撒くは強欲の硝煙、欺くは(3)
※ざっくりした文章になってます(陳謝)
一人になったエリカは、バーカーウェンがある方向を眺めている魔法剣士に後ろから近付いて、声をかける。
「こんにちは」
男は人に話しかけられることに慣れてるが、初見で挨拶から始まるのは珍しかった。不思議に思いながら振り向く。
「はい」
男の髪は根本が真っ黒で、毛のほうは灰色と暗い黄緑色の二種類。枯れ草を思わせる色だ。髪そのものはオリキスより短く切っている。前髪は右分け。
右眉は二本線を斜めに引くように剃ったのか、毛が生えてない部分がある。
左目は緑色。右目は青色。どちらもまるで、嵐に見舞われた景色のような薄暗い色をしている。
見た目年齢は三十過ぎ。
左腰には長剣を収めた鞘を提げてる。
人相は良いから悪い人ではないだろうとエリカは勝手に安心して、人当たりの良い笑みを浮かべた。
「オリキスさんから、あなたに私を任せたって聞きました」
「?」
男は何のことかよくわからない顔をした。
(……あれ?)
表情から察したエリカは段々気まずさを感じ、左手の指先で左頬をぽりぽり掻きながら苦笑いを浮かべる。
「と、言われているんですけど。違ったかな?」
「オリキス?初めて聞く名前だ」
「……ぽい、ですね。おかしいな。ごめんなさい」
エリカは焦ってその場を離れ、行き交う人々に魔法騎士を見かけなかったか尋ねて足早に向かう。二人の騎士がまだ滞在してると信じて。
「さっきの子、ギーヴルさんとこのエリカちゃんじゃない?」
男は偶然近くに居た老夫婦の声を耳にして驚いた。振り返って話しかける。
「失礼。先ほどの女の子は、あなたのお知り合いですか?」
老夫婦のうち、夫のほうが答える。
「ああ、儂はバーカーウェンの出身でな、あの子は同じ島で生まれたエリカちゃんだと思うよ。最後に会ったのが二年前だから、見間違えはない。
あんたは?って、
ぁ、すみません、大使様でしたか」
「、」
同時刻、バルーガは宿屋の二階にある一室で椅子に座っていた。
(拘束はされてないにしても、嫌な空気だぜ)
左右には厳つい人相をした大柄の男が一人ずつ立っている。私語厳禁なのか「此処に座れ」以外、何も話そうとしない。
ガチャッ
「用は済んだ」
オリキスの声とともにノブを回す音が、前方から聴こえた。
真正面にあるドアが此方に向かって開かれる。
入室した人物は一人だけ。
悪い予感がしたバルーガは怪訝な表情を浮かべて腰を上げかけたが、左右に立っている男たちに体を押さえ付けられて、強制的に椅子へ戻されてしまう。
「ぐッ、、、離せ!エリカは、何処に……ッ!」
右側に居る男はタメ口に反応して激昂。「相手を見て、言葉を選べ!」と、怒鳴りつけた。オリキスは涼しげな顔でクローゼットを開け、着替えを取り出しながら「構わないよ」と言って許す。
「彼女は預けた」
「誰に?」
「ロアナの大使」
「!?」
「丁度良いと思ってね。引き合わせることにした」
バルーガは表情を歪めながら目を見張り、呟くように口に出す。
「……十ニ糸……」
「そう、織人事件の英雄サマラフ。世界と翼竜を処刑した男でもある」
エリカの両親の命を奪った人物。
不可解なオリキスの行動。バルーガのなかで沸々と怒りが湧いてくる。もう、我慢の限界だ。
「あんた、何を考えてる?」
「アルデバランの娘は、覚醒に時間をかけると言った。危険な賭けだが、彼がエリカ殿に懐柔してくれたら、シュノーブは使えるカードが増えて好都合だ」
「っ!」
「僕は目的のために手段を選ばない。覚えておくといいよ」
「くそっ!くそっ!!」
眼鏡を外して国王専用の軽装に着替え直したオリキスはバルーガの左側に立っている男に荷物を持たせ、札を頭上に掲げる。
「とても楽しい時間だった。有難う」
詠唱後、札が魔法を発動する。
四人は一瞬でシュノーブへ移動した。