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TTS 過去からの贈り物  作者: 加藤爽子
Case 5.島根紘子
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偶然も続けばそれは必然だ

 紘子が内線を取ると、事務の女の子から外線の連絡だった。


「滋賀さんに宮崎あかりさんという女性から電話だそうです」


 そういって受話器を滋賀に渡すと、滋賀は一瞬固まったように見えたが、すぐに動き出すとチカチカと点滅してアピールしている外線のボタンを押した。


「お待たせしました。滋賀です」


 長く喋って少しガラついた滋賀の声に気付いて、紘子はもう一度給湯室へ向かった。

 今度はホットコーヒーを二人分淹れると小さなトレイに乗せて、打ち合わせスペースへと戻る。

 紘子が戻ると電話は既に終えていた。


「今夜会うことになった。お前も来い」

「どなたですか?」

「……岡山と連絡を取りたいそうだ」

「岡山って、さっきの話の?」


 滋賀はコクリと頷く。微妙に誰なのかは説明されていないのだが、それを尋ねると「一言で説明出来ない」と素気無く返された。


「私も行くなら、尚更知っておいた方がいいんじゃないんですか?」


 説明を面倒臭がる滋賀を説得してみたが、嫌そうに顔を顰められた。

 しかし、大きく一つ溜息をつくと、紘子に座るように指示する。

 二人してコーヒーを飲みながら話したのは、十何年も前の岡山の失踪についてだった。

 今夜会う宮崎あかりは、一言で表すなら『岡山の同級生の娘』になるのだろうか。確かに一言でそう言われてしまえば、今度は何で友達の友達の娘が滋賀に連絡を取ってくるのか、となってしまう。

 確かに滋賀は三年程前のTTSの記事を書く前までは、半年に一度位の頻度ではあったが、岡山と連絡を取っていた。だが、取材の後くらいから連絡が取れないそうだ。

 ただ取材が終わって別れる際、もう連絡は取れなくなる予感はあった、と滋賀は語る。

 TTSの開発者と言われる秋田の遺体発見、現在のTTSの研究所所長へ連絡を取りたいという電話、偶然が重なったといえばそれまでだけど、こうもタイミングが合ってしまうと何かあるようにも感じる。

 それに、電話を取り次いだ時から『宮崎あかり』の名に引っかかりを感じていた。最近、どこかで聞いたことのある名前のような気がするのだ。


「「あっ!」」


 その疑問の答えが出たのは、滋賀に連れられて宮崎の家へ訪問した時だった。

 そこには二人の女性が居た。滋賀が紘子を伴ったように宮崎にも連れがいたのだ。

 一人は胸までの髪をハーフアップにしたライトグレーのカーディガン姿の女性で、もう一人はポニーテールにアイボリーの花柄ワンピースを着ていた。

 そのポニーテールの女性と紘子の声が重なった。

 紘子は、恋人の篤志と一緒に謝りに行ったTTSで、この二人と会ったことを思い出した。

 二人とも私服で髪型も店に居る時とは違っていたが、背筋をピンと伸ばした綺麗な立ち姿が印象的だ。


「石川様の…」

「婚約者の島根紘子です」


 今は私服で二人の胸に名札は無いけれど、確か今声を掛けてきた方が宮崎で、もう一人が宮城だったはずだ。

 滋賀を除く女三人がお互い誰だったのか思い出して、先程より緩んだ空気が流れた。

 またしてもTTS……偶然も続けばそれは必然だ、となにかの小説に書いてあった気がする。

 まだ何かが分かったわけでもないのだけれど、ここに来て事故ではなく事件だと言った滋賀の直感が全身に染み渡るように体が震えた。


「なんだ?知り合いだったのか?」


 まだ玄関先だったので、居間に案内されながら、滋賀がこっそり聞いてきた。


「TTSの窓口業務の人達です」

「TTSの?……おかしくないか?」

「え?」

「同じ会社に所属しているなら何で岡山に連絡取れないんだよ?」


 潜めていたはずの声はいつの間にか普通の声量になっていて、向かい側に座った二人にもしっかり届いていた。


「取り次いでもらえないんです」


 滋賀の疑問に宮城が答えた。

 そもそも営業時間中は必ず一人以上の技術者が控えているため、もし機械にトラブルがあったとしても、その場で対応してもらえるし、なにかの確認で技術部に電話するにしても掛けるのは店に常駐している技術者だ。

 技術部への電話番号は知らされていても掛ける理由が無い。そして、なんとか掛けてみても席を外しているとか伝言しておきますとか、とにかく直接話す事が出来ないのだ。

 滋賀もインタビュー以降、岡山とは連絡が取れなくなったと話す。インタビューの場所は赤坂にあるTTSの本社ビルだったので、やはり研究所の場所は知らないとのことだった。


「教授が……秋田が姿を隠したからだ」

「姿を隠したんですか?殺されたのではなく?」

「いや、遺体には外傷が無かったと言っていただろう?」

「でも、睡眠薬や毒物の可能性もありますよね?」

「宮城さんの話だと岡山を強引に確保していた。わざわざ営業所にまで迎えに来なくても、研究所もしくは本社に呼び戻すだけで良かったと思わないか?」


 強引な手段に出たという事実が秋田の予期せぬ失踪に動揺した結果だ、と滋賀はそう結論付けたのだ。

 突然の話に、窓口業務の二人は目を白黒させて混乱した。

 紘子がそのうちニュースでI県で見つかった身元不明の遺体が秋田元教授だと報道されることを説明する。

 この件は滋賀と紘子で調べるから二人にはこれまで通りにしておいて欲しいとお願いした。

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