16:下る魂に救いヲ【vs無し首族】(前半②)
合流した三人はカコドリ遺跡に到着。二回目に訪れたときと同じ流れで、瞬時に移動できた。
前方には、前回、無し首族が出てきた入口はあるが、今日は姿が見当たらない。
代わりに、
「進メ」という、澱んだ声が降ってきた。
エリカは右手を肩口まで上げ、人差し指を天井に向けてバルーガに尋ねる。
「無し首族の人って、体を透明にして監視するのが趣味なの?」
「此処に居る奴みたいに番人を任されてるのは例外でな、趣味じゃなくて特性っつうんだよ。
人間のなかにも、特定の範囲内だったら相手の位置を特定できる、特殊な能力を持った奴は居るぜ」
「ふうん。追跡できるの便利だね」
魔物に限らないことを知ったエリカは、臆せず感心。
遣り取りを後ろから黙って見ていたオリキスは直進して二人のあいだを通り過ぎ、和やかな空気を裂くように先頭を切って歩いた。
「先に行くよ」
「あっ、待ってください……!」
エリカが置いてけぼりを喰らうまいと追いかけても振り向かず、足を止めない。
リーダーを差し置いての行動も含めて、バルーガは眉間に皺を寄せて不満顔になる。
(ったく、いけ好かねぇ野朗だ)
今日は特別、オリキスの愛想が悪いように映る。いや、高揚しているのか?普段ならもう少し会話に乗ってくるのに。
未だ不信感を拭い切れないバルーガは、二人から距離をあけて後ろを付いて歩く。
「?これ、何処まで続いてるんだろ」
エリカは右手を軒にして見上げた。
入口の奥で待っていたのは螺旋階段。先ほど「ラクに」と言ったバルーガは脳内でこっそり撤回する。
一段につき、高さは脛の真ん中から踵まで。表面は平ら。一人しか立てない奥行きで、幅は七人並んでもゆとりがありそうに思う長さだ。
三人は黙って上る。
先頭を替わる気がないオリキスは真ん中を、エリカは二番目で壁伝いに歩く。
一番後ろに居るバルーガは柵が付いてる中央に沿って歩き、時折り後ろを気にする。
しかし……。
「…………」
靴音だけが会話をしている状況に各々は違和感を覚えても、誰も口に出そうとしない。役割分担はできてるのに、何かが欠けてばらばらになっている。
*
三階建ての家屋にある階段と同じくらいの段数を上ると、人間の太腿並みに大きい緑色の芋虫が、此方に敵意を向けて飛びかかってきた。
相手は一匹、間合いは十分。
オリキスは左足を下ろして剣を抜き、斜めに切り付けた。
攻撃された芋虫はギチャア!と悲鳴をあげて階段の角に勢いよくぶつかり、茶色い体液を垂らして死亡。かなり呆気ない。
「消えませんね」
エリカの疑問にオリキスが答える。
「故意によるものか自然にそうなったのかはわからないが、巨大化して凶暴性が増しただけなら、特に害はないと思う。念のために、燃やしておこうか」
オリキスは刃に付着していた体液をたった一振りで払うと長剣を鞘に収め、火属性の中級魔法を詠唱した。
炎の壁が、螺旋階段を駆け上っていく。人間が走るよりも速い。
ふと上のほうから、生きた芋虫が甲高い悲鳴をあげるのが聴こえた。
此処からでは何匹居たのか姿は確認できないが、二匹では済まなかったのはわかる。
三人は顔を見合わせると無言になり、再び上を目指した。