日陰を覗く【2024.09.02 挿し絵1枚追加】
※作者である私の体調の関係で、此処から先は話を思いっ切りすっ飛ばしたり、さらに虫食い状態が増えます。申し訳ございません。
エリカはいま、イ国で出会った魔法剣士サマラフ、忍ノノビ族の男カニヴ、女レッドエルフのセティナとともに旅をしている。
道中はサマラフの用事で、軍事国家のアルバネヒト、栄冠学問都市のウォンゴットにも行ってみたが、両親に関する手がかりは何も入手できず。
今後、進展があるとすれば……。
(もう少しで、オリキスさんに会える)
これから入国するロアナではサマラフの職務権限を使って、天牢の雪国シュノーブへ向かう船便を利用できる。直行便だ。
しかし、再会したところで、呪いを解く方法がオリキスの希望に添えなかった場合、エリカは逆鱗に触れてしまわないか心配が過る。
バーカーウェンに居た頃、握ってる心の手を前触れなくすっと離せる彼の自分本位な冷たさに気持ちを振り回され、「嫌わないで」と涙ながらに伝えるくらい、日常化された部分を切り離されて寂しかった。孤独だった空白部分を満たしてくれる温もりに癒やされ、甘えたせいとも言える。
サマラフに想いが傾くようになってからは、その寂しさが薄れ、逞しくなった。
もう一つ成長したのは、「嫌わないで」と「好きになってほしい」は似て非なるものだと知ったことだ。二つとも相手に求めているのに、根本にある感情の種類が異なる。
*
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「何回、言わせりゃ気が済むんだ。高い船代を出してダーバまで遠回りなんざ、やってられっかよ!」
国境を封鎖するよう命じられてる若い警備兵二人は、行商人の男に不満をぶつけられ、内心うんざりしていた。凶悪な魔物が棲みついてしまって危険だからと、顔も年齢も出身もばらばらの入山希望者を相手に説明するのは今日の朝だけで、これで何十回目か覚えていない。
「我々は国王陛下から、何者であろうが決して通すなと命じられてる。あんたも魔物の腹んなかに入りたくなければ、引き返すか船を利用してくれ」
行商人の男は、警備兵の後方を指差した。
「じゃあ、彼奴らは何だよ」
「そんな子ども騙しは喰らわんぞ」
と、言いつつ、警備兵のうち一人は何気なく振り向いてみた。
次の瞬間、驚愕に変わる。
「サマラフ様!」
エリカたち四人は、ダーバ共和国の背後にそびえる険しい山岳を越えて、ロアナの麓にある町マゼンダに到着した。ついでに、凶悪な魔物も退治して。
警備兵の一人がサマラフから事情を聞いてるあいだに一人は慌てて監視塔へ行き、大きな椅子に座って欠伸をする大柄の男に向かって「隊長、早く外へお出になってください!大使様がお戻りになりました!」と、大声を響かせた。
報告を受けた隊長が、塔から出てくる。
大きな筆で描かせたような太眉に、爛々とした瞳が特徴で、顔が濃ゆくてがたいが良い。
彼は一回り歳下のサマラフを見て「おぉっ」と感動を口にし、駆け寄って距離を詰めるなり、真正面からがしっと力強く抱き締めて体を持ち上げた。
「いやぁ、お元気そうで何よりです!連絡がまったくなかったので、どうなさったのか心配しておりました!」
手厚すぎる歓迎に、サマラフは苦笑いを浮かべる。
「す、すまなかったソガイ。すまない、ちょっと、苦しい」
「ははははは、喜びすぎてしまいました!」
ソガイと呼ばれた男は体を降ろし、解放した。
サマラフはやれやれと溜め息を吐き、気を取り直して率直に用件を伝える。
「王へ帰国したとの通達を頼む」
「畏まりました。ディエバ!」
名前を呼ばれた男兵士は頷いて颯爽と馬に跨り、先に首都を目指して駆けた。
サマラフはソガイに皮肉を言う。
「民の死活問題に関わるのに、ロアナは魔物退治しないのか?連絡の一つも寄越さないって、ダーバの役人がぼやいていたぞ」
「でしょうな」
ソガイの返事に、カニヴとエリカは目を瞬きさせた。
「パーティーに出席なさるお客人たちの警護に、人員を費やしておりまして。商人も国民も山がダメなら海を使えばいいと上は考えておいでです」
「呆れた話だ。俺を呼び戻すなら、せめてこの男は通せと言っておいてくれてもいいだろうに」
サマラフの軽口に、ソガイは大声で笑う。
「ははははははっ。王のことです、卿が勝手に解決すると思ったのでしょう」
「それを人任せと言うんだ」