【番外編6】魔術師の子どもたち
【設定】
・時代は、アイネスが魔法軍事国家と呼ばれるよりも前。
・アンシュタットがメインの、9割方ほのぼのしたお話。
・文章ざっくり。
・元はss用に打った物ですので、中途半端に終わります。
次期国王に仕えてる女魔術師ランベリットはこの日、一般人のような衣服に着替えてエプロンを着け、草木を植えてある温室に五人娘と一人の息子を招いて長椅子に座らせると、教師の如く、名前を挙げていった。
「長女テハミダ。
次女アリアン。
三女スー。
四女ウェルディア。
双子のマロンとカロル。以上ね。
あなたたちには七日後の朝、未来のアンシュタットの長を決める大事な試験を受けて貰います」
しかし、子どもたちの反応はイマイチ悪い。
「母様。あたし、そんなのなりたくないよ」
ふてぶてしい顔をして真っ向から嫌がる、十六歳のテハミダ。
「姉様は欲が無くて羨ましい。でも、わからなくはないわね。お母様みたいに子どもに恵まれないと恥だもの」
座り方も口先もお嬢様ぶっている、十五歳のアリアン。
「はしたない話はやめてよ。気持ち悪い」
下ネタの話題にドン引きしたのは、物静かな性格の十三歳、スー。
「わたくしは魔術の先生になりたいから、皆に譲ります」
眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、穏やかに微笑んで拒む、十一歳のウェルディア。
呆れ返るランベリットの斜め後ろで椅子に座っている祖母ロースティクルハイムは、孫たちの言葉に苦笑いを浮かべた。
ランベリットは双子に尋ねる。
「カロルは?」
「能力に従うだけです」
十歳である末っ子の彼女は、誰が選ばれてもいいと思っている。自分が負けて除外されても魔術師にはなれるとの考えだ。
「マロン?」
「僕に継承権はありませんから」
双子の彼は眉尻を下げ、困った風な苦笑いを浮かべた。
次女のアリアンは言う。
「マロ。あなたが長になれば、アンシュタット初の男の族長になるのよ?名誉なことだわ。挑戦しなさいよ」
「汚点の間違いだよ、アリアン姉様」
四女のウェルディアは、だらけた姿勢をするテハミダに話しかけた。
「テハ姉さんは、子守りなんてうんざりでしょ?」
優しい声音とは反対にキツいことを平気で言える性格に、皆、静まり返る。これで教師になるのが夢らしいが、向いてるのか正直怪しいとテハミダたちは思っている。しかも、核を突くのでタチが悪い。
「あぁ、やだよ。長の仕事だけでもクソ面倒っちぃのに、ハバ王子の世話係りまで付いてくるんだろ?破天荒な性格で使用人たちを困らせてるって専らの噂じゃないか。あたしはそんな奴の相手なんざ真っ平ごめんさ」
ランベリットとロースティクルハイムは頭のなかで(こらこら)と揃ってツッコミを入れたが、王子のやんちゃぶりは否定しない。
アリアンは右手の人差し指を立てて、自分の顎に指先を当てる。
「王子様にお仕えしないとアンシュタットの長になれないなんて、ご先祖様は妙な約束をしたものよね」
ウェルディアは、にこにこする。
「アリアンちゃんも、スーちゃんも、無理でしょうね」
「マー坊も駄目だろうな」と、テハミダがマロンを見る。
「カロルちゃんは?」
「してみないとわかりませんね」
その答えに室内はシーンと静まり返り、カロルのほうへ皆が顔を向ける。
テハミダは、うん、と頷いて笑みを深める。
「決まりだな」
アリアンもカロルが族長になることに異論は無いが、口先を尖らせる。
「だけど、試験は強制的に参加させられるのよ?」
「手を抜かなくても、魔力の強さで言えば、マー坊とカロルが突出してる。母様も婆様もわかってるはずだ」
双子以外の子どもたちは母親の顔を見、笑顔を浮かべると、無言で「ね?」と、同意を求めた。悪い意味で協調性がある。
ランベリットは娘たちに呆れ返り、盛大な溜め息を吐く。
「自ら不合格になりに行った子は、成人後になりたいって我が儘、言わないようにだけしてよね」
テハミダ、アリアン、スー、ウェルディアの四人は声を揃えて「はい!」と答え、席を立って解散をし始めた。
ランベリットは頭を痛める。
(はあ。世代の違いかしら)
アンシュタットの本家に産まれた少女たちは皆、長になる試験を心待ちにする者ばかりだった。自分の子どもたちだけ、なぜ大きく逸れてしまったのだろうか。
(一族に産まれた誇りはあるのに、此処まで使命感に欠ける子たちに育つとは予想外だったわ。……でも、そんなのは大した憂鬱で終わる)
ランベリットは、ある不安を抱えている。マロンの存在だ。
双子のうち両方が女であれば幸運だが、片方でも男が産まれるのは不吉だと、アンシュタット内では前々からそのように言われている。
end?
【あとがき】
本編のほうではツンとした性格のカロルですが、家族に恵まれてました。第二妃になってからは二人の妃と仲良くするなど、身近に居る同性との関係は円滑なほうです。