独り
サマラフは、エリカたち三人を自宅へと道案内する。
道中、
「坊っちゃま、お帰りなさい」
「なんだ、放浪は終わったのか?」と声をかけてくる気安い者も居れば、
「英雄も時代が終われば不要だのう」と皮肉を言う者、なかには「税金泥棒めが」と、すれ違い様に憎たらしく口に出す者も居るが、フィノ・メメル・タリの環境に慣れてるサマラフは誰に何を言われても、嫌な顔を一切しなかった。困り顔で微苦笑を浮かべる程度だ。
代わりに、カニヴが鋭い目で相手を睨み付けて返す。それに対して微かに怯む者、ふんっとそっぽを向く者、反応は様々だった。
サマラフの隣りを歩いてるエリカは、
「なんで、あんな酷い言い方できるんだろ」
と、不機嫌な顔をする。
イ国のスフ王のもとで円環騎士を務めていたセティナは、サマラフ同様、何も思っていない。
「儂らには、バーカーウェンは天国に近しい場所に聴こえる。血生臭さや悪しき因習が無いのじゃろ?分断や大きな諍いも起きたことが無さそうじゃが」
「無いけど……。だからって、何もしてない相手に、一方的に暴言を吐いていい理由になるの?」
喧嘩して治らなかったときは、誰かが言葉で注意する。それでも終わりそうにない場合、仲裁してくれそうな人にあいだに入って貰って、当事者が互いに納得できる道を探るのがバーカーウェンの決まりだ。
サマラフは口元に小さな笑みを浮かべ、説き伏せるように、エリカに話しかけた。
「君のおかげで、俺たちだけでも気持ちが救われてる。有難う」
エリカの耳には、本心とも、はぐらかされたようにも聞こえた。三人はいつだって優しく、物の見方や言うことが大人だ。何処かで区切りを付けて柔軟に割り切る。
ただ一人、エリカは違った。頑張って背伸びしても同じ目線になれない気がする自分を子どもに思えて、付いて行けなくて、時々惨めな気持ちになる。戦いの場でも経験の差を感じてきた。
それでも最終的には彼らを信じ、不納得だろうと表面的に受け入れることにするのは、パーティのなかで一番歳下であり、未熟者だから理解に至らないのだと卑屈に考えてるからだ。