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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.03 イ国【南部】
72/143

18:背反

※台詞、多めです。


 我が家へ入るみたいに小部屋へ上がり込むアスミに対し、エリカは神妙な面持ちで道をあけ、静かにドアを閉じて、振り返りながら尋ねた。


「よろしくって、何をですか?」


「歳が似てそうな同性二人のほうが、話盛り上がって楽しいだろうってさ」


 アスミは机の上に並んでいる材料を見て、何を作ればいいのか理解すると、大きなすり鉢に薬草を入れて畳の上に座り、すりこぎでゴリゴリ潰す。



「サマラフ卿は、ロアナの出身だってね。エリカさんも?」


 好意的と思しき笑みを浮かべて話しかけてきた彼女の近くでエリカは正座し、熟した実を乳鉢で潰して、青黒い汁を押し出す。


「いいえ。私は離島から来ました」


「へー、何処かの令嬢じゃないんだ?一糸が護衛って聞いたからつい」


 エリカは苦笑いを浮かべた。


「そんな大層な身分じゃありません。

 護衛も、

 私だってちょっとくらい戦えますけど、サマラフに認めて貰えなくて」


 本当なら、ちょっとどころで済まない能力を発揮できるが、ハンスやサマラフのときみたいに初対面の人からまた悪く思われるのが嫌で伏せる。



 アスミは動かしていた手を止め、すりこぎの先でエリカの顔を指した。


「功績もある金持ち貴族の坊々から見れば、エリカさんはか弱くて守り甲斐がありそうだもんね」


「貴族?」


「え?」


 拍子抜けしたアスミを見たエリカはきょとんとし、手を止める。


「私、サマラフの家とか年齢とか諸々、詳しく知らなくて」


「出会って間もないの?」


「はい。一週間未満です」


「じゃあ、互いのことを知るのは、これからってわけだ」


 希望が持てる前向きな言い方にエリカは歯切れの悪い表情をして手元に顔を向け直し、乳鉢のなかに入ってる不要な種と皮を、箸で摘んで取り除く。



「アスミさん、衣病って何ですか?」


「天女として生まれた者が発症する特有の病さ。立ち上がれなくなるほどに体力を奪われ咳が出て、熱にうなされる」


「風邪みたいな症状ですね」


「あぁ。でも困ったことに里を守っている結界が薄まり、柵の近くにまで魔物が寄りやすくなってしまうのが難点でね」


 アスミは口端を下げて眉根を顰め、エリカに左手を差し出して乳鉢を渡して貰い、すり鉢に果汁を入れる。


「その天女様って、複数人、居るんですか?」


「最初からずぅっと一人だよ。歳は重ねても老いず、親が死んでも生き続ける、謂わば不老ってやつだ」


「どうやって衣病にかかるんです?」


「さあ?自然に?

 特効薬はわかってるんだけどさ、ちまちま飲ませるよりガツーンて効くほうを使えばいいに決まってるのに、みんな何やってんだか。……

 !!」


 アスミは、良いことを思い付いた。


「エリカさん。あんたが役に立つって、サマラフ卿に認めて貰う方法があるよ!」


「?」


「あたし、天女様の体を良くする特効薬の一つで、トレ茸って伝説がかったキノコが生えてる場所を知っててさ。いまは爻族の見張りが付いてるんだけど、あっちは少人数だから大丈夫だよ。守ってあげるから一緒に来てっ」


 回復が早いに越したことはないが、エリカは乗り気になれず困った顔をする。


「二人で行くのは危険です。頼れる人にお願いして、同行を頼んだほうが……」


 アスミは、ずいっと迫る。


「もう黙って待つのは限界なのっ。天女様を復活させないと、里が上手く機能しない。このままじゃ、いつ魔物に攻められるか……!」



(……。いざってときは、アルデバランの娘のチカラを使ったら助かる。狼煙を上げることもできるよね?遠くに行かないだろうから)


 忍ノノビ族の危機を救いたいアスミの気持ちをエリカは汲み取り、仕方なく付き合うことにする。


「わかりました。危険を察知したら、一緒に逃げるんですよ?それを約束してください」


「当然っ!」




*.・



 その頃、楼閣では休憩が挟まれていた。

 サマラフは柱を背凭れにして立ち、腕を組む。

 会議中、忍ノノビ族と意見を出し合ったはいいが、爻族の狙いは何か?イ国の南部に居るはずのないアプランサスが出現するのも偶然なのか誰も答えることはできず、臆測のみ飛び交った。


(明日、爻族を一人捕らえて、話を聞いてみるか)



「サマラフ殿」


「カニヴ。に、リフウ殿とナミキ殿」


「エリカ殿は一人になれて気楽だと言っておったぞ」


 揶揄い込めた指摘に、サマラフは腕を下ろして苦笑いを浮かべ、柱に凭れかかるのをやめる。


「だろうな。あの子は初対面の俺に、君の両親は死んだと残酷な現実を告げられたことが、未だに許せないんだろ」


 リフウ、ナミキ、カニヴ。彼らはサマラフを白い目で見る。


「同情できぬわ」

「自業自得ですね」

「相手は子どもだというのに」


 三人から言葉の矢を浴びせられたサマラフは少し罪悪感を抱き、苦い表情をする。


「反省してます。ただ、あのときは、事実を後回しにする余裕はなかったんです。機を見ていつか話すつもりですが、エリカの両親を死なせてしまったのは俺ですし」


 とんでもない事実を聞かされたカニヴは、呆れ顔になる。


「やれやれ、好き物でござるな。面倒ごとを背負い込むなど」


 カニヴには、二人がツラい思いをする結果しか見えない。これから親しくなって楽しい時間を過ごす量が増えれば、エリカは事実と対面したとき苦しむか、サマラフを心底恨むだろう。しかし運が良ければ、サマラフに憎しみを抱かずに済む。



「背徳心ですか?」

 と、ナミキは尋ねた。


「カニヴの言うように、相手は子どもですから」


 ナミキはリフウと顔を見合わせてから、サマラフに話す。


「実は、アスミも親が居なくて。事情は異なりますが、エリカ殿が吹っ切れる良いキッカケになればいいですね」



(……吹っ切れる、か)


 サマラフには、すっきりしない言葉だった。

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