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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.01 嚆矢<こうし>篇
15/153

13:遮音は千切れる前に(前半)

 雨が降りそうで降らないどんよりした曇り空の下、バルーガは来る日の試練に備え、朝から自宅の裏庭で剣を研いでいた。


(翼竜ってなんだ?)


 カコドリ遺跡では無し首族(ノーネック)が。昨晩は、ミヤことシルリアが口にした言葉。

 無関係と思っていた点と点を結ぶ謎の共通点、翼竜。

 バルーガは、かたい表情で仮説を立てる。



(いち)

 ヒノエ新聞の事務局長を務めるアーディンは何者かで、エリカを外に出したくない理由と関係がある。


()

 アンシュタット一族は、魔法軍事国家アイネスお抱えの魔術師集団。シルリアはアーディンを翼竜の友人と言った。翼竜は人語を話せる人間か何か。魔術に使える情報や道具を欲してる?建物の可能性もあり得る。



(もしも軍事利用のために入手したいのであれば、とんでもない話だ)


 十ニ糸の一員である"彼女"はアンシュタットの長に就任後、不仲に在った隣国を大した年数かけずに内側から攻め崩し、続けて学問栄冠都市(がくもんえいかんとし)のウォンゴットも手中に収めたキレ者。次にイ国が狙われたら、此処バーカーウェンの平和にも魔の手が迫るだろう。


 

(怪しいと言えば、彼奴もだな)


 シルリアを伏せたとき、アンシュタットの目的は何か詳細を聞くべきだったのに、奇妙なくらいオリキスは追求しなかった。

 一番引っかかったのは、猛毒を塗り付けたナイフを用意し「僕のすることに干渉しないでください」と、脅しをかけて忠告したあの場面だ。



(「僕のすること」?)



 バルーガは眉間に皺を寄せる。



(一緒に旅をして此処まで来たが、本人の口から貴族の息子としか素性を聞いていない。料理を作るのが苦手だったり、ちっとばかし抜けた所があって、気になれば道中で人助けをする、だから信用してた。

 でも、善良なことをする奴が善人とは言い切れない。何か目的があるはずだ)



 カコドリ遺跡の試練を受ける前に、堰き止めていた物が流れ出すように話が進んでいく。足を取られそうな速さで。



(説明がなければ、こいつで勝負を挑む)



 研ぐのをやめて剣の柄を握り、色んな角度から刃を見る。

 良い感じに仕上がった。

 バルーガは鞘に収めて腰に提げ、母親に持たされた焼き立ての丸いパン三個ーー緑色の葉で編んだ籠に入れてるーーを土産に、オリキスの家を訪ねる。


(一、ニ、三、……八か)


 借家の玄関前では、島民が縦に列を作っていた。今日の客は八人と少ない。


(平穏だな)


 下心を持った若い女の客は順調に減っている。稀に眼福だからと顔を見に依頼を持ち込む者は居るが、精々一人か二人、居るか居ないかだ。



「兄ちゃん、助かったよ」


 髭を生やした中年の男が、拳五つ分はある大きな皮袋を提げて帰って行く。彼が横を通るとき、冷気も一緒に過ぎた。


 バーカーウェンに伝わっていない傷薬、胃もたれ用の丸薬、子どもでも服用しやすい風邪薬、解熱剤など治療薬も人気だが、魔法で作った氷の塊を目当てに来る島民がそれなりに多い。主な使い道は料理だ。新しい調理法と素材は革命をもたらす。

 なかでも果汁を使ったシャーベックという氷菓子、牛乳と果肉を合わせたジュースは、子どもから大人までウケが良い。氷を運ぶための皮袋や牛乳を取り扱っているオットリーの牧場が、人手を求めるほど忙しくなってしまったのは計算外だった。

 苦情は来なかったが、繁盛すればなんでもいいわけではないと思い、予約制に変更。ほかの生産者とも上手に連携をとるようにした。



 バルーガは最後尾に並ぶ。立ちっ放しでも苦にならない。


【内容は簡潔に。ほかのお客様を待たせないためにも、長居はどうぞご遠慮ください】

 オリキスが立て札に書いたそのルールを皆が守ってくれているおかげで、順番があっという間に回ってくる。






「君か。僕に依頼とは珍しい」


 頭の大きさくらいある石の上に座ってるオリキスは、下から声をかけた。


「用事が終わってからでいい。あんたに尋ねたいことがある」


 オリキスはバルーガの、いつになく生真面目な様子と腰に提げた剣を見て察し、あとから来た島民二名に「すみませんが、今日はこれで終わります」と言って、帰って貰った。


「場所を変えてもいいかい?」


「おう」


 此処まではいつものオリキスだ。彼は立ち上がり、石を退けて店仕舞いをする。

 報酬が山盛り入った木製のザルを左腕に抱えて、バルーガ、自分の順に門を潜ると、空いてる右手で長方形の看板をひっくり返し、『準備中』にしてから家のドアを開けてなかへ入る。

 この看板は逆さに向けることで、柵に仕掛けた侵入禁止の術が自動で発動する仕組みだ。術者本人以外は裸眼で見えない透明の壁が、家の周りを一瞬で囲う。見破るには専用の術や魔法、道具が必要だ。


 用心するに越したことはないが、いまのバルーガには強い警戒心の表れに映った。



「母さんからの差し入れだ」


 オリキスは抱えていたザルを台所の中央に置いてある四角いテーブルの上に乗せてから両手で快く受け取り、「有難う」とお礼を言って、食糧を保存するために作った葛籠(つづら)のなかへ仕舞う。


「それで、何を尋ねたい?」


「翼竜ってなんだ?」


「国家機密さ。国の上層と十ニ糸のみが知っている」


 意外とあっさり答えてくれた。


「あんたは詳細を知ってるのか?」


理由(わけ)あってね」



 やはり。



「ちんちくりんには無理でも、オレには教えてくれ。何もわからないまま流されて試練を受けるのは不服だ」


 バルーガに噛み付くような言い方をされても、オリキスは平然としている。



「君が僕を裏切れば、あとがないよ?」



 何処か冷たさを孕んだ質問にバルーガは目を見開き、唾を呑み込む。


(こいつを敵に回す?考えただけで寒気がする)


 それでもと。幼馴染みのエリカが巻き込まれてしまったことを思うと引くに引けず、左腰に提げた剣の柄に、左手の指先を添える。



「悪事であれば、加担はできない」


「……」



 オリキスは覚悟を決めた目を見て、玄関へ向かう。



「おいっ」


「翼竜の正体を知りたいのだろう?」


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