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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.02 執心篇
28/143

08:斜光で欠けゆく鋒鋩【vs水の蟹】(前半)

***




 作戦会議を開いた日から、五日が経過した。水の蟹に勝てば、潮の胃袋へ入るのは今日で最後。来る用事ができても素材集めくらいだ。


 三人は火の妖精を倒した際に見つけた蟹の紋の上に立ち、瞬時に別の小部屋へ移動する。広さと天井の高さに変化はないが、艶のある壁を一目見て、先ほどより硬質だとわかった。


「ねぇ、」


 エリカは、部屋の隅に置いてある木箱を発見。右手で指差しながら口を開く。


「あれって何?」


 横から見ると、笑った口を逆さまに描いたような蓋が、天辺に付いている。高さは石床から脛まで。大きさのほうは筋力が並のエリカでも、両手で軽々と持ち上げることができそうなほど小さい。


 バルーガは特に驚いた様子なく、箱に近寄りながら、


「宝箱じゃねぇか?」


 と、答えた。

 エリカは目をぱちぱちっと瞬きする。


「財宝?」


「へっ、夢のある話だな」


 バルーガは鼻で笑い、箱の前でしゃがみ込む。使われてる素材は、島に植わってる軟質寄りの樹と同じ物に見えるが、誰かが意図して作った雰囲気が残っている。

(真正面、……鍵穴はない)

 ノックする感じに右手の甲で蓋をコンコンと二回叩き、箱の中身は安全か確認。

 ……大丈夫そうだ。

 両手で蓋を掴み、かた……、っと音を立てて、後ろへ倒すように開ける。

 エリカはバルーガの背後に移動。両膝に手を着いて中腰になり、箱の中身を覗き込むように見下ろした。


「……紙切れ?」


「『回廊(かいろう)(しるし)』っつう道具だ」


 微かに黄ばんだ色の紙が一枚、入っているだけだった。上から見下ろした螺旋階段の絵が、黒いインクのような物で描かれてる。

 バルーガは回廊の標を右手で摘んで取り出し、立ち上がると、背筋を伸ばしたエリカのほうへ向き直った。紙はほぼ真四角に切り取った形をしているが、断面は折り目を付けてから手で切り離したような跡がある。



 オリキスは説明する。


「それを使えば、戻りたい地点へいつでも行ける。片割れの紙を無くさない限り」


 バルーガは両手の親指と人差し指に力を込め、回廊の標を裂くようにびりりと千切っていく。エリカは目を輝かせ、「うわぁ……」と、感動を口に出した。


 右手が持っている片割れは、切れた部分から光の砂に変わって落ちていき、全部切り終わると床に光の紋が浮かんだ。

 オリキスは、バルーガが持っている残された標を一瞥。エリカの顔を見ながら続きを話す。


「有効回数には上限がある。いま使った物は一枚だから、戻れるのは一度限り。標が何枚出るかは運次第だ」


「へー。くじ引きみたい」


 エリカの楽しい喩えに、オリキスは小さな笑みを浮かべる。


「あぁ。しかし、何かが未解決の状態になっている場所にしか現れない物だから、解決したら手持ちの紙は砂になって消える」


「荷物にならない所も嬉しいですね」


 回廊の標は、何処の誰が用意した物か?これには諸説ある。

 冒険家がまだ見ぬ誰かを助けるために好意でわざと置いて行くことはあるが、作った者の正体は誰も知らない。エルフが錬成術で作ったという噂や、無念のままこの世を去った霊の仕業という怪談説がある。


 オリキスは、エリカに言う。


「稀に、道具屋で標を売る人が居る。あるいは魔物を倒したときとか、行き倒れになった人の懐から入手できるときもあるよ」


「さりげなく、途中から怖い話しないでください」


「ふふ」


「でも、一度に端折れるの、本当に便利ですね」


 バルーガは回廊の標の片割れをズボンの左ポケットの奥へ入れると(ボタン)で封をし、じろりとオリキスを睨む。


「解決は速いけどよ、使用済みの標を手に入れたはいいが、帰り道で迷って苦労するのは、難だよなぁ?」


 転移したと思ったら、酒場で討伐願いが出ている大型の敵が居る広間の手前に送られて、半端なく焦ることがある。後ろも左右も壁しかないときは最悪だ。敵のレベルが自分よりも圧倒的に高いときは地獄並み。そうなったら、見つかるのを覚悟で広間を突っ切って、別の出入り口へ飛び込まなければいけない。


「君、根に持つんだね」


「あったり前だろッ」


 二人をよそにエリカは(私も早く、本土で冒険したいなぁ)と、一人で夢を膨らませる。


 バルーガは「ち、」と舌打ち。


「腹立つ話は終わりにして、……そんじゃっ、ご対面といこうぜ」

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