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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
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【番外編8】とある真昼の話

【設定】

 番外編『拝啓、お祖父様』の後日談。エリカは旅から帰ってきたが……。


・ほのぼの&まぁまぁ重めの話。

・微甘。

・文章ややざっくり。



 エリカは自宅の壁の後ろに隠れて、顔だけそろぉ……っと出した。昼ごはんは()()に食べ終えているのに、旦那は台所に立って何かを作っている。


「オリキス、何してるの?」


「菓子を作ってる。東国に寄ったとき、ユンリ殿から作り方を教わったんだ」


「見てもいい?」


「完成したら呼ぶ。それまでは好きに過ごしててくれ」


「うん。楽しみに待ってるね」


 何を作ってるか気になるが、本人のしたいようにさせておこうと、エリカはその場を離れて作業部屋に入った。

 椅子に座り、耐熱性の樹皮で作った細い縄を使って鍋敷きを編む。


(出会ったときと比べたら、料理の腕は上がったけど……。大丈夫だよね?)


 エリカの妊娠が発覚したときはアーディンが毎日のように家に来て、オリキスに料理の手ほどきをした。その後、育児が落ち着いてからは夫婦でまた一緒に作る機会が増え、バルーガの妹からは合格点を貰えるくらいには上達したが、あり合わせの材料を組み合わせて作ると失敗することが未だにある。


(ティアに話したら、お父様一人で作るなんて狡いって怒りそう)


 エリカとオリキスは、親が居ないときに子どもだけで調理をするのは駄目だと教えてある。

 娘が不機嫌になる姿を彼女は想像し、微苦笑を浮かべたが。


「…………」


 作る気力を無くしたように手を止め、顔を上げてドアを見る。


(居ないんだっけ……)




°・




「エリカ、できたよ」


 オリキスに呼ばれた彼女は台所へ行き、椅子に座って待機した。

 目の前に置かれたのは、深皿に乗せた氷製の手作り小鉢。氷を薄く細かく削った白い山が盛られている。


「きらきらしてて雪みたい」


「菓子の名前は『かき氷』と言うそうだ」


 オリキスは、あらかじめ食べやすい形に切って、氷の器に入れて冷やしておいた果肉を添えた。

 そして仕上げに、同じ果物で作った自家製の蜜を、氷の山に垂らすようにかける。


「君の口に合うと良いのだけれど」


「どうやって食べるの?混ぜたほうがいい?」


「いや、それはしないほうがいいらしい」


 エリカは銀製のスプーンを渡され、受け取ると、かき氷を掬って口のなかに入れた。


「〜〜ッ!冷たくて美味しい……!」


「喜んで貰えてよかった」


 オリキスは向かい側の席に座り、穏やかな笑みを浮かべて意図を話す。


「ティアをお祖父様とお祖母様の所へ行かせてからまだ二日ほどしか経ってないけど、君が寂しそうにしてるのを見て、少しでも元気を出してくれたらと思ってね」


 旅の帰り道、イ国に寄ってハンスに無事に此処まで帰って来れたことを報告した際、娘のティアから「ヒュースニアに滞在して世のなかの勉強をしたい」と言われ、まぁいいかと承諾。ハンスとミシャは大歓迎だったが、エリカのほうはいざ自宅に帰ってみると、家のなかにあったはずの賑やかさが欠けたことを時間が経つ毎にじわじわと自覚するようになり、足りない部分が気になっていった。



「ごめんね、気を遣わせて」


「僕が勝手にしたことだよ」


(良い旦那様……)


 エリカは少しほわっと和んだ表情をしたあと、困った風に小さく笑んだ。


「ずっと一緒だった子が居なくなると、置いて行かれた気がして……。駄目だね、成長してない」


「近くで暮らすのを遠慮した理由、まだ訊いてなかったね」


 祖父母は、家族揃ってヒュースニアで暮らすのもいいんじゃないかと勧めてくれた。孫のエリカを子どものうちに預かることができなかった埋め合わせをいまからでもしたい、そんな気持ちがあったからだ。


「……お祖父様とお祖母様のお気持ちは嬉しかったけど、ティアに『お母様には、お父様が居るからいいじゃない』って突き放されたのが結構効いちゃって」


「うん」


「子離れしなきゃと思って決断したの。オリキスと二人になるのが嫌って意味じゃないよ?」


「わかってる。ティアには内緒で、来月、様子を見に行こう」


「怒らせないか心配」


「それはそれで、ティアが順調に自立していってる証拠さ」


「反抗期?」


「あぁ。エリカは最近だったろう?」


「うん。オリキスはいつ来たの?反抗期」


「第一、第二、第三、あったかな」


「そんなにあるの?」


 エリカは目から鱗だった。



「育ってきた環境の差より、親との関係性が影響してたんだと思う」


「……」


「僕の両親は、いつでもすぐ会える所に居ることが多かった。二人は過剰に子どもを愛しすぎたわけではないが、受け止める側としては、愛と甘やかしを混同してた節はあったろうね」


 クリストュルとサラは、丸い飴玉のようにころころした、優しい形の温もりを与えられて育った。


「父が居なくなってからの僕たち兄弟は成人してたのに短気で、思い通りにならないことに腹を立てたり、正論で八つ当たりすることもあった。不甲斐なかったよ」


「でも、それは……」


「ご両親のせいではない。自分たちの甘えが原因だ」


「……」


「君のおかげで、僕らは見えてなかった未熟さに気付き、成長できた。改めて、心から感謝してる」


 オリキスはエリカのスプーンを借りて果肉を一つ掬い、彼女の口のなかに運んで食べさせた。



「……。私のお父さんとお母さんは家に居ないことが多かった。でも、良い子にして待っていたら二人に喜んで貰えるから、それでいいと思ってた、かも」


「親に反抗して愛されてるのを確認する子も居るらしいが、君は愛されてるのをわかっていたから、愛が離れて行かないよう、我が儘を言わず抑え込むのを選択した」



「恥ずかしい話、オリキスに会うまではね、一人で居て寂しいって思うときがあったの」


「全然、恥ずかしいことではないよ」


「うん」


 織人事件後に亡くなったことを知らされなかったあいだも、エリカは親の愛を信じて待っていた。子どもの頃に泣きじゃくって寂しいと言えば、違う結果になっていたのだろうかと後悔した日もある。



「エリカ。寂しい気持ちを抑制したり、誤魔化さなくていいからね?」


「うん。有難う、私の大好きな旦那様」



 顔を見合わせて、ふふ、と笑う。



「今日はこのあと、二人で水浴びでもしに行こうか」


「いいね、それ」


「恋人に戻ったつもりで」


「!!」


 夫の煽りに、エリカは頬を赤らめたのだった。



end?

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