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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 奸計貴族の国ロアナ【前半】
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異存




「此処だ」


 サマラフは、自宅の門前までエリカたちを連れてきた。

 人々が行き交う大通りに、二階建ての民家。門は小さく、塀は低め。人目につきやすい場所ゆえ、誰が訪ねてきたのか、周辺を通りかかった者はすぐにわかる。



 カニヴは右手を軒にし、建物を仰ぎ見た。


「貴族の住居にしては、外観が大人しいほうでござるな。薄給ではないでござろ?」


 大使という身分や織人事件の功績を考えると、目の前にある敷地の広さや平凡さは、どうも不相応に感じる。

 奇妙に思われるのを予想していたサマラフは控えめに、はは、と笑った。


「俺は贅沢な暮らしを望んだことが無ければ、客を自宅に招待して歓談する趣味も無い。庭も、洗濯物を干せる程度だ」


 家の主人であるサマラフが玄関の扉を開いてなかに入ると、肩まで伸ばした薄黄色い髪を後ろで一つの束にした一人の若い青年が、此方に背中を向けて立っていた。

 青年は疾しさがあるとも慎重とも受け取れるぎこちない動作で振り返り、頼りなさげな声で主を迎える。


「ご主人様、お帰りなさいませ」


「留守のあいだ、変わったことは無かったか?」


「……それが……」


「?」来客である三人は顔を見合わせた。青年の顔立ちは元々冴えないが、より深刻そうに見えてしまう。


 サマラフは、やや怪訝な表情をした。


「何かあったんだな?」


 青年が肯定するより早く、挑発的な薄い笑みを浮かべた中高年の男が、奥から姿を現す。


「やっと戻ったか。おまえがパーティーに間に合わなかったら、私の面子が潰れていたよ」


 実際は大して経過していないのに、サマラフのなかでは数秒間、時間が止まった気がした。

 フィノ・メメル・タリに入ってから此処へ来るまでの道中、民に何を言われても流していたが、



「叔父様、お越しになっていたのですね」


「来ると困るのか?」


「いいえ」



 二人のあいだに流れる険悪な空気。

 サマラフの叔父は、エリカたちをジロジロ見る。


「ふむ。豪傑と名高いレッドエルフに、貧相な顔立ちをした男。そちらの小汚い格好をしたお嬢さんは、冒険者ごっこに付き合わされてるのかな?」


 胡散臭い笑顔で近寄って顔をぬっと覗き込んできた叔父にエリカは警戒し、セティナの後ろへさっと引っ込む。

 小動物のような反応に、サマラフの叔父は笑い声をあげた。


「はははッ。怖がらせてしまったか」


 仲間を愚弄されたことに腹を立てたサマラフはセティナの前に立ち、叔父を睨み付ける。


「叔父様、彼らは私の大切な仲間です。侮辱は勿論、品定めをするなど失礼が過ぎます。彼らに謝罪してください」


「何が無礼なものか。おまえはヘルバード家の誇りを背負った男。私から見れば、可愛い甥だ。だから助言している」


 叔父は右手の人差し指で、サマラフの上半身を押す。


「奴隷なり家来にするのは自由だが、家名に泥を塗らない努力は怠るな。わかったな?」



 尊大な態度を始終変えなかった叔父は「帰る」と言い、青年に扉を開けさせて屋外へ出た。

 帰宅して早々、嫌な出迎えを受けたサマラフは、苦い表情で三人に謝罪する。


「不快な目に遭わせてすまない。やはり、一人で帰るべきだった」


 セティナは首を左右に振る。


「あのまま儂らのみ共和国で滞在するわけにはいかぬし、エリカを守りながらアイネスを無事に抜けれるか怪しかった。オリキスとやらが関与しておるシュノーブへ着いたところで、あそこは二糸も居るのじゃ。奴らが絡んでくれば、おんし抜きで太刀打ちはできんぞ」


 責めを食らったサマラフは表情を曇らせる。



「ご主人様」


 先ほどから居る青年が、遠慮がちに声をかけてきた。


「王に拝謁を済ませてから来ましたか?」


 うっかり忘れていたサマラフは、しまったと思い、右手で自分の顔を覆う。


「帰宅早々、落ち着かないな」


「申し訳ございません。促すのも、わたくしの仕事ですから」


「わかってる、おまえは悪くないよ。

 メイベ、彼らは俺の仲間だ。パーティーが終わって出発するまでのあいだ、うちで預かる。丁重におもてなしをしてくれ」


「畏まりました」


「彼らに風呂と、それから衣服を」


「はい。ご主人様、本日のお食事は如何なさいますか?」


「俺は……」



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