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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 奸計貴族の国ロアナ【前半】
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秘む花に薄陽

※やや台詞多めです(陳謝)




 エリカたち三人はこれから、ヘルバード家の周辺を散歩しに行こうと玄関に向かって歩を進めていたが、あと数歩のところで扉をノックする音が屋内に響き、足を止める。



「ごめんください」



 外から聴こえてきたのは、エリカより年齢が若めに聴こえる、女の可愛いらしい声。

 メイベは何気なく、普段通りに扉を開けた。


「はい。!」


 ロアナでは珍しい型の衣服を着た女が、可憐な花のような笑みを浮かべて立っていた。彼女の雰囲気が甘めに感じるのは、耳朶の下まで伸ばしたピンク色の髪がそうさせているのもある。


「ご機嫌よう、メイベ。サマラフ様がご帰宅になったと聞いて伺ったのですが?」


「ひと足、遅かったですね。ご主人様は国王様のもとへ、挨拶しに登城しました」


「あら?入れ違いになってしまわれたの。驚かせるつもりが失敗したわ。どうしましょう」


 女は残念がったが、此方を見ているエリカたちと目が合い、気持ちを切り替える。


「メイベ。此方にいらっしゃる方々は?」


「ご主人様と旅をなさっているお客様です」


「突然の不躾でとても申し訳ないのだけれど、どなたかお一人、城内まで付き添ってくださらないかしら?わたくしだけでは心許なくて」


「お供の方は?」


「遊びに行かせてますの。居ないほうが、サマラフ様のご気分が良いでしょう?」


「お気遣い、有難うございます」


 メイベは苦笑いを零したい気持ちを抑えて感謝を述べると、ゆっくりした動作でエリカたちを見た。


「エリカ様。長旅でお疲れでしたら無理強いは致しませんが、見習い侍女のフリをしてのご同行、お願いできますか?」


「私が?ですか?」


「はい。ロアナの国王ユマ様は、エルフのことをあまりお好きではありません」


「拙者では駄目でござるか?」とカニヴは自薦したが、メイベは首を横に振る。


「申し訳ございません……。カニヴ様の容姿と言葉尻りだと、護衛でないのがバレやすいでしょう?肌の色が近くて年齢も似てそうなエリカ様が、一番適しておられると思います」


 ピンク色の髪の女は、うんうんと相槌を打った。


「わたくしとしても、同性の方が好ましいです」


 エリカはセティナとカニヴの顔を見て、反対意見が無いのを確認。


「えっと……。それじゃあ、よろしくお願いします」


 承諾して貰えたことに対し、女は心から嬉しそうに、にこっと笑った。


「引き受けてくださって有難うございます。わたくしの名前はリュイ。此方こそ、よろしくお願い致しますわ」


 エリカはメイベに「どうぞお気をつけて」と言われながら外へ送り出される。



「リュイさん」


「そのように呼んでくださる方は久しぶりです。嬉しいですわ」


「普段は違うの?」


「はい。敬称が付きます」


 歩き始めたリュイの斜め後ろを、エリカは付いて歩く。



「じゃあ、リュイさんはサマラフみたいに、何か偉いことをしてる人なんだ?」


「わたくしなど、あの御方の足元にも及びませんわ。あらゆる物を人から受け継いだだけで、功績など、とても。できることをしてる程度で立派とは、自身の口からは恥ずかしくて言えません」



(建前では無さそう)


 エリカが気を遣ってどう返せばいいか言葉に迷っているのをリュイは察し、話題を変える。


「そういえば、エリカさんは何処の国からおいでになられたのですか?」


「イ国だよ」


 バーカーウェンは離島だが、イ国の支援を受けて管理されてる一面を思うと間違えてはいない。



「まあ素敵っ」


 リュイは目を輝かせ、歩く速度を落としてエリカの横に並び、捲し立てるように早口で話し始める。


「此処だけの話、リュイはロアナの建国パーティーが嫌いではありませんけれど、イ国の舞踏会のほうが大好きですわ。優雅な演奏が流れるなか、参加者たちに混じって殿方と踊れますのご存じ?三年に一度しか開かれないのが非常に残念極まりないです。一年に一度でも二度でもリュイは構いませんのに」


「……」


「リュイは舞踏会の日が近付くと、お肌の手入れに踊りの練習は欠かせません。楽しみで楽しみで仕方ないのです」


 リュイは途中でハッ!と気付き、自分の頬に両手を当て、暴走気味に饒舌になったのを恥じらった。


「あらやだ、人前で()()()()()。気持ちが弾んでしまって、つい、一人称が」


 エリカは人当たりの良い笑みを浮かべる。


「ううん、全然いいよ。堅苦しくされるよりは気楽で安心する」


「サマラフ様やお連れの方々とは、あまり上手く行ってませんの?」


「行ってるよ。でも時々、みんな大人で羨ましくなる。私は冒険初心者で、パーティを組むの初めてで。未熟さを痛感するの」


「わかりますわ。自分なりに懸命に努力をしてるつもりですのに、先を行く方々には追い付けなくて。頑張っても埋めれないものがありますわよね」


 相手は出会って間もない人物だが、エリカは共感して貰えたことで胸の痞えがほんの少し取れた気がした。


「リュイさんと話せて良かった」


「そのように言って貰えて嬉しいです」


 

(…………ところで、リュイさんはサマラフの女友達?って、初対面で訊くのは失礼だよね。サマラフは恋人と別れたって言ってたから、二股じゃないはず。そんな器用なことできる男の人に見えないもん)


 元恋人イセは、はっきり物を言う、自信に溢れていそうな人物だった。サマラフの好みに容姿も含まれているなら、エリカやリュイとは胸の大きさやくびれ具合いも対照的だ。髪の長さも。



(エリカさんから見ても、サマラフ様は素敵な殿方でいらっしゃるでしょう?と尋ねたいのですが、リュイ一人舞い上がったところでイセ様の存在には敵いませんし……)


 二人揃って、一人の男について訊くにも訊けず状態。隣りを歩く相手にバレないように、脳内で、はあ、と深い溜め息を吐く。


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