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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
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遠回しの告白(2)



 ソフィリアと一緒に帰宅したユンリはドアを開け、呆れた目で二人を見る。


「また喧嘩してるのか?あんたら懲りないな」


「ほら!ユンリくんのほうが大人だよっ!」

「おまえは此奴より歳上の癖してガキだ!」

「サラのほうがもっとお兄さんじゃない!」


(自ら死球を喰らいに行ってどうするんだか)。ユンリは浅めに、はあ、と溜め息を吐いて調合用の素材が入った布袋をテーブル上に置き、何を購入したか見せるために中身を一つずつ取り出して、黙々と並べ始めた。二人の口論に慣れてる彼は、今日も適当に放置しておけば勝手に鎮火すると思っている。


 あとから続いて台所に入ってきたソフィリアのほうは……、表情を歪めていた。


(サラってば、好きな女の子にも折れないのね。

 ひと先ず、引き剥がしたほうがいいか)


 ソフィリアは食材が入った紙袋と包みを調理場の横にある作業台の上に置き、肩に担いでいた大きな布袋については降ろすと両手で持ってエリカに差し出し、にっこり笑いかける。


「これ、あなたにお土産」


「?」


「試着してみて」


 話しかけられたことで先に口論から離脱したエリカは、彼女に背中を押されながら台所を離れた。

 寝室へと放り込まれ、一人で布袋を開ける。

 入っていた服に着替えて台所へ戻るとソフィリアがにこにこ笑い、サラの左腕を肘で小突いた。


「大人っぽくなって綺麗でしょ?」


 胸元と二の腕部分に華美ではない草花の刺繍を施した、秋の芝生色が基調のロングワンピース。腰は同色の帯を巻いてくびれを強調し、ゆとりのある広袖が心の余裕を感じさせる。加えて、髪をひとつに束ねているのと首周りが広く空いてるせいか、隙だらけの首筋が艶めかしい。


「オレは中身の話をしてるんだが?(畜生。此奴らの前で似合ってるなんて言えるかよ)」


 褒めて貰えることを最初から期待していなかったエリカは、ふんっと言ってそっぽを向いた。その際、耳に付けているイヤリングが揺れるだけで彼女の首筋へと視線を持って行ってしまったサラは、衣服と装飾品を用意したソフィリアの意図に釣られたと気付き、自分の男心を恥じながらも眉間に寄せた皺を濃くして、一貫した態度を取り続ける。



「ねぇ、エリカちゃん。これから女同士で呑みましょうよ。雰囲気が良さそうなお店を見つけたの」


「気分転換、大事ですよね。行きましょうか」


 サラは食卓用の椅子に座って頬杖をつく。エリカとソフィリアが外出した直後、ユンリにぼやきたくなったが、言えばダサいとの理由でやめておいた。





 夕刻。五軒隣りにある飲食店にて出された食前酒を飲んだあと、ソフィリアは向かい側の席に座っているエリカの、ぽやんとした緩い雰囲気の笑みを見て謝罪した。


「ごめんなさい。お酒、弱かったのね」


「少量だったら平気です」


「……。あたしってば大概強引な人間で、悪いことしちゃってるのはわかってるんだけどね」


 エリカはサラダの上に盛り付けられてる焼肉を野菜と一緒にフォークで刺して口のなかに入れ、十分噛んで飲み込む。


「サラが私との距離感を大事にしてくれてるのわかってます。世界の呪いが消えてからも、自分の意思で積極的に触れようとしなくて。口はあぁだけど紳士な所もある優しい男の人?男の子?です」


「そこまで理解があるのに対象外なの?」


「ソフィリアさんはサラを推すんですね。元婚約者だから心配してるとか?」


 崩御したアルバネヒトの国王から見て従姉妹だったソフィリアは、シュノーブの王族ヤシュ家に嫁入りすることが決まっていた。

 良く言えば爽やかで優しい、悪く言えば何処か頼りなく見えるクリストュルよりも、行動力があるやんちゃな性格のサラを王座に就けたほうがいいとの評価が当時は高かったため、そのような組み合わせになったのだが。

 武術を習っていた勝ち気なソフィリアは歳下に一切興味なし。サラと顔合わせした日に性格の不一致から殴り、揉みくちゃになるほどの喧嘩に発展。

 後日、ソフィリアは家出。アルバネヒトの未来は次の王に託されたのもあって、婚約の話は自然に流れた。


「同情心かな。あたしの妹と彼奴とじゃ性格は天と地の差ほどあるけど、大好きな兄を助けたい気持ちで旅してる姿を見てるうちに、幸せになってほしいって望めるようになったわ」


 ソフィリアはテーブル上に両肘を着け、組んだ手の上に顎を乗せて穏やかに微笑む。あんなにも嫌っていた男の未来が幸せであってほしいと考えれるようになったのは、目の前に座っている人物が繋いでくれた縁のおかげだ。


「エリカちゃんもうちの妹と同じくらい可愛い妹みたいなものだから、既に男が居るなら無理強いはしない」

 

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