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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.03 イ国【南部】
64/143

11:手に提げるは火の粉か

※文章ざっくり、台詞が多めです(陳謝)




 翌朝、サマラフはエリカを連れて神殿に向かった。彼はヒュースニアを出てイ国を離れる前には必ず一言報せる約束を、枢機卿と交わしている。アルデバランの娘の秘密を共有する間柄として親交が始まって以降ずっとだ。


 今日も予定通りそうしたかったが、神殿の階段の横に立って二人を待ち伏せしていたケルディンがさせなかった。



「エリカちゃん、元気そうで良かったよー」



 彼女は一瞬誰なのかわからず、凝視して数秒間、考えた。人相、話し方、呑気な調子に声音など……。脳内で照合する。


「……、紹介人さんっ?」


「せいかーい」


「どうして此処に?」


 接触してきた男の顔に覚えがあるようで無いサマラフは、隣りに居るエリカに尋ねた。


「名前を知らないのか?」


 ケルディンは、


「島では名乗ることを禁止されていたのだよ」


 と、事情を知らない彼女の代わりに答え、自分の胸に右手を当てて、敬い込めた一礼を贈る。


「初めまして、サマラフ卿。わたくしの名前はケルディン。イ国を統べるスフ王の長子(ちょうし)だ」


(随分昔に、親子でロアナを訪問してたな。

 スフ様の不興を買って出家させられた噂がある御方で、毒にも薬もならないとは聞いてるが……)


 サマラフは尋ねる。


「ご挨拶、感謝致します。なぜ、バーカーウェンに居らっしゃったのですか?」


「父上に飽き飽きされて、南方で見聞を広めてくるよう仰せつかったのだけれど、そんなの隠居暮らしみたいで退屈だろ?ハンスから何か愉快な……じゃなかった。

 はははっ、いまのは無しね」


「「……」」


「何か役に立てないかハンスに訊いたら、打ってつけの大仕事があると言われてさ」


 ケルディンはお調子者の顔を引っ込めると、温かい目でエリカを見る。


「島に不審者が現れないか調査しながら、あなたの動向を見守るという大役だ」


 エリカの代わりに、サマラフが言う。


「事情はわかりました。それで、ケルディン様は我々に何か御用が?」



「サマラフ卿は此処へ来るまでの道中、爻族(こうぞく)の襲撃に遭わなかったかい?」


「(族?)いいえ。関所で掲示板を見ましたが、らしき情報は貼られていませんでした」


「ふぅーん。ハンスは教えなかったんだね」



 エリカは、

「爻族って何ですか?」と尋ねる。


「わたくしが昨日、僧兵に教えて貰った話では、二ヵ月ほど前からイ国で出没するようになった盗賊だそうだ。主に南部を荒らしているが、拠点は不明。村や街には入らず、夜間の街道で現れたり、丘で待ち伏せしてると聞いた。

 そこで、わたくしは君たちに、首都までの護衛をお願いしたいと思ったわけだ」


 起きてることの事態を軽く受け止めたサマラフは頷いた。


「構いません。俺たちも北へ向かう途中です」


「おやおや、返事が早いね?もう一つ、手土産を持って帰れたら幸いの案件があるのに」


「と、言いますと?」


「十二糸である君と、アルデバランの娘であるエリカちゃんのチカラを、ぜひお借りしたい」


 エリカとサマラフは顔を見合わせた。

 ケルディンは二人を連れて神殿の横へ移動し、人が居ない場所で再び尋ねる。


「サマラフ卿。南部に引き籠ってる()ノノビ族は知ってるだろう?」


「はい」


「天女様が病を患ってるらしい」


「!」


「忍ノノビ族の里に、爻族が出入りしてる話も小耳に挟んだ」


「!?」


「この辺にある森でアプランサスを放ち、人を襲わせてるんだとさ。けど、我が父上はひっどい男だねぇえ。問題解決に動かないんだって。

 ひょっとしたら忍ノノビ族が爻族と組んで謀反を起こし、首都へ攻め込む気じゃないかと、神殿の者たちは気が気でない様子だというのに」


 ケルディンは手のひらを上にして両手を肩口まで上げ、やれやれと肩を竦めた。



「白状な父上に代わって、君たちに調査して貰いたい。できれば、片付けてくれると助かる。

 手土産と言ったが、忍ノノビ族を放置してわたくしを護衛し、首都へ送り届けるのも有りだよ」



 サマラフの目付きが真剣味を増す。


「忍ノノビ族の件も、お引き受けします」


「有難う!終わったら報告に来てくれ。その間、わたくしは枢機卿の下でお世話になってるよ」


 ケルディンはご機嫌な様子で、神殿内部へ続く階段を、軽快に上がっていく。

 サマラフは溜め息を吐き、表情を変えずに突っ立っているエリカを見た。


「すまない。寄り道することになった」


「ううん、いいよ。忍ノノビ族って?」


 彼は歩きながら答える。


「イ国のなかにある、独立した隠密組織だ。南部に敵が現れたら駆逐する役目を担っていた」


「過去形?」


「七年前の織人事件を機に、二つは仲違いしたんだ。どちらも歩み寄らず、干渉しないことに決めた」


「でも、ケルディン様って王様の子どもでしょ?許可を得ずに助けたら苦情が来ない?」


「だから、俺たちに依頼したんだろ」


「?」


「ケルディン様の名前を出すことなく、部外者が勝手に解決する単位にすればいい」


 早い話が利用だ。しかも、忍ノノビ族を助けろとも滅ぼせとも言われていない。どの方向へ転んでもケルディンは得をする。何かが起きてる情報のみであっても。


「天女様って?」


「忍ノノビ族を束ねている女性だ」


「爻族を成敗すればいいの?」


「それは、忍ノノビ族の出方次第だな」

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