表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.02 執心篇
38/142

18:下る魂に救いヲ【vs無し首族】(中盤①)



 時間稼ぎの役目を任されたバルーガは、ゾムの背後に回り込んで接近戦を仕掛けようと駆けた。オリキスはエリカに向けて治癒魔法の詠唱を開始。

 ゾムは再び、左手の人差し指と中指を立て、今度は自身の足下から黒い霧の旋風を起こし、離れた位置に瞬間移動。バルーガの背中を直線上に捉え、槍の穂先を向ける。


「『月の杭は白い(チチ・ピケ・シャダ)』」


 バルーガの足下で展開したのは、白光りする三日月の紋様。宙には同色の杭が九本現れ、床にトトト!と刺し込まれていく。


「なッ……」


 下半身を固められたように動けない。力んでみたが無理とわかり、攻撃されるのを覚悟して歯を食いしばった。


「ぐッッ!!」


 ゾムに接近され、左方向から槍の柄で横殴りされて倒れる。

 三日月の紋様が消えて脚を自由に動かせるようになるとバルーガは慌てて体を起こし、走って相手から距離をとった。ベルトに提げてる小型の鞄から手早く小瓶を取り出して栓を抜き、丸薬を三個出したら一度に口内へ入れて飲み込む。


(此奴、やっぱベロドの墓場に居る奴らとは別格だ!闇属性の無し首族(ノーネック)が弱点の光術を使うなんて馬鹿げた話、聞いたことがないぜ!)


 ゾムが警戒して三人の出方を待っているあいだに、オリキスの詠唱が終わる。


「『(つつ)まれたその身を、祝福の包帯で巻き癒やせ』」


 エリカは体調が少しラクになった気がした。


「オリキスさん、有難うございます」


「一定時間、小まめに小回復してくれる治癒魔法だ。完治できなくてすまない」


「それでも有難いです」


「『濁ッタ霧(ダーティ・ミスト)』をまた仕掛けられたときは、手や腕を使ってくれ。口と鼻を塞げば吸い込まず、毒に侵されることはない」


「え!毒!?」


 彼女は正直に、困惑した表情を浮かべた。

 オリキスは助言を続ける。


「症状は自然に消えると思うが、体力に危険を感じたら遠慮なく丸薬を飲み込むように」


「……ッ、……はいっ」


 歯切れの悪い返事。オリキスは毒という単語に慣れさせておけばよかったと僅かに反省したあと、土属性の防御壁にどう対応すべきか考える。


(『石デ破壊スル(ストーン・ブレイク)』は接近したとき限定だったか。使える魔物は知ってるが、シュノーブが襲撃に遭ったときの交戦記録にはなかったはず)


 シュノーブが襲撃に遭ったとき何が起こったか手記は残ってるが、倒した本人が殉職している混沌としたなか戦い続けた者がほとんどで、どう対処したか覚えてる者は少なかった。生死の狭間を彷徨った者から無理に聞き出すわけにも行かず、聞き取り調査はわかる範囲内のみに終わってる。


(さて、攻められるばかりでは癪だ。通常は死体に、火属性は有効だが……)


 オリキスは試しに、魔法剣を使ってみる。


「『這え、火脈(ひみゃく)(うじ)よ』」


 体中を火で纏った大きな蛆虫(うじむし)たちが、一斉に這ってゾムに飛びかかる。


「オリキスさん!そんなの見たら、余計に気持ち悪くなります!」


「僕は性格がとても悪い男だからね。だろう?バルーガ」


(ッ、胃が痛い)


 物理攻撃のほうがマシだ。


(ちんちくりんは、クリストュル様の名前を聞いても知らねぇのか。羨ましいぜ畜生)


 バルーガはシュノーブに居た頃、クリストュルの素顔を見たことがない。シュノーブの現国王は鼻から上を仮面で覆い隠し、一部の臣下以外の前では容姿を晒すのを禁じている。一級騎士たちでも直接謁見できる機会は稀で、王の弟や宰相など、周囲の高官が取り次ぐ決まりだ。

 仲間の騎士から聞いた話によると、王は上級魔法を使い、剣技にも長けている。一対一であれば、世界のチカラを使う十二糸とも対等に渡り合える素質があるとの噂だ。各国の王だけで順位を決めるなら、一糸だった東国アルバネヒトの強王(きょうおう)フェルディナンと一、ニを争う実力の持ち主。



 ゾムは槍の穂先を下にし、石床を一突きして詠唱。


「『石デ破壊スル(ストーン・ブレイク)』」


「!」


 蛆虫たちはもう一歩のところで、弾かれて消えた。

 エリカは驚き、

「えっ。無効?」

 と、口に出す。


「擦リ傷、痛イ」


 微量だが、ダメージを受けたとゾムは言っている。

 最後の試練を任された個体とあって一筋縄では行かないことに、オリキスは剣の柄をぎゅっと握り締めて、微かな苛立ちに耐える。



(次はオレの番だ!)


 バルーガは、ゾムが防御壁を壊し終える頃を狙って走り、攻撃を仕掛け直しに向かった。未知数の相手と戦うときは慎重に攻めて弱点を知りたいが、慎重も過ぎれば時に劣勢になる。「敵が強くて攻めあぐねても、何もしない理由にはするな」と、騎士団の先輩に言われたことを思い出す。


「グヌッ!?」


 防御がぎりぎり間に合わなかったゾムは前身に剣撃を受け、よろめいた。バルーガはその隙を逃すまいと、横一閃、縦に一閃、素早く斬り付けて中ダメージを与えたら、盾で自分を庇うように防御の姿勢をとり、助走をつけて突進。体当たりして相手を弾き飛ばす。


「やった!」エリカは喜ぶ。


 ゾムは勢いよく床に倒れたが、ぱっと起き上がってすぐ槍を握る手を右手だけに変えると黒い霧で身を包み、バルーガから七歩離れた場所に瞬間移動。正面に姿を現したゾムは二歩進んで立ち止まり、

反撃(カウンター)

 と、言って、槍で宙を突いた。

 しかし、穂先は届いていない。

 咄嗟に盾で防ごうとしたバルーガは防御を緩め、へっと余裕ある笑みを浮かべた。


「なんだ、ヘマしたのか?

 ……ッ!?」


 槍の穂先が、高速で伸びた。バルーガの腹部を防具の上から二度突いて、中ダメージを与える。


「!!」


 ゾムの脚に、エリカが放った矢が命中する。渾身の一撃。


※少しずつ追記していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ