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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.02 執心篇
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同一なれど

※作者である私の都合で、無し首族との戦いを端折りました。

※アルデバランの娘との契約を終えたあとの話です。

※ややざっくりめの文章。




 星が煌めく夜空の下、焚き火の前に座って何かを煎じてる黒髪の彼は、後方から近付いてくる足音が誰のモノか知っている。

 振り向かず背中を見せて隙を与えてるのは、此方を信用してくれているのだろうと、バルーガは仄かに期待した。



「クリストュル様」



 本名で呼んでみたが返事は無い。素性を知る前なら此処で腹を立て、文句の一つや二つ言っているところだ。


 バルーガは主君の横を通り過ぎ、向かい側で正座することにした。

 オレンジ色の灯りに照らされてる涼しげな顔は感情の動きを見せず、手元だけを見ている。



「隠しても無駄ですよ。否定しなかったんですから」


「……」


「自国を抜け出して、何をしてらっしゃるんですか?」



 オリキスは横に置いてある皿へ手を伸ばし、薬草を乾燥させて粉末にした物を摘むと、煎じた物にふりかける。


「前に話した通り、調査だよ。喉から手が出るほど欲していた情報をある人物から教わってね、直接バーカーウェンに出向く必要があった」


「最初に言ってくだされば、言葉と態度に気を付けてました」


「正体が判明したら、君はいまのように気を遣うだろう?」


「まぁ」


「此処での用は済んだ。一週間後か二週間後には島を出たい。帰りも同行してくれ」


「はい」


「エリカ殿も連れて行く」


「!バーカーウェンで何か起きるのですか?」


 クリストュルは目を合わせたが、質問には答えない。

 バルーガは地面に右手を着け、上半身を前に傾ける。


「頭が付いて行けません。説明してください!」


「時間をくれと言ったが?」


「!」


 目の前に居るのは自身が仕えている国の主君。それを忘れて弁えず要求したことを端的に指摘されたバルーガは焦り、慌てて背筋を伸ばす。


「失礼しました」


 クリストュルは自分の手元を見下ろし、作業を再開する。


死の海域(デス・オーシャン)の安全性が確認されるまでのあいだは、これまで通り、どの国も手出しはしてこないはずだ」


「ですよね。焦燥に駆られました」


「……。エリカ殿を同行させるのは、彼女の両親のことがある。島にずっと居させたほうが危険だ」


「アンシュタットですか」


 彼らの能力や知恵を借りている国にしてみれば頼りになる一族だが、他国の領主や民によっては自分たちの領地に入って来られるを嫌がる。


「すまない、バルーガ。今日は一人にさせてくれ」


「…………わかりました」





 と、言って、すんなり帰宅したものの、どうにもすっきりしないことがある。


(やべぇ。オレ、散々偉そうな言動をとってきたんだっけ)


 バルーガは自宅の階段を上がってる途中、立ち止まり、シュノーブを出発した日からゾムと対戦するまでの時間を振り返った。


(痛てぇ……ッ)


 上着の上から胃を押さえて痛みに耐える。


(明日、ちんちくりんの様子、見に行くか……)




°・




「体のほうは異常無いか?」


「うん、心配してくれてありがと。

 ちょっと待ってて」


 彼は翌朝、エリカの自宅を訪ねた。ついでに野菜を練り込んだパンをお裾分けしたら、


「お返しはアンズちゃんが好きなジュース。持って帰って」


「すまねぇな。気を遣わせた」


 礼にと、お返しに瓶を二本貰った。そこまでは良い。


「ねえ、バルーン。クリストュル=ヤシュって何?」


「……おまえ、それ、ほかの誰かにも訊いたか?」


「ううん。オリキスさん、遺跡で嫌そぉ〜〜な雰囲気を出してたでしょ?許可を貰わずに言ったりしないよ」


 クリストュルといえば、シュノーブに仕えてる騎士のあいだでは良くも悪くも有名な国王。いくらエリカでも彼に睨まれたり怒られたら、今後甘やかされることは二度と無いだろう。


「絶対、ぜーったいに話すな。言えば大事になる」


「じゃあ、バルーガと私の秘密だね」


(呑気な奴)





 だったら、本人に直接訊けばいい。

 エリカは夕食を渡しに行くついでに、立ち話するみたいに玄関先で尋ねた。


「クリストュル=ヤシュって、本名ですか?」


 知られたくないことのど真ん中を突かれたオリキスは、ぱちっと瞬きをするという微かな反応をし、相手にわからせないよう警戒。


「誰かに聴いたことでもあるのかい?」


「いいえ」


 嘘は吐いてなさそうだと判断したオリキスは肩の力を抜き、警戒心を解く。


「シュノーブに着くまでのあいだ、その名は誰にも話さないでくれ。僕が居ないことを知られると困る人たちが居る。僕と行動を共にする君とバルーガをも困らせてしまう」


「わかりました。人には人の事情がありますよね」


「すまない」


 詳しく訊かず受け止めてくれるエリカの優しさに安心し、甘えてしまうことへの謝罪だった。


「謝ることですか?」


「…………。君には敵わないな。シュノーブに着いたら話そう。約束する」


「楽しみにしてます」


 彼女が言うような明るい話は無い。表情を暗くさせる事実があるだけ。


「私、遺跡で意識失ったんですけど、気付いたら家のベッドで仰向けになってたんです。オリキスさんは何とも無かったですか?」


「君が熟睡してるあいだ、戦ってた」


「え」


「相手が手強くて苦労したよ」


「ごめんなさい!そうとは知らず、幸せな夢を見てましたッ!」


 彼は意地悪がすぎたかと思ったが、嘘は吐いていない。


「君が無事でよかった」


「オリキスさんも」

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