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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
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【番外編9】サマラフEDだった場合

【設定】

・もしも、エリカがハッピーエンドの相手にサマラフを選んでいたら……。続編を書く予定はまったくありませんが、続けるなら此方が正規ルートだと思います。



 半年ほど前から、イ国のヒュースニアの神殿に聖女が居るという噂が流れ始めた。噂は他国にまで伝わり、どんな人物だろうかと興味を抱いた水鳥信者や奇跡にあやかりたい観光客が以前より増え、奉納金も過去一番増えたが、当人は何かを成した覚えがないため、崇められることに多少戸惑っている。

 そんな中、旅の途中、イ国に立ち寄ったジルバドは聖女の正体を知って驚き、次いで「納得した」と言って破顔。日は違えど、スフ王の遣いで訪れたセティナからも「似合ってる」と、同じ感想を述べられた。



*°.

 


「聖女様」


 嘗てロアナの大使を務めていた男は、一年という、長いようで短い旅を終えてヒュースニアへ戻り、礼拝堂に居る、噂の聖女に笑いかけた。

 専用の服を着ている彼女は恥ずかしさから頬を赤らめ、眉尻を下げる。


「普通に名前で呼んでくれていいのに」


「此処は聖域。軽々しく口にする勇気を、私は持ち合わせておりません」


 彼は自分の胸に手のひらを当て、茶化すようにわざと敬い込めた一礼をする。


「じゃあ、憩いの庭園ならいい?」


「ご一緒させていただきます」


「サマラフに敬語を使われるの、変な感じ」





 エリカは普段着に着替えると、神殿の庭園のなかにある遊歩道へ行き、サマラフと散歩する。


「みんな、元気にしてた?」


「あぁ。新聞や噂で知ってるかもしれないが、ユンリ殿は正式にキア王女と結婚。サラは王籍を捨ててアイネスの復興に協力してる」


 まだ活力が残っているアルバネヒトとは対照的に、アイネスは魔法軍事国家だった頃にはもう戻れないくらいの惨憺(さんたん)たる光景が広がる国の再建を、自国民だけで何とかするには限界があった。

 かと言って、自分たちが他国にしたことは許されるものではない。安易に頭を下げたり、縋り付くのも難しい。特に、搾り取るだけ搾り取る、強欲なロアナに喰われるのだけは嫌だった。


「詳しい話はサマラフが居なかったときにフレデリカさんが来て、直接教えてくれた」


 崩壊後のアイネスを主に纏めているのは、第三王妃フレデリカ。エリカとは面識がある。


 女王になる予定のフレデリカは代表としてシュノーブに一筆書き、イ国にも手紙を送った。

 その後、両国から良い返事を貰うと自ら赴いて会談したことや、先王とは異なる価値観、視点、人格が評価され認められた結果、シュノーブからはサラが。イ国からはケルディンが派遣されることになった。


「私も行って何か役に立てたらいいんだけど、国を豊かにするために大金を動かしたり一緒に治世を考えるなんて無理だし、何より、お父さんとお母さんの件があるでしょ?それにサマラフのこと此処で待つって決めたのに、放置なんてできない」


 彼は小さな笑みを浮かべ、優しい声音で感謝を口にする。



「カロルに気を遣ってくれて有難う」



 エリカは、世界が与えた最後の試練ーー、竜による罰をアイネスが喰らったときも行かなかった。カロルが一番望まない選択肢だろうと思い、遠慮したのだ。



「私ね、和解したかった。それが難しいのも、嫌われてるのもわかってるよ?」


 サマラフは可笑しそうに、はは……っと控えめに笑った。


「引き摺っているのは、エリカ一人だけだ」


「え?」


 彼は街並みを見下ろせる所まで行くと柵の前で立ち止まり、エリカのほうへ振り返る。


「カロルは最期を迎える直前、付き添っていたゼアに君を助けに行くようにと伝えたらしい。アルデバランの娘としてではない、君個人のために」


「!」


「赦したわけではない。理解も同情もされたくない。だそうだ」


「……」


「君は彼奴を救えなかった過去の自分を赦さなくていい。後悔しないでくれ」



 カロルがエリカを敵対視する理由は幾つもあったが、呪いを進行させたのはサマラフへの仲間意識が強すぎたせいだ。そして、羨望と嫉妬が含まれていた。

 本当は、一番理解されたかったのはカロルのほうだったという皮肉。彼女が怒りや悲しみを吐き出せる唯一の存在だったのは、後にも先にもゼアだけ。ただ、何もかも自由にさせるほど愛してくれた人物が自国の王だったことに気付いた頃には、すべてがもう手遅れだった。


 カロルはサマラフを、同志のような存在だと思っていた。どうにもできないもう一人の孤独な自分。個人を蔑ろにされても国に奉仕する哀れな人形を、エリカに取り上げられてしまった。



「…………リラとクリストュルの件だが」


 名前が出てきた瞬間、彼女の表情が、ほんの僅か強張る。


「君がイナバに願った通り、二人は別の名前を授けられ、何処にでも居る恋人たちとして、ロアナの郊外にある山村で暮らしていたよ」


「幸せそうだった?」


「直接会って話すことはしなかったが、とても良好な関係を築けてる様子だった」


「良かった。上手く行ってるか心配だったの」


 自分のせいで壊れたものを修復したいという罪悪感から湧き出たエリカの願いはイナバに受け入れて貰えたが、目の前で聴かされたオリキスには耐え難い内容だった。


『幾らなんでもそんな仕打ちは酷すぎる』と言い、愛憎から、


『いつか記憶を取り戻して、君に会いに行くよ』と怨み言葉を残し、目の前から消えた。


 イナバが「絶対に思い出さないという保証はありません」と言っていたのが、サマラフもエリカも気になっている。



「心配しなくていい。俺が君を守る」


 エリカは少し諦めたような笑みを浮かべ、彼の隣りに立つ。


「また何処かへ行っちゃうのに?」


「君をヒュースニアに残したとき、枢機卿様から許可をいただいた」


「!」


 サマラフはエリカの右手を掬い上げるように持ち上げ、触れる程度の口付けを薬指に落とした。



「愛してる。生涯の伴侶として君に誓いを立てる許可が欲しい」



 二人を祝福するみたいに、風に乗って運ばれてくる花びらたち。



 エリカの答えは決まっている。



end

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