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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 奸計貴族の国ロアナ【前半】
98/143

雑音

※台詞が多めで、文章ざっくりしてます(陳謝)




「君の一件が終われば、サマラフはリュイ殿と結婚する」


「!」


「だが、困ったことに、彼は君を憐れんで気にかけているようだ」


「ッ……」


 エリカの表情に微かな動揺を垣間見たユマは、目で卑しく笑う。

 なるほど、この娘は叶うはずのない特別な感情をロアナの大使に抱いているのだと察し、扇子に力を込め、視線を逸らさせないようにさらに顎を持ち上げて顔を上に向かせた。



「そこで提案がある」


「提案?」


「サマラフの心の片隅にずっと棲み続ける方法だ」


「?」


「まあ、私の好みから遠くかけ離れているけど、我がロアナの側室に君が入ればいい」


「なッ……」


 馬鹿げた話に、エリカは開いた口が塞がらなかった。

 気を引くために他者の所有物になり、想いを受け入れなかった相手に罪悪感を植え付けようとする行為は、男女の駆け引きにおいて必ずしも効果的とは言いがたいが、サマラフの性格を思うと試す価値はある。


「アルデバランの娘は象徴として役に立つ。アイネスからの保護と、争いから離れた人形らしい安定した生活、その二つをロアナは約束しよう。即決してくれて構わないよ?」


 悪意に満ちた嘲笑を向けられたエリカは悲しみと怒りを覚えて拳を作り、かたく握り締めて、肩を微かに震わせた。


(この人にとって、サマラフは道具でしかない。リュイさんの気持ちも都合が良いように利用している)


 エリカは自分が蔑ろにされたことより、ユマが権力を使って人を思い通りに縛り付けてることに憤りを感じた。

 顎に力を加え、ぐぐぐ……と強引に扇子を下げて「お断りします」と言い返しかけたが。



「いやぁ、迷路みたいで困りますなぁ!」


「!」


 能天気、否、剽軽と言うべきか。陽気な声で登場した男レッドエルフに、ユマは眉間に皺を寄せて不快感を表した。


 十二糸のゼアーー。彼はエリカの横に立ち、下から覗き込むようにユマの顔を見上げ、挑発的な笑みを浮かべる。


「来客の気持ちを汲んで、城の構造をもっと単純化してくれませんかねぇ?うちのお姫さんが安心できるくらいには」


 下品な物を見る目でユマは睨み返し、扇子を懐へ戻すと、


「…………興が削がれた」


 背中を向けて逃げるように立ち去った。遠退く足音には、静かな怒りが込められている。



 厄介な人物が居なくなったことで、ゼアは溜め息を吐いた。


「おっかねー奴に捕まってんなよ、お嬢ちゃ……。うわ!」


 ユマにまともに言い返せなかったのが悔しくて涙を落としているエリカに、ゼアは慌てる。


「泣くなよ!オレ様が泣かせたみたいじゃねーか!」


「あなたが王様に言ったんですか?私が何者か」


「はぁ?」


「無関係ならいいです」


 エリカはワンピースの袖で涙を拭う。

 彼女の素っ気ない返しに、ゼアは、半ば呆れ混じりの笑みを浮かべた。



「此処の空気はオレたちと相性が悪すぎる。外へ出るぞ」





 二人は城外に出た。エリカはサマラフの自宅へ戻る途中にある、噴水が見える広場へ寄り道され、「少し話すか」とゼアに言われるがままベンチに座る。


「旅をしてるあいだにオレ様たち十二糸が苦労性っつうの、ちっとはわかってくれたかよ?国を救ったってのに、歓迎されねぇんだよなぁ」


 エリカは前方にある噴水を無言で見つめて数秒後、微かに沈んだ声で話す。


「あなたのことはわかりませんが、ロアナにおけるサマラフの立場や扱われ方があまり良くないのは理解できました」


 ゼアは半眼になり、エリカが居る方向とは反対のほうへ首を傾げて口端を下げる。


「理解?そいつは誤解だな」


 エリカが不思議そうに、ゼアの顔を見る。


「本人はわかってて、ユマっちの最低条件を受け入れてるんだよ」


「どうして?」


「何かを成すには権力や金が要る。自分自身を守るのも、人助けのために肩書きで人を動かすこともな。お嬢ちゃんが思ってる以上に、彼奴は手に入れた身分を大事にしている、何処にでも居る男なんだよ」


 エリカには、俄かに信じがたい言葉だった。サマラフが身分に固執してるようには見えない。

 道中、彼が人助けに成功したのは、困ってる人を放っておけない他者を思う優しい気持ちと正義感で行動に出た結果だったはずで、大使の肩書きは時に役立ったが、それが無くても自発的に動いて信用もされる男だとエリカは信じている。



「……。そういえば、あなたはリュイさんのお供か何かですか?」



(此処で身バレすんのもなぁ)


 ゼアは仕方なく、簡潔に話す。


「オレ様は十二糸に選ばれる前から砂漠の国チャイソンに雇われてて、好き勝手させて貰ってるんだわ。今回はパーティーの護衛さ。

 つーかよ、お姫さんから青褪めた顔でお嬢ちゃんを助けてくれって縋り付かれたから、助けて恩を売ってやったんだぜ?感謝しろよ?」


「はい。有難う、ございました」


「しかしまぁ、お嬢ちゃん、よくまぁロアナに来れたよな。サマラフが許可したのか?」


 けらけら笑うゼアにエリカは懸念を示す。


「どういう意味ですか?」


 想定していなかった反応に、ゼアは神妙な顔をした。


(何も聞かされてないのか。ま、そうじゃなきゃ城に入りはしないな。ったく、サマラフの野郎、過保護にしやがって)


「叔父さんや王様がサマラフを良く思っていないのは、わかりましたけど」


「あの嫌味ったらしいオジサマね。オレ様も馬鹿にされたことがある」


「酷いですよね、あの人」


「けど、お嬢ちゃんはなんで酷いかまでは聞かされてないだろ?」


「はい」



「オジサマの娘が、サマラフのせいで亡くなったのさ」



 ゼアは詳細を話せなかった。エリカの両親が何者か知らず見過ごしたせいで巻き込まれ、死んだとは。



 いずれエリカもあとを追う。此処で真実を聞かせて、新たな不幸を無理に背負わせることはない。



 言えない。

 それはゼアなりの、真実を知らないエリカに抱いた良心の呵責だった。


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