表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TTS 過去からの贈り物  作者: 加藤爽子
Insert.宮崎あかり
15/37

ご存知で?

 TTSは他に類を見ないサービスなので興味本位で訪れるお客様は多いが、大抵は話を聞くだけで実際に利用する人は半数に満たない。

 そこそこお客が来ている割にはその馴染みのないサービス内容から実際に配送を希望される方は少ないため、利益はそんなに無いように思える。

 それに折角ご利用頂けても、送付先不明で配送出来なくてキャンセルになってしまう場合もゼロでは無かった。

 先日も、キャンセルが納得いかない、と言ってきたお客様がいたが、そう言われても機械が送らなかった以上、こちらもどうしようもなかった。

 彼女の誕生日に贈り物をしたいと懇願されても、技術者がノーと首を振ればそれまでなのだ。

 あの時はフロアマネージャーの宮城が機転を利かせて、情報チップの入っていないタグを渡してくれたのでなんとか矛先を収めてくれたし、後日、そのお客様が何をどうしたらそんなふうになるのかぐにゃぐにゃに曲がったタグを持ってきて、受取人であった彼女も一緒に頭を下げてくれたので、問題なく解決したようでホッとした。

 それに彼女の左手の薬指にはあの時の贈り物の指輪が嵌っていたので無事に渡すことも出来たようだ。

 正直なところ、自分もくじ引きでハズレを引いてしまったかのようにポンっとキャンセルになってしまって驚いたのだ。

 切々と何故贈り物をしたいのか話されて、かなり同情していたので、二人揃って来店してくれた事はとても嬉しかったし、仲睦まじい様子になんだかポカポカと胸が温かくなった。

 二人が帰った後に宮城も「キャンセルになった結果を律儀に報告に来てくれた人は初めてだわ」と驚いていた。


 荷物の内容物のチェックは、機械を操作する技術者と共に二人以上ですることになっている。

 そもそも高価な指輪ならキャンセル対象となる可能性もあった。物が大量で何年も先の未来に送っていたら、相場により国内の経済に変化をもたらしていたかもしれないし、盗品かもしれない、という事も考慮しなければならなかった。

 企業として犯罪に加担する事態は避けなければならないからだと研修で習った。

 あのお客様の場合は、二日先という期間の短さと送る指輪が一つだけなので、問題にはならなかっただけなのだ。


 そんな収益にならない(キャンセル)事例も僅かとはいえ発生するのに、この店舗には十人もの接客担当を雇っている。更に少なくとも三人の技術担当もいた。

 店自体はお正月以外に連休は無く火曜日が定休日だったが、従業員は完全週休二日制なので、店舗内に全員が揃うことは無い。けれど最低限接客三人に技術一人の合計四人は常駐するようになっている。技術は午前、午後で交代することが多いようだ。接客はちょうど三人にしてしまうと昼休みも取れなくなってしまうので四人以上がシフトされている。

 都内で土地も高いだろうこの店であかりが知る限りで十三人も雇える程の利益があるのだろうか?と疑問に思わないでもない。

 まだ新人のあかりには実感がないが、更にこの店舗以外にも研究所が存在しているようなので、そこには店舗には来ていない技術者もいるはずだ。

 でも、お給料は問題なく出ているし、テレビCMも流しているし、赤字という感じもしなかった。


 就職から一年が過ぎて、再び父親のことは忘れかけていた頃、ふいにフロアマネージャーの宮城の口からその名前が出たのだ。


「岡山所長はお元気?もう現場には出てこないのかしら?」

「……所長をご存知で?」

「私が入社した頃はこの店の技術担当だったのよ。今みたいに交代要員もいなかったからいつもお弁当を持ってきていたわ」

「そうですか。元気ですよ」


 宮城に声を掛けられた技術者はボソボソと答えている。接客担当の一人が昼休憩に入り、もう一人が化粧室へ行って、お客様もいない昼の時間、最低限の人数を割って三人になってしまった店内で、その会話がされたのだ。

 確かに岡山という名が聞こえてきてあかりの心臓がドキリと音を立てた。

 三年近く前に滋賀から聞いた名前だ。そういえば滋賀は、岡山をTTSの技術者だと言っていたはずだ。

 もっと話を聞きたかったが、二人の会話はソレっきりで化粧室から同僚も戻ってきた事もあり、たったそれだけのやり取りしか聞くことは出来なかった。

 あかりはどうしても岡山の話を聞ききたくなって、仕事中もチラチラと宮城の姿を追ってしまう。

 目敏い上司がそれに気付かないわけがなかった。本日の業務が終了すると、宮城に晩御飯を誘われた。もちろん渡りに舟と言わんばかりに勢いよく肯いて了承する。


「仕事には慣れた?」


 ボックス席の入口をカーテンで区切るだけの簡易な個室の居酒屋で向かい合って座ると、宮城はそう切り出した。

 どうやら、昼の時間以降、あかりの顔にはデカデカと『知りたい』と書かれていたらしく、仕事の相談があると思われたようだ。

 でも、宮城を前にして、あかりはどう切り出すのか悩んでしまう。率直に「岡山さんの話を聞きたいです」と言っても、「岡山さんってお父さんかもしれないんです」と関係性を示しても、なんだか唐突な気がしたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ