15:下る魂に救いヲ【vs無し首族】(前半①)
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ベロドの墓場に棲まう無し首族のなかで最弱と言われてる者は、敵の存在を察知した途端、どちらかの命が潰えるか相手の気配が消えるまで襲いかかる習性がある。
加減知らずで、身体能力は高め。
此方が暗闇攻撃をおこなって視界潰しに成功すると、彼らは怒って興奮し、攻撃力を増幅させるので注意。
倒すまでのあいだは、くれぐれも気を休めないように。
……これが基本情報だ。
ベロドの墓場に近い島では「彼処に挑みたい命知らずは、下着を一枚持って行けよ」と助言される。腕にそこそこ自信のある冒険者且つ初見であるほど、無し首族の獣じみた動きと醜い容姿を目の当たりにして失禁し、探索を諦める確率が高いのだ。
故に、本土の一部では、言うことを聞かない子どもに「ベロドに置いてくわよ!」と叱りつける母親が居る。
「行ってきます」
装備品を纏ったエリカは玄関のドアを閉じ、心を鼓舞するために、誰も居ない自宅に向かって静かにそう言った。
彼女はノブから右手を離すと口元に笑みを浮かべ、集合場所に向かって歩き出す。
しかし……。
「?」
足取りは軽快だったが、七歩進んだ所で何かに見られてる気配を感じ取り、立ち止まって振り返る。視線を右から左へ、左から右へ戻してみたものの、らしき者は見当たらない。
気のせいと思った彼女は再び歩き出した。
闇を塗り潰した黒い瞳が二つ、キララの木の枝に留まって監視をしてるとも気付かず。
水の蟹に勝って一週間目を迎えた今日、
三人はいよいよ、最後の試練に挑む。
*
「オリキスさん、おはようございます」
集合場所になってるカコドリ遺跡の麓にて、エリカは先に来ていた彼に明るい声で話しかける。
「おはよう、エリカ殿」
返ってきた声音と表情は、なんとなく、初めて会った日の少し冷めた雰囲気を思い出させた。
「バルーンはまだですか?」
「あぁ。最後のようだね」
「……」
「どうかしたかい?」
「無し首族って、元は人間で性別があるんですよね?死んでても、急所を攻撃されたら痛いんですか?」
エリカの真面目な疑問にオリキスは目を丸くして驚き、すぐに表情を戻すと視線を左へ外した。
「考えたことはないな」
帽子の鍔を右手で掴んで目深に被る仕草をする。それが何を意味しているのか、質問した当人は「?」わかっていない。