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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.03 イ国【南部】
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08:罪の殻



(七年前、これから処刑されるのが娘と知らずに、枢機卿様は幾分かの情けをと牢屋を訪問した。あの日のショックがほんの僅かでも癒えてきたところに、同じ過ちを辿りかねない孫娘の出現……。って、今日は俺が会わせたんだがな)


 サマラフは神殿の外で待機しているエリカと合流した。彼女はもう泣き止んではいたが目を赤く腫らし、沈んだ表情で黙っている。

 理由が何であれ、翼竜(ワイバーン)を名乗った夫妻が世界に従って働き、選別、間引きと称して、一部の人々から命を奪ってさらなる混沌を招いたことは大罪だ。



「失礼します。エリカ様とサマラフ様ですね?」


 男の僧兵はハンスの命令に従い、資金が入った袋をエリカに差し出す。


「有難う、ございます」


 彼女は感謝を伝えたが、神殿から離れた場所に設置されてる休憩用の長椅子へと力無く座った途端、哀しい目をして苦笑いを浮かべる。


「お金で言いくるめられた気分」


 受け取った際、両方の手のひらに乗せて貰ったときの重さが心にのし掛かった。島でお利口さんにしてるよう言って、この歳まで我慢させた両親を思い出す。



 ハンスなりに、祖父の立場でできる孫娘への愛情表現は、旅費程度だった。


 何かの拍子にエリカがアルデバランの娘として人目に晒されようものなら、水鳥の崇拝者たちや腐敗した国での生活に不満のある者は世界の顕現を尊び、喜ぶが、平和を何とか保ててるイ国への他国からの目が集中するのを枢機卿として回避したいーー。


 身柄を預かれなくても、血縁者を名乗り出れば悲しませずに済むのに、エリカの母親を救えなかったことへの責めを喰らうのが嫌だったからーー。


 ハンスは、罪悪感に負けて逃げた。




「サマラフさん」


「俺のことは呼び捨てでいいよ」


「わかりました」


「敬語も使わなくていい」


 彼は一人分あけて隣りに座る。


「サマラフから見て、私のお父さんとお母さん、どんな人だった?」


「世のなかを良くしたいと望んでいたよ。その気持ちが強すぎた」


 エリカは苦々しい表情で遠くを眺める。


「大きいことは人に任せて、バーカーウェンに居てくれたらよかったのにね」


「同感だ」


 可愛い一人娘を、他人に託してまで成すべきことではなかった。ましてや命を懸けてなど。

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