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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.02 執心篇
31/143

11:斜光で欠けゆく鋒鋩【vs水の蟹】(後半②)



(よし!オレの大仕事は済んだ)


 弓を引く音が鳴り止む。守りが0に達した防御壁は下から崩れていき、スーッと消えて無くなった。

 バルーガは弓を握る力を弱めて一息吐き、水の蟹の体内に呑まれている、無惨に折れた矢の死体を見る。


(合計、十三本。思いのほか、少なく済んだな)


 彼は静かに弓を構え直し、甲羅に鏃を向けて矢を一度に二本放つ。矢が作った空洞はすぐに塞がったが、相手の防御力は格段に下がっていてダメージを与えやすくなっている。その証拠に、

 体力を削られてきた水の蟹は、亀甲模様を毒々しい赤紫色に変えてきた。


 バルーガは右爪に力を込めてのっそり立ち上がった水の蟹の左目に鏃の照準を合わせ、ゆっくり後退しながら連続で矢を放ち、よろめかす。体力の消費を加減して弱攻撃に切り替えてもよく効いている。此処までは順調だ。

 左爪の再生が終わるまで十秒、……十五秒だろうか。

 攻撃されっ放しで反撃できずにいた水の蟹は茹だったように全身を赤く染め、ふごー!ふごー!と興奮状態に。オリキスは魔法の発動が間に合なかったときを考え、魔法剣で攻撃できるよう警戒する。


 しかし、幸いにも間に合った。左爪が元に戻った直後、エリカが展開した紋は魔力を注ぎ終え、新たに美しい黄緑色の光を放った。

 彼女は向けていた指先を、頭上に真っ直ぐ掲げる。


「我、羽状複葉(うじょうふくよう)を振るう者』!」


 紋の内側でつむじ風が発生し、ヒュオォォォという風音を立てながら攻撃。巨大な右爪は渦のように攪拌される。


「ッ……!」

 一回放っただけで魔力をすべて消費し切ったエリカは大きな疲労を感じ、床に両膝と両手を着ける。

 風属性の中級魔法『複葉の舞』。攻撃時間は五秒、短いようで長い。そのあいだにと、彼女は腰に提げてる小袋から小瓶を取り出して栓を抜き、手のひらの上に薄茶色の丸薬を二粒転がすと口のなかに入れて飲み込む。次の作戦に備えるためだ。


(……ふう)

 魔力と体力を中回復したエリカは小瓶の栓を閉じて袋に戻し入れ、つむじ風から解放された水の蟹を見上げる。

 魔法の威力は訓練時にわかっていた通り。ダメージを与えることはできたが、右爪の四分の一しか欠けていない。



「『赤の結晶よ、裂け』!」

 オリキスが時間稼ぎに、火属性の魔法剣『赤裂け』を詠唱して右爪を攻撃。水の蟹は再生しかけたばかりの部位を三分の二失ったことで、後方へ大きくよろけた。

 彼は長剣を鞘に収めるとバルーガに右の手のひらを向けて『赤熱の咆哮』を詠唱。


「『赤熱を抱く、咆哮に加護』」


 武器に付与していた属性を、風から火に上書きした。


 バルーガは気合いが入った声で、

「さぁて、此処からまた厄介になるぜ」と言い、構えを解く。

 エリカは立ち上がって後退を始めた。


 水の蟹の体が小さくなってる。人間の四倍にまで高さが縮み、爪も小型化した。序盤はダメージを受けた際、撒き散らかした水を吸収して再生したが、その能力が使えなくなっている。

 怒り心頭に発した水の蟹は左右の爪を振り上げ、縦歩きで突進。離れた場所に居たエリカとオリキスは逃走。近くに居たバルーガは追い付かれることがわかって留まり、接近を受け入れる。


 水の蟹は一瞬立ち止まって、右爪を振り下ろした。バルーガは、自身の体を左方向へ大きく一回転させて回避。


 ドガン!!

 床を叩き付けた重い打撃音が広間中に響く。先に逃げていた二人は走りながら顔だけで振り向き、目視で無事を確認。

 続け様に左爪を下ろされたバルーガは甲羅の真下に向かって滑走。体を滑り込ませて背中側へ潜り抜け、急いで立ち上がると、巨大な左脚の横を通ってエリカたちが居る方向を目指し、逃走した。

 標的を見失った水の蟹は怒りを鎮め、不思議そうに床を見下ろして探す。何処へ行ったか気付ていない。



 二人に追い付いたバルーガは走りながら言う。


「怒りっぽいってのは、ッ、厄介なもんだぜ」


 水の蟹は性格がとても短気で、敵と見做した相手目掛け、なりふり構わず攻撃する。威力を緩めることは決してない闘争型の魔物。


「誰かと同じだな」


「何か言ったか、オリキス!」


「エリカ殿」


「私じゃありません!」


 三人の姿をようやく見つけた水の蟹は脚を速く動かし、真っ直ぐ追いかける。

 バルーガは前方に在る壁と、後方から追いかけてくる水の蟹との距離を考えて号令を出す。


「散るぞ!」


 三人は別々の方向へ走り出した。共に走り続けてもこのままでは壁で行き止まりを食らい、追い込まれ、再び逃げようとすれば仲間の体同士がぶつかって動きが止まる恐れがある。


 水の蟹は左右に分かれたエリカとバルーガに目もくれず、直線上に居るオリキスに狙いを定めて執拗に追いかけ、距離が縮まってくると爪を振り下ろす。だが、どの攻撃も力任せで掠らない。却って水の蟹の怒りを煽り、攻撃力を上げる。


「エリカ!あれを投げろ!」


「わかった!」


 エリカは立ち止まり、腰に提げてるやや大きめの袋から石油クラゲ(ペトロール・ジェリー)の欠片を取り出すと、水の蟹の頭上に向かって思いっきり投げた。バルーガは急停止して矢を放ち、爆風を起こす。


「効き目あったね!」


「おう!」


 動きを一秒でも止めれたら、敵に隙が生まれる。

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