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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
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責務(2)



 カロルは会議を終えると、王城内にある私室へ戻った。


「お帰りなさいませ。如何でしたか?」


 衛兵をしてる若い女魔術師が扉を開けると、体が手のひらほどの大きさしかない、穏やかな性格の妖精のトナが飛んできて声をかけてきた。同じく、カロルの世話係りをしている二体の妖精も出迎えに現れる。



「悪い報告から言おう。妃に召し上げられることになった」


 肩まで伸ばした髪を巻き毛にして令嬢気分でいる妖精のラキリタは、六芒星の形をした平らな器に五徳を置き、真ん中に固形脂を嵌めると魔力で火を点けた。特殊な南瓜のポットを置いて湯を沸かす。


「人間の雄は、失礼で野蛮ですわね。淑女を奪うものと勘違いなさってるのかしら」


 体がふっくらしていて何処かあずなさを残してる妖精のワーデンクックは食器棚の扉を開けてカップを取り出し、のろのろと遅い速度で運ぶ。


「ラキリタ。ハバちゃまは、あたくしたちのカロルたまが如何に特別なのか理解に乏しいくらい、無我夢中なのよ」


 カロルは窓辺のテーブル席へ座る。


「あの御方は自己中心ではあるが、王という立場を理解していらっしゃる。条件を提示したら場の空気を読んで、序列を二番目に下げてくださった」


 トナがテーブルの上に小皿を置き、その上にワーデンクックがカップを乗せる。ラキリタはポットをそろーりと持ち上げ、自分の体よりもひと回り大きい硝子製のポットに湯を注いだ。トナは煙で火傷をしないよう注意しながら、ぱこっと蓋をし、布製のカバーを掛けて茶葉を蒸らす。


 ラキリタはカロルに尋ねた。


「一番目のほうが正妃でしょう?惜しくありませんの?」


 ワーデンクックは腕組みをする。


「お馬鹿ちゃんね、ラキリタ。敢えて下がったほうが、大臣どもに敵視されにくいからに決まってるじゃない」


 カロルは脚を組む。男尊女卑とまでは行かないにしても、この国では男のほうが立場は強い。女が長を務めてきたアンシュタット一族は特例として地位を約束されてるが、妃に据えるのだけは慣習に背くと言われてきた。王を傀儡にしかねないからだ。


「私の次の代には、男を長に据えてみてもいいだろうね」


 ラキリタが自身の腰に両手を置き、ぷんすかと怒る。


「まったく。カロル様に杞憂を抱かせるなんて!」


 ワーデンクックがひょいっとカバーを外し、トナが心配顔でカップに茶を淹れる。


「しかし、よろしいのですか?妃になるとはその……」


 言葉を濁されたカロルは涼しげな微笑みを浮かべ、カップの取っ手に指を絡める。


「私が女であるのを残念がるハバ様の顔が実物だよ」


 世界に呪いをかけられて子を産めない体にされたことを不幸に感じている同性の一糸も居るが、カロルは宿せなくてよかったと安心する側だった。



 偉大な魔術師の一人だった祖母ロースティクルハイムは子どもを七人産み、男は慣習通り、分家の跡取りとして国外へ出した。

 彼女は本家に残った六人の娘を育て、魔力に秀でた有能な男と見合いをさせて婿養子にするほど優秀な継承者を残したい気持ちが強い人物だったと、カロルは父親からそのように聴いている。与えられた血の運命を全うすることにひたすら誠実だったとも。


 母親のランベリットはハバの父親にかけられた隠術を代わりに受けて亡くなり、カロルの双子の兄はアンシュタットの長を決める試験の最中に亡くなった。織人事件のあとに一族は壊滅。親しかった四人の姉もこの世を去って、もう居ない。


 十三年間のうちに、血の繋がった家族を全員失った。



 カロルは一族を再興すべく、アンシュタットに加わりたい魔術師を募り、受け入れて数を増やす予定だ。

 母を含めた先祖たちの、血を継承し続けていく夢は潰えることになったが、自分の代で、古い因習を断ち切るのも有りに思えた。



end.

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