうか?

 そこで黙祷をしてから場所を変えて少し離れた高台の道路から見下ろすと、水草に覆われくすんだ緑色をした小さな池の全貌が見える。

 予め警察から聞いていた情報では、岸は木が覆い被さり足場らしい足場は見当たらないので釣り人さえも来ないという。

 紘子はこれらの様子をデジカメで撮影してから、レンタカーへと戻った。


 警察の見解では、秋田は危険を報せるトラロープを越えて自分の足で池の縁へ行った、らしい。

 そこで心不全などのような症状を起こして意識を失ってから池に転落した。何か持病でもあったのだろう。


 ―――何故秋田はあの池に行ったのか?

 このままだと、その謎を残していながら事故で処理されそうだった。

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