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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
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【番外編3】二度目の帰省

【設定】

・エリカが出産してから半年後

・ややシリアス込み



「おまえが母親ねぇ」


 先にバーカーウェンに行って様子を見てきたサラから話を聞かされた際、バルーガは、子どもが子どもを産んだのかと思った。

 しかし、実際に、エリカが赤ん坊を抱いている姿をなまで見ると、違和感は覚えない。不思議な光景を見せられている気分になるも、茶を飲んでるうちに見慣れ、自然に受け入れることができた。帰省一回目のときから、年齢が似ている若者たちが既に同郷で家庭を築いてる姿を何度も目にしてきたからだと、バルーガは思う。



「そういやデノの奴、おまえが駆け落ちしたと勘違いして、凹んでたらしいな」


「ミーから聴いたの?」


「いや、ティムから」


 ティムとは、エリカとバルーガ共通の友人で、ミーの夫だ。



「私、デノを可哀想なんて思わないよ?」


「だろうな」


「ミーが教えてくれた話だと、海竜が消えて航路が安全になったあと本土から来た、とっても綺麗な女の人に見初められて、一緒に海渡ったって。新しい出会いがあって良かったじゃない?

 それに……」


 エリカは、照れ笑いを浮かべる。


「私、デノのせいで嫌な思いをしたけど、あの日オリキスと和解できて嬉しかった」


「惚気やがって」





 バルーガは魚を入れる専用の革袋を持ち、二本の釣り竿を持ったオリキスと岩礁地帯へ行く。

 池は残っているが、潮の胃袋に続いていた渦は見当たらない。かつて冒険した場所は幻だったのか跡形もなく存在を消し、魚が釣れるようになっていた。



 バルーガはオリキスから離れた場所で釣り糸を垂らし、しゃがみ込むと、渋い表情で話しかけた。


「クリストュル様がご機嫌で、オレは胃に穴が空きそうです」


 一国の王だった人物が立場と国をあっさり捨てて、平凡な島民人生を満喫している。バルーガには、彼とエリカが結婚した事実より複雑すぎて頭が痛い。


「君がどんな子どもだったか、周りの人々が聞かせてくれるときがあってね。深夜に用を足そうとしたら、鉢合わせた祖母を幽霊と勘違いしてお漏ら、」


「うわぁぁぁ言うな、言うな、言うな!!」


 幼少期の恥ずかしい話を突然されると思っていなかったバルーガは立ち上がり、大声で叫んで言葉を遮断。

 予想通りの反応に、オリキスは人当たりが良さそうな笑みを浮かべる。


「二人で居るときも敬語は不要にし、友として接してくれ」


「クリストュル様、世間ではそれを脅すって言うんですよ?」


「ん?」


「いえ、何でもありません」


(王族が友人とか、オレの人生では有り得ねぇ)。バルーガは吐きたくなった。

 それから二人は暫しのあいだ無言になり、針に獲物が食い付くのを待つ。




 ……。

 …………オリキスが三匹釣ってから、


「じゃあ、怒らないでくださいよ?」


 ずっと黙ってるのも悪い気がしてきたバルーガは、自分から話しかけてみることにした。


「オレはエリカが旅を終えたからって、誰に出会って何に遭遇したか、こっちから詳しい話を聴く気になれねぇ。

 魔物を倒した話は参考になるけどよ、相手がいくら悪かろうが、人を死なせた戦いに勝ったからって喜んだり、ましてや讃えてやるなんて以ての外だ」


 エリカがアルデバランの娘だと聴かされて以降も、一人の幼馴染みとして、ずっと見てきた。

 冒険なら、勝利と成長を褒めてやれる。

 彼女が巻き込まれ、良くも悪くも変えてしまったのは、各国の未来と、顔も名前も知らない大勢の人生だ。


「僕のせいだと、はっきり言えばいいだろうに」


「ああそうさ。あんたのせいだ。オレなんか、バーカーウェンに戻って親孝行する計画が先延ばしになってるんだぞっ?」


 エリカがシュノーブに滞在していた頃、クリストュルは騎士団団長と副団長に「バルーガは優秀な騎士だ。二年後には、部隊を一つ任せれる立場にしておきたい」と言って推薦した。

 自国にとっても、本人にとっても、良い話だと思ってのことだったが、納得されてないとわかったオリキスは、微かに呆れたような笑みを口元に浮かべる。


「君は出世欲を持っていい人間だ。もう少し功績を残してから、実家に帰ってくれ」


「……。

 ……。

 釣った魚の数がオレより多かったら、考え直す」


 バルーガは偉そうに宣言。釣り糸を引っ張り、獲物が引っかかってないか確認したが、虚しく針だけが残っていた。



「僕も、君と似たようなものだよ。エリカと出会った者がどんな人物で、どんな運命を辿って行ったか、ほとんど知らないに等しい」


「あんたには甘えて何でも話してると思ったら、全然違うんだな」



 オリキスは以前のような、少し冷めた表情をする。



「悪い話なら、エリカのほうから一つ話してくれた」


「……」


「関わらなければ死なせずに済んだ仲間が居たと、涙ながらに悔やんでいたよ」


 悲しかった体験を否定せずに聞いてくれる相手がオリキスしか居なかったのは、信頼を寄せてることと理解して貰えることは別々であるのを、エリカは旅を通して知ったからだ。



「サラに当時の話を訊いたら、どちらか一人しか助けれない状況だったそうだ。エリカの責任は限りなく(ゼロ)に近いけれど、難しいね、返す言葉を考えたよ」


 仲間に加わるのを完全に拒めなかったサラたちにも原因はある。

 油断した。

 弱かった。

 対策が万全ではなかった。

 悪かった点と反省すべき点は、無制限に出てくる。癒やしにならない言葉は特に。



 バルーガはエリカが泣きじゃくっている姿を想像して、表情を歪めた。


「オレがバーカーウェンから出すのを反対したのは、半分正解だったな」


「半分なのか」


 ふっと、オリキスが薄い笑みを浮かべた。バルーガは釣り針に餌を付けると、また海水へ放り込む。


「世界がちんちくりんを選んだ理由ってのが、わかりたかねぇけど、わかった気がする」


 二人は再び無言になり、釣りに集中。

 小波の音がとても心地良く、耳の奥へ入ってくる。


 何処か寂しくて、

 何処か温かい音。



end

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