07:血塗られた神託の子
※ほぼほぼ台詞メインです(陳謝)
あまり待たせることなく、ハンスが一人で現れた。
「お待たせしました」
平静を装っているが、如何に急いで来たか、呼吸の仕方でわかる。
サマラフは言葉でエリカに促した。
「枢機卿様にお尋ねしたいことを話してみるといい」
エリカはよくわからないまま、一番知りたいことを尋ねる。
「……ハンス様。私の両親が死んだって、サマラフさんに言われました。本当ですか?」
「エリカ殿は、なぜ島を出たのです?」
彼の口から出たのは、サマラフと同じ質問。
「帰ってこない両親の行方を知りたいからです」
「障壁は、どうやって壊しましたか?」
「障壁って?」
「カコドリ遺跡で、試練をお受けになったのでしょう?」
何処までお見通しなのか。後ろめたく感じたエリカは言いにくそうに話す。
「はい。島の外から来た魔法騎士さんが解読して、私の幼馴染みと、私の三人で挑みました」
サマラフが眉間に皺を寄せ、目を丸くして驚いた。
ハンスも心情は穏やかではないが、依然として話を訊く。
「障壁が何のために、誰のために作ったか存じていますか?」
「いいえ」
「世界のチカラを授かった十二糸と呼ばれる者たちに、上陸されないためにです」
「財宝を求めて?」
無垢な回答に、ハンスは控えめに微笑んだ。
「そうですね。ご両親にとってあなたは宝。合っています」
「……」
悪気がないにしても、受け止められるたびに優しく流されていくように感じたエリカは、不満を表情に出した。
「エリカ殿について私が存じ上げているのは、世界が二つに分離したとき、鍵を持った第二の勇者が現れてアルデバランの娘を放つということ。
十三番目の糸、世界のチカラを断つ者、終焉の始まりを報せる引き金、水鳥の巫女の片割れ。アルデバランの娘には様々な呼び名があります」
「私はそんなこと、どうでもいいんです」
ハンスは微かに悲しげな目をした。
「あなたのご両親がお亡くなりになったことは事実です」
「じゃあ、毎年送られてくる手紙は誰が出してるんですか?」
「私から言えることは、それは悪意ではなく、善意によるものでしょう」
エリカは全然納得できず、悲しみと悔しさが混じった涙目で食い下がる。
「何があったのか知っているなら、どうして教えてくれないんですかっ?」
「ご両親のことで、あなたが道を外れてはいけないからです」
優しさで希望を粉砕された彼女の目から涙が流れる。
「……いまは御身のために、島へは戻らないほうが良いでしょう。
サマラフ殿、よろしくお願いします。エリカ殿も道中お気をつけて。心ばかりですが、後ほど旅費をお渡しします」
「エリカ、門前で待っててくれ」
「…………。うん……」
彼女は目から下を右手で覆い、喉奥で嗚咽を漏らしながら、とぼとぼ歩いて庭園を出ていく。
サマラフは、
「枢機卿様」
と、寂しげな背中に話しかけた。何を言うのが正しい選択か迷い、言葉が出てこない。
ハンスは哀しみを呑み込み、振り向いて道を示す。
「どうしたいか、あなたが決めれば良いのです」
「……」
「孫娘を頼みます」
サマラフは気持ちを重く受け止めた。
「はい」