難所の入口
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エリカたちはダーバ共和国を通過するだけと思い、街の奥にある山道の入口を目指して一直線に向かったが、封鎖されてるのを見て立ち止まり、顔を見合す。
パーティの代表として、サマラフは道を塞ぐように立っている警士のうち一人に声をかけた。
「急遽、ロアナへ戻らなければいけない。通してくれ」
無愛想な警士は、彼が襟に付けているバッジを一瞥。
「なんだ。成り上がりの大使様か」と、見下した物言いをしてから説明に入る。
「本道は崖崩れが発生中だ。通行は許可できない」
「迂回路ならいいだろ?」
「無理だ」
警士はサマラフが怪訝な表情をするのを見て口端を下げ、何も知らないのかと言いたそうに、ふんっと鼻息を出した。
「迂回路には、数日前から暴君の蠍の子どもが三体棲みついてる。我々ダーバの側では手に負えない。完全にお手上げだ」
相手が何をさせたいのか察したサマラフは、微苦笑を浮かべた。
「頭を下げるのが嫌ってことだな?」
「話が早くて助かる。だが、あんたらを勝手に入山させることはできない。役所に行き、許可証を貰ってから出直してくれ」
「わかった。なるべく早く来れるよう努める」
サマラフは奥歯に物が挟まったような返事をしてエリカたちに「行くぞ」と声をかけ、来た道を戻ることに。
「……参ったな」
伝令に帰還を命じられ、既に数日が過ぎている。これ以上日にちを空ければ命令違反となり、旅費を減額され、移動できる距離を制限されてしまう。最悪、謹慎処分を喰らうことも有り得る。
エリカは、右側を歩くサマラフの顔を見上げて訊ねた。
「暴君の蠍って、どんな魔物?」
「崖の斜面に棲息する魔物だ。安物の鉄剣なら簡単に噛み砕ける強靭な顎と、離れた場所からでも敵の存在を感知しやすい触覚が特徴だな。地面や壁にぴたっと張り付ける上に硬いし、且つ動きが素早い」
「なんだか手強そう」
「作戦を練って装備品を整えたら、何とかなるさ」
「ーー妙な話じゃな」
「?」
エリカの後ろを歩いてるセティナが疑問を口にした。
「暴君の蠍は、クダラの離島に居るはずじゃぞ?」
彼女の右側を歩くカニヴは不思議に思い、
「親と離れて遠方まで来たものの帰れず、棲みついたのでござろうか?」
と、言った。本気で、そうは思っていない。適当な臆測だ。
だが、エリカは暴君の蠍の子どもに、ほんの少し同情した。
「だったら、可哀想」
サマラフは半ば呆れた風にツッコむ。
「憐れんでいたら喰われるぞ?」
「……ッ!?」
エリカは思いっきり、首を左右に振る。
「嫌っ。絶対に嫌!」
カニヴは二人のやり取りを見て、(平和でござるな)と思った。