陰翳を待つ者たち
【※1頁分、省いております】
下記、飛ばした分のあらすじです。
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侍女の格好をした若い娘ピピィに声をかけられたエリカは、二手に分かれて黒髪の少女を捜すことに。
路地裏に入って無事発見するも、空き巣行為に及ぼうとしていたのを咎められた市民のうち一人が、その場で少女を誘拐。
エリカは跡を追いかけ、攫った男を袋小路に追い込んだが……。
「!?」
男は肩に担いでる少女の顔にナイフの先を向けていたが、エリカの後方から聴こえてくる複数の足音の主たちの姿が見えてきた途端、怯んだ表情になった。
エリカは金に染まった瞳の色を元の色へスッと戻し、後ろを振り返る。
アルバネヒトの兵士が八人。それを率いて現れたのは、エリカより二歳ほど歳上に映る顔立ちの、等級が異なる兵服を着た青年。川の深い場所を連想させる青緑色の髪はくりんくりんの癖っ毛が特徴で、顔にはそばかすが少し。左耳には赤いピアスが付いてる。
青年は、少女を肩に担いでる男の顔を、真っ直ぐ見据えた。
「あなたの言いわけは後ほど、ゆっくり聴かせて貰います。降参、してくれますよね?」
「ッ……」
複数名に対して味方は0。男は観念してナイフを投げ捨てると、少女を地面の上に、丁重に降ろして両手を挙げた。
青年は待機している兵士たちに命令する。
「捕えてください。身柄は留置所へ」
「はっ!」
兵士三人が男を取り押さえてるあいだに少女はエリカの所まで歩いて戻ってきたが、状況に不満なのか、悔しさと怒りを混ぜた表情をし、拳をかたく握り締める。
感情の矛先はエリカにではなく、
「アーシュ様、お怪我はございませんか?」
距離を置いて気にかけてくる、この青年に向けてだ。
「アー様!ご無事で!」
後方から新たに飛んできたのは、険悪になりかけた雰囲気を切り割くような若い娘の声ーー。侍女のピピィだった。
安否を確認した彼女は半泣きの顔で少女に駆け寄ると、真正面から少女を抱き締めた。
「目を離した隙にいきなり城外へ出るのは心臓に悪いから、やめてくださいよぉ〜〜!!アイネスの野蛮な兵士がうろついているのにっ!怖かったんですよ!?」
「そちらにいらっしゃるお姉様が助けてくれたわ」
「!」
ピピィはエリカの存在にようやく気付き、冷静さを取り戻した。
「アー様。私、この方とは先ほど、路上でお会いしてます」
視線を集めたエリカは眉尻を下げて、困った風な笑みを浮かべた。
「えぇと……。助けたのは私じゃなく、兵士さんたちです」
ピピィは青年の顔をジト目で見、唇を尖らせた。
「なぁんだ、あんたたちの手柄なの」
貶された青年は反論せず、微苦笑を浮かべるだけにした。兵士の一人が「侍女風情が生意気だぞ!」と怒りの言葉をぶつけたが、ピピィは、ふんっと鼻で笑い返す。
「どうせなら、サマラフ大使のほうがマシだったわ」
「何だと!?」
エリカは仲間であるはずの兵士に向かって「べーっ」と舌を出して煽るピピィを見、(私、この人と性格合わないかも)と、苦手意識を持った。話が丸く収まりそうにない。
少女は、居心地悪そうに口元に笑みを張り付けて黙っているエリカの顔を、澄ました表情で見上げた。
「お姉様。ピピィから、わたくしのことを聴いたの?」
「歩いてたら、黒髪の女の子を見かけなかったか訊かれて。それで、捜すの協力しますって流れに」
「ピピィでも役に立つときは立つのね」
皮肉のようで、実は褒め言葉であるのを知ってるピピィは誇らしげに笑んで敬礼。元気よく「はいッ!」と返事をした。少女はにこりと笑わず、澄まし顔のままだ。
「お姉様がわたくしを捜したり、庇ったり追ってくださったのは真実よ。謙遜なさらないで」
「あはは……。謙遜ではなく、事実だよ」
「城にお招きして何か御礼をしたいわ。ご予定は空いてるかしら?」
「ごめんね。私、宿屋に帰らなくちゃいけないの」
「客室なら余ってるわ」
「またの機会なら」
「……、残念ね。明日は?」
「出発して居ないかも」
「いつでもいいから、会いたくなったら城をお訪ねになって。わたくしの名前はアーシュクレイン=アルスダーク」
(!)
エリカは老婆が話してくれた、アルバネヒトの国王の名前を思い出した。
だからといって、今更態度を変えられることを、少女本人は望んでなさそうに見える。
「私はエリカ」
アーシュクレインから右手を差し出された彼女は、右手を出し返し、握手を交わした。
「またね、エリカお姉様」
「うん、またね」
アーシュクレインは手を離すと青年の横を通りすぎる際、エリカにも聴こえるよう、恨みを込めた声で言う。
「裏切り者」
そして、ピピィと兵士たちに護衛されて帰って行く。
青年は微かに陰鬱そうな目をしたが、エリカの顔を見て、敬い込めた一礼を送る。
「アーシュ様を助けてくださって、有難うございました。僕はアルバネヒトの歩兵、名をコフォン=ハミリヤと申します」
王女が睨んだ理由が何処にあるのか不思議なくらい、とても健全そうに映る。
「私の名前は……、」
「エリカさんですね」
「はい」
ただニコッとし合うだけで、互いに第一印象(良い人そう)と判断。ほんの少しだが、和やかな雰囲気になりつつある。