残光を消した空蝉の
【パーティメンバー】
エリカ……アルデバランの娘(普通?の二十歳)
サマラフ……魔法剣士(ややお節介で真面目?)
カニヴ……忍ノノビ族(たまに剽軽な賑やか担当)
セティナ……レッドエルフ(冷静。口調が老女)
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イ国の北部にある関所を抜けると運河橋が見える。これを渡った先に在るのが、通称「東国」と呼ばれている軍事国家アルバネヒト。白兵戦に長けた兵士が多いことで知られている大国だ。
国王フェルディナンが崩御し、魔法軍事国家アイネスの支配下に置かれてからは、新たな王を据える代わりにアルバネヒトの大臣リアンスキー公が執政をおこなうようになり、内政は悪路を辿っている。
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エリカたちは首都ラバン•ラームへ寄った。サマラフはゼア以外の十二糸たちに、アルデバランの娘について顔も容姿もバレていないはずと思い、一泊二日なら大丈夫だろうと判断したのだった。
(権威の崩壊……か)
サマラフはエリカたちに単独行動を許可。自分は城の門前で退屈そうに突っ立っている番兵に話しかけ、ある人物といまから話ができないか訊ねた。
番兵は「此処でお待ちください」と言って持ち場を離れ、ゆったりした歩調で呼びに行く。
通常であれば、近くに居るほかの兵士に頼んで持ち場を守るか交替すべきのところ、そのようにしないのは、何処からも、何者からも、新たに攻め込まれる恐れが無いことの表れだった。
(……静かな、寂しい雰囲気になったな)
アルバネヒトの兵士は誇りも強い意思も、すべてアイネスに取り上げられてしまった。
数年前、フェルディナンの兄が織人を継承後は、一時期、内乱が起きたが、絶望的だったあの頃のほうが瞳に熱さや希望を宿した者が多かったことを、介入者だったサマラフは思い出す。
「サマラフ卿」
暫く待っていると、名前を呼ばれた彼よりも頭一つ分背の高い、前髪を左に大きく分けた茶髪の男が現れた。何処となく影を帯びた憂いを感じさせるのは、人相が原因ではない。
「突然、申し訳ございません。アフレイド将軍」
「いえいえ、お訪ねになってくださって嬉しいです。どうぞ、なかへ」
アフレイドが大人の穏やかな笑みを浮かべると、サマラフは気を許した笑みを浮かべて返し、肩口まで右手を上げた。
「あぁ、お構いなく。あなたのお顔を見に来たのと、訊ねたいことがあって来たのです。お時間は取らせません」
「と、言いますと?」
「何か変わったことはありませんでしたか?」
アフレイドは周辺を見渡した。城の外壁に寄って行き、兵士が居ない所までサマラフに付いて来て貰う。
「特にありませんね」
無いのなら、何をそんなに警戒することがあるのか、サマラフは奇妙に思った。
「でしたら、良いのですが」
「ご心配になることでも?」
「えぇ、少し」
アフレイドは自身の腰に右手を置き、晴れ渡る空をじーっと仰ぎ見、数秒後、何があったか思い出した。
「爻族がイ国で悪さを働かなくなった話なら耳に入ってます」
「はい」
「貴殿でしょう?」
「いいえ」
「顔に書いてありますよ?」
「ご内密に願います」
「ははは。あなたは何処へ行っても英雄ですね」
「成り行きです。それに、私一人の力ではありません。
ーー英雄といえば、ユンリは王殺害の主犯格で、逃亡中だと聞きましたが?」
水鳥の巫女の生まれ変わりと言われている十二糸の一員、ユンリ。年齢はエリカより若く、突然アルバネヒトに現れ、フェルディナンの目となり耳となって動き、活躍が評価されて英雄となったのだが……。
アフレイドは腰から手を離し、苦笑いを浮かべる。
「ユンリは、王を殺害していません。此方側へ付いてくれなかったので、アイネスがラバン•ラームを占領後、あなたのよく知るあの魔術師が嘘の罪を背負わせました。逃亡は手引きした者が居たようです。もう滅茶苦茶ですよ」
「……」
サマラフは『彼女』の行動を意外に思わなかった。
「アフレイド将軍。何処の国も、中央は事情を抱えているものです」
「……有難うございます。お心遣い感謝します、サマラフ卿」
アフレイドは人当たり良さげな笑みを浮かべたが、気遣いを心から喜んだりすっきりしたわけではないのを、サマラフは感じ取っていた。