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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
最終話
132/143

幸せが孵る場所

※ざっくばらんな文章、陳謝です。



 魚釣りに来ていた島民のうち四人の男は、戻って来た二人を浜辺で見つけると、あたたかく迎え入れた。


「風の噂で、エリカちゃんがシュノーブのサラ王子と婚約したと聞いてたんだが、やっぱ出鱈目だったか」


「オリキスくん、お帰り」


 帰りたかった場所に来れた安心から、オリキスはほんの少しやわらかめの声音で


「ただいま」


 と、応える。

 居なくなる前の彼とは何か違う、微細ではあるが変化を感じ取った男たちは顔を見合わせ、より歓迎した気持ちで歯列を見せながら、にかぁと笑った。

 彼らは、村長へ報告に行くと言う二人を挟むように並んで歩く。

 うち一人がオリキスに真相を確認。


「揃って帰ってきたっつうことは、じゃあ、結婚すんのか?」


「はい」


「プロポーズはどっちから?」


「彼女からです」


 周りが、おぉー、と、どよめき立つ。照れたエリカは赤面し、俯き加減になった。

 先ほど質問した男の隣りから、また別の男が出しゃばって、オリキスに尋ねる。


「新居はどうするんだ?」


「それは--」








「君に娶られたも同然だね」


 夜。寝間着姿の二人は、寝台の上で横になり、仲良く抱き締め合う。家はエリカの自宅でそのまま住むことになった。


「でも、主導権はオリキスさんが持ってるんだよ?」


 彼は戯れるような動きでエリカを仰向けに転がし、ベッドに磔にして顔を見下ろす。



「さんは要らない」



 挙式は三日後。まだ夫婦ではないが、もう決まっている。

 名前を呼び捨てすることにエリカは照れて頬を赤らめ、小声で名前を口にした。


「……オリキス」


 彼は目を細めて浅めに唇を重ねたあと、肩に顔を埋めた。

 これからはエリカの家の匂いに包まれることも、幸福の一つになっていく。


 分け与え、時に共有し、支え合う喜びを感じながら……。


 


*.・

.*°.・





「曾おじいさま!」


 六年後、イ国の南部にある首都ヒュースニアにて。

 黒髪とオレンジ色の髪が交互に生えている五歳の少女が明るい声で教会へ入り、朝の祈りが終わって休憩へ行こうとする枢機卿のハンスを呼び止めて駆け寄る。


「おお、ティア」


 ティアと呼ばれた少女は、正面から抱き付いた。

 遅れて教会内へ入ってきたエリカは困り顔で歩き、娘に追い付くと注意する。


「こらっ。駄目でしょ?場所を弁えて、ハンス様と呼びなさい」


「お母さんったら。怒ると、お父さんの大好きな可愛い顔が台無しよ?」


「む」


 叱られるのを回避する知恵がついてきたのをわかりつつも、そう言われると、ぐうの音も出ない。


「エリカ殿、すっかり母親の顔になりましたな」


 成長した孫と曾孫を前に、ハンスは目尻を垂らして喜ぶ。

 ティアから両手を広げられ、無言で抱っこしてくれと要求されたエリカは呆れつつも抱き上げて、苦笑いを浮かべた。


「まだまだわからないことばかりで、日々勉強してます」


 彼女は旅を終えてバーカーウェンへ帰郷後、一年経たないうちに身籠り、翌年出産。ティアと名付けた。子育てがある程度落ち着いてからは一年に一回ヒュースニアを訪れ、祖父であるハンスとその妻ミシャに顔を見せている。


「オリキス殿は?」


「サラ様と外でお話になってます」


「弟君のですか」


「はい」


 今回はティアが成長したのもあって、親子三人で一度、国々を見て回ろうかという話になった。クリストュルことオリキスの弟サラは護衛だ。





 シュノーブに到着し、城に招かれてすぐ元臣下たちの興味を一番引いたのは……。


「この少女が、クリストュル様のお子!」

「サラ様からお話は聞いてましたが、可愛らしい」

「ヤシュ家の方々の血を引いてるのが一目でわかるご尊顔ですね」


 ティアは両親に教わった通り、両手でワンピースを摘み上げて品良く挨拶。


「初めまして。ティアと申します」


 臣下たちは心をほわぁと和ませた。


「な、何か召し物を!」

「天使!」


 皆が囲って喜ぶ。

 ティアの遊び相手を騎士たちに任せてるあいだ、エリカとオリキスは元従者のエンに案内された部屋で、二人きりの茶会を楽しむ。

  

「オリキスさん、後悔してない?恋しかったら、シュノーブへ移住してもいいよ?」


 彼女の気遣いに、彼は微笑む。


「来たければ、また三人で来ればいい話だ。

 僕は君の生まれ育ったあの島で暮らし続けたい。正直もう帰って、海の香りに浸かりたいと思っているくらいだ」




「お父様!お母様!」


 用意してくれた物に着替えたティアが、駆け寄ってきた。


「ドレス姿も可愛いね」と、エリカが。

「お姫様みたいだ」と、オリキスが褒める。


「あのね、ティア、シュノーブに住みたい!」


 オリキスは「いや、それは……」と言葉を濁し、エリカは隣りで笑った。



end.〈完〉

 アルデバランの娘としてのチカラは世界に戻され、エリカの呪いも消失。十二糸だった者たちも完全に解放されたことで、自分たちの人生を歩んでいる。

 サマラフもそのうちの一人。

 彼は、大きな騒動が起きてもやはり何も変化しなかった自国の有り様に、自分がもう付いて行けないのを受け入れ、チカラを失ったことも併せて正式に大使を辞任。ヘルバード家を出て、家名を捨てた。

 その後。嘗て仲間だったゼアと時折り馬鹿なことを言いながら、何処にでも居る冒険者の一人として、仲良く旅をしている。

 恋愛ごとはいまのところ、エリカを好きになったのが最後だ。



 忍ノノビ族のカニヴは旅を終えたあと、セティナとは一時期、密な関係を築いていたが、イ国のスフ王が病気で伏せったのを機に彼女から別れたいと言われ、ショックを受けて里のアンコウへ帰郷。

 村の者と夫婦になり、子宝に恵まれている。



 汚名が晴れたユンリは東国アルバネヒトへ戻り、国の再建に尽力した。政務官の下で勉強し、後にキアの実家があるトゥシャーヤ地方で役人として働く。世界のチカラは失っても、国の、人々のために役立ちたい気持ちからそういう生き方を選んだ。



※未登場の十二糸たちについては伏せてます。

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