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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
最終話
131/143

みんなのために君は居ない

※話をさらに大きく省きました。南海トラフ巨大地震が発生するまでに『Aldebaran・Daughter』をすべて書き終えて連載を終えるのは難しいかもしれないと判断し、先に最終話を投稿した次第です。

かなり省いた内容になってしまい、申し訳ございません。

取り敢えず、こういう終わり方をしますというのを明らかにしたかったのです。



 元・十二糸の一部とその仲間はエリカに協力し、水鳥の巫女イナバに扮する世界と戦って勝利。

 負けを認めたイナバは約束通り、今後は人々に干渉しないことを、穏やかな笑みを浮かべて誓った。



「もう一つ、大事な約束ごとがありましたね。

 頑張ってくれた私の片割れたちへ、ご褒美を与えます。

 先ずはユンリ。あなたから、叶えて貰いたいことを教えてください」


 アルデバランの娘エリカとは別のチカラを授かり転移してきた、もう一人の、世界の魂の片割れである十八歳の少年ユンリ。彼は東国アルバネヒトで王殺しの汚名を着せられて国外逃亡し、一糸の手引きを受けて、身柄の保護と引き換えにシュノーブに協力した。



 彼の願いは一つ。


「キアの錆化を治してくれ」


 六歳上の女魔法使いキア。彼女はアルバネヒトの国王フェルディナンのいとこであり王女。アンシュタット一族からユンリを守るために光術と陰術を使って蝕みにかかり、国外逃亡を手助けした際に仲間だったはずの者から攻撃されて命を落としかけた。

 ユンリはキアが死んだと思い、後悔したが、アルバネヒトお抱えの王族専属医だったナナチが治癒魔法を施し、仮死状態にしてくれたおかげで助かったことを後に知る。

 ただ、目覚めたあとも錆化だけは治らず。このままでは蝕みが進み、いずれ死に至る。



「キアの姉ソフィリアさんを生き返らせることも考えたけど、命が削られていく妹を助けられず、黙って見つめさせるのは酷だから」


 自分を弟のように扱ってくれたフェルディナンも生き返らせたい人物だったが、親友と妻を亡くした現世に帰らせても、喜ばれはしないだろうと思った。何のために生き返らせたんだと訊かれても、答えが見つからない。もっと有意義な選択肢をしろと、反対に叱られてしまう。亡くなってしまったほかの面々も、同じように言うはずだ。



「生きててほしかった人たちが俺に望むのは何か、想像しての答えだ」



 イナバはユンリの願いを聞き届け、この場に居るキアの錆化を消した。

 次は……。



「エリカ。あなたの幸せは何か、教えてください」


 ユンリには叶えたいことと言ったが、もう一人の片割れには別の表現をした。



(私の幸せ……)



 キアを仮死状態にしたときから体が子ども化したままのナナチが、後方から声をかける。


「エリカさん。みんなの幸せじゃなくて、君のための幸せを考えるんだよ。みんなのために君は居ないし、君のためにみんなは居ない」


 それは、ロアナで不安に押し潰されそうになったとき、ナナチから貰った言葉。



 エリカは決心し、歩いてオリキスの前に立った。彼の両手を包み込むように優しく握って顔を見上げ、何事も無かったように笑いかける。


「オリキスさん、一緒に島へ帰りましょう」


 誰と幸せになりたいかを考えての答えだった。自分の未来のために出した結論。



 亡くなった両親を取り戻すか、他者のために何かを叶えてサマラフと幸せになるだろうと、オリキスは思っていた。自分が愛を向けて貰えることはもう二度と訪れないのだと、諦めていたのに。


 思いがけない言葉に期待していいか、オリキスは戸惑い混じりの小さな笑みを浮かべ、弱気から微かに震えた声で訊ねる。


「それは告白かな?」


「はいっ。私と結婚してください」


 人前で間髪入れずにはっきり言われたオリキスは、目を見開いた。

 エリカは念押しする。



「幸せにします」


「……」



 そこまで強く言われると、泣きたくなる。



「君は、……本当に」



 彼はするりと手を抜いて、右手の甲で目頭を抑える。シュノーブの国王クリストュルではなく、魔法騎士オリキスとの人生を欲してくれた。

 嬉しかった。

 密かな夢だったのだ。

 バーカーウェンに戻り、二人で暮らすのが。




 エリカは、イナバに勝てば何でも願いを一つ叶えて貰えることを教わったとき、アルデバランの娘との契約に従って死者となったクリストュルを生き返らせたいと思った。

 それをオリキスの姿をした彼に話したら、答えを焦らず、冷静な頭でほかの選択肢もじっくり考えるよう勧められた。盲目にならないようにと。

 


 再びバーカーウェンで両親と暮らす未来もエリカは考えた。翼竜だった頃の記憶を取り除いて、空白だった家族の時間を取り戻したいが、本当にそれは自分の知っている両親になるのか不安が過る。


 では、自分以外の誰かを喜ばせるために、叶えて貰うのもいいのなら。例えば、

 本来は無関係なのに、自ら一緒に旅をすると言い、強引に仲間に加わってくれたソフィリア。そのせいでキアに再会することなく命を落とした。

 彼女を生き返らせた場合、長年離れていた姉妹を会わせることができる。


 両親の罪は晴れはしないが、織人事件の際に亡くなったクリストュルの父親やサマラフの姉を生き返らせるのも有りだ。



 罪と言えば、七年前にアイネスの首都に住んでいたアンシュタット一族を壊滅状態にしたのも、エリカの両親が原因。

 十二糸の一員であり一族の長になった女魔術師カロルはサマラフの心までも奪ったエリカを憎んだ結果、世界の呪いによって魔獣と化し、暴走。敗れて人間の姿に戻り、負けを認めたあと本国へ帰るも、自我を失って国に惨劇を招いた王を倒す羽目に。

 最期は静かな場所でゼアに見守られながら、眠るように亡くなった。


 他国を荒らして自分本位に動いたカロルの死は自業自得ではあったが、エリカは彼女を恨んでいない。生き返らせたら再び命を狙ってくるかもしれないし、他国を苦しめる可能性もある。逆に、罰せられる側になることも……。改心を期待してはいけない人物だ。


 でも、ひょっとしたら良い方向に……。そんな気持ちが過った。


 何となく見透かしたゼアは苦虫を噛み潰したような表情でエリカに、

『お嬢ちゃん。哀れみは持つなよ』

 と、助言。

 人のためにと言いながら、同情や自身が抱えている罪悪感を取り除きたくての偽善から決めた答えになってしまうからだ。


 まるで謎々。何が正解か?

 オリキスが何を望んでいるのか?再会しても尚、エリカにはわからなかった。


 しかし、イナバに幸せとは何か問われ、一人ではなく二人で幸せになりたいと思った。

 自分のために。





 イナバの転移魔法により、各々は希望する場所へ戻って行った。

 エリカとオリキスは、バーカーウェンへ。


 二人は波打ち際に立っていた。

 口から何か言葉が出そうで出ない。


 泣きそうな顔で、潮の香りごと抱き締め合う。

 小波の音と温かい心音が、酷く懐かしい。

※まだ続きます……!

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