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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 天牢の雪国シュノーブ
129/153

05:結い直す





 クリストュルに対する忠誠心の高さか、単純に不仲なだけか。辺りに響く靴音は強調されたものではないが、牽引される側の耳には静かな苛立ちが伝わってくる。




 客室がある階まで来るとエンは手を離し、真顔で謝罪した。


「手荒な真似をして、申し訳ございませんでした」


「いえ……」


 彼は壁際に立っている騎士たちについて、歩きながら説明する。


「エリカ様専用の客室に、許可無く出入りできる者は限られてます。不審者が現れたときは、警護についてる彼らに遠慮なく助けを求めてください」


「わかりました」


「初めから城内へ入る許可を得られない者は論外として、どなたかをお招きしたい場合は事前に私へご相談くださるよう、お願い致しますね」


「無許可の人って、宰相や大臣みたいな偉い人も含まれるんですか?」


「はい。客室周辺と、一部の人間のみしか立ち入ることができない場所以外では、自由にお話してくださって構いません」


(でも、さっきは……名前、アッパッティオさんだっけ。エンさんは、あまり良く思っていない様子だった。変な面倒ごとに巻き込まれないようにしなきゃ)


 派閥の対立があっても自分には無関係。内部に敵が居てクリストュルを裏切ろうが、それは本人たちの問題。生き延びるためにはどうでもいいこととして扱うのが賢明な判断だと、エリカは思う。旅をしてるあいだ、人の事情に感情移入して良かったことなど、ほとんど無かったように感じたからだ。




 エンは客室のドアを開き、先にエリカを入室させると、自分も続いてなかへ入った。



「…………エンさん。割り切る時間をください」



 彼は(わかってないな)と、心のなかで冷めた目をする。


「エリカ様。アッパッティオ大臣は、仕事だと思えばラクだと言ってましたが、クリストュル様はあなたにそれを望んではいません。忘れないでください」


「ッ……」


 心の逃げ道さえ塞ごうというのかーー。悪い意味に捉えた彼女は、懸念からかたい表情をした。

 一方のエンは解釈を間違えられてることに気付いていたが取り合わず、ドアを閉じ、話に釣られてくれるか試しに質問してみる。



「参考に教えていただきたいのですが」


「何ですか?」


「バーカーウェンでの、オリキス殿のご様子についてです。彼の間抜けな話、生活態度、島民たちと上手く交流できていたかなど、エリカ様からお話を伺いたいのです」


「ご本人から、何も説明なかったのですか?」


「事実確認ですよ。細かい部分は訊いてませんが、エリカ様のお体に触れたことも……」


「!!!」


 彼女は恥ずかしさから赤面。両手で耳を塞ぎ、サッ!と座り込んだ。


「わかりました!わかりました!それ以上は言わないでくださいッ……!」


(まあ、この反応が普通だよな)


 リラは「昨夜はお楽しみになられましたか?」と訊かれても羞恥心を感じず、日常会話をするときみたいに笑んで「楽しむも何も、皆さん、お相手が居ればしていらっしゃることでしょう?」と返してくる。エリカの三分の一でいいから、頬を赤らめるなりしてくれればと、エンは思う。


「エリカ様、言いませんから、お立ちになってください」


「はい……」


 彼女は耳から手を離して立ち上がったが、頬の火照りは残っている。


「ご迷惑をおかけしたり悪かった所は、本人に直接注意しておかなければいけません。ご理解いただきますよう」


「エンさんて、王様の教育係りか何かですか?」


 彼は人当たりが良さげな小さな笑みを浮かべ、首を左右に振った。


「いいえ。あの方を調教するのは至難の業ですよ」


(調教……)


「エリカ様なら、できるのではありませんか?」


「私には無理です」



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