内情(2)
※台詞、多めです。
「ケルディン様の弟さんは、妾の女性を側室にしなかったんですね」
「彼女の出身が、些かまずかったのさ。
弟ラーサンハリネ、略してラーサンの妾の名前はロニィ。本人曰く、イ国の祭り『フラワー•ステイ』の日に花を売っていたら、幸運にもラーサンのお目にかなったんだとさ。運命的な出会いに聴こえるが、さぁて、本心は何処だか。
母上が男を使って調べさせたら、彼女は町娘ではなく、アイネスの魔術師だと言ったらしい。怪しいだろ?」
エリカは目をぱちくりと瞬きさせた。
「男を使う?」
「……」これには、サマラフは何と言っていいか閉口。カニヴもカニヴで、王族の手前、教えていいかわからない。
ケルディンは空気を読んで訊ねた。
「エリカちゃん。君の嘘の恋人さんとは、男女の進展はあったのかい?」
「あ。そういう意味」
恥じらいなく返した彼女にサマラフは半眼になり、呆れ混じりの苦い表情をする。
「エリカ」
「ごっこだよ」
彼女は唇を尖らせ、気まずそうに反論。ケルディンは、「ははは」と明るく笑った。
「オリキスくんが現れるまでのエリカちゃん、びっくりするくらい、防御力が高かったよね」
「わっ、私のことは横に置いといてくださいっ」
サマラフは話の流れに便乗し、真面目に訊ねた。
「ケルディン様から見て、オリキスという魔法騎士はどのような男でしたか?」
「優秀、狡猾、警戒心が強い男、欲望に従順。針の穴ほどの小さな疑いにも敏感な怖い男さ」
「オリキスさんは優しい人です」
「島民のあいだでは、比較的、評判は良かったよね。
でも、彼は区別はしてた。わかってる癖にぃ〜〜」
揶揄われたエリカは深くツッコまれるのを回避すべく、サマラフの顔を見て、
「アイネスは、イ国と仲が悪いの?」
と、強制的に話を戻した。
「悪くも無ければ良くも無い。だが、アスミ殿が生まれた当時は、表面上で手を組んでる素振りを見せようものなら、イの北にある軍事国家のアルバネヒトは警戒しただろう。挟み撃ちにされたくないからな」
ケルディンは一つ頷き、物語調にして話す。
「ロニィはアスミを出産後、イの国王スフの正妻である我が母上から嫌疑をかけられ、最愛のラーサンには見捨てられて国外へ追放されました。
国王はロニィからアスミを取り上げ、城暮らしをさせることにしたのですが、
此処で大誤算!
ラーサンの息子がアスミを見染めたせいで、母上の怒りは絶頂!アスミが二度と城へ戻って来れないよう、忍ノノビ族へ渡しましたとさ」
馬車のなかが、しーーん……と静まる。
カニヴは訊ねた。
「スフ様は、反対しなかったのですか?」
「母上の怒りを鎮めさせる必要があったから、まぁ仕方なく?」
エリカはアスミのことを思うと、胸が痛くなった。
「死んだとわかったら、王妃様が喜びますね……」
「生きてたらね」
ケルディンの言葉に、彼女は目を丸くして驚いた。
サマラフは一拍置いて補足する。
「エリカ。スフ様の奥方様はお亡くなりになってる」
「母上の死因は絞殺らしい。ハンスによれば、お亡くなりになったのは一年ほど前。葬儀は大々的におこなわず、公には病死となっている。犯人は不明で、未だに捕まっていない」
「……ロニィとやらと無関係かどうかでござるな」
ケルディンと目が合ったサマラフは、少し困ったような笑みを浮かべた。
「それも調査か、片付けてほしいと仰るのですか?」
「はははっ、やだなぁ。これ以上頼ったら、爪研ぎまでお願いしなくてはいけなくなる」
ケルディンは笑って冗談を言ったあと、両腕を組んで彼らの顔を順に見ていく。
「……ま。わたくしも君たちも、夜道は気をつけたほうがいいだろうね」