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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 天牢の雪国シュノーブ
125/143

04:月白の湖畔に落ちる悲しみの涙




 何を言っても無駄に終わる気がしてきたエリカは、俯き加減になる。


「申し訳ありませんが、ご所望になってるチカラを持たない以上、お役には立てません。クリストュル様にとっても私は…………、……」


 涙声になりかけた所で、一度息継ぎのように浅めに、すう、と息を吸い、一拍置いてから気落ちした声を出す。



「……用無しになると思います」



 主君の、アルデバランの娘に関する嘘の報告を鵜呑みにしたままの臣下たちは(ぁぁ……。可哀想に……)と、エリカに同情の眼差しを送った。

 両親の罪を知らずに一般人として過ごしてきたのに、今後は自分のたちのように振り回される側になると思うと、不憫でならないのだ。


 だが、鼻の下に生えてるちょび髭と眉毛が濃いめの、野生的な雰囲気があるアッパッティオ大臣だけは、人を食ったような不敵な笑みを浮かべる。


(相手が小娘だろうが、容赦ない男だ)



 その隣りでは、騎士団団長のコルヘニクスが、表情ひとつ変えないクリストュルを見遣り、先王との違いを改めて感じている。

 加えて、脳裏に過るあの一件。


(彼奴が帰還早々、辞表を持ってきた理由はこれか)


 バルーガの怒りが大爆発する原因を作ったのは、十中八九、主君であることに間違いはない。絡んでる中心人物は恐らくエリカだろうと、コルヘニクスは想像した。



 悪い意味で注目されてる、とうの本人といえば。


(ふむ……)


 出席してる面々の表情や仕草、立ち姿を観察していた。

 エリカのために自身が悪者になるのを望んでいたクリストュルは視線を配り、欲しい反応が得られたことを目視で確認。

 次いで、「用無しになる」という、その言葉に対して返事をする。


「離れてるあいだに、人を疑うことを知ったのだね。良いことだ。

 エン。彼女を客室に案内して、温かい飲み物と食事を」


「畏まりました」



 エリカは、失笑したくなった。



(…………私の話、全然聴いてくれない)



「エリカ殿。チカラが無ければ、掴めばよいだけのことだ。私は今日明日にでも何とかしてくれと焦っていない。シュノーブに居るあいだ、ゆっくり休むといいよ。手厚いもてなしをしよう」


「…………」


 クリストュルの顔を正面から見ることに疲れてしまった彼女の表情は暗い。



「エリカ様、どうぞ此方へ」


 エンに声をかけられたエリカは、謁見の間から出ていく。



(……私の心、軽く扱っていいと思ってるんだ。道具として利用するために生かすしか、価値が無いから……)


 何処にも居場所が無いなら、逸そ服従したほうがラクかもしれないと思えてくる。


(バルーンもこの国に居るはずだけど、助けを求めるのはやめたほうがいいよね)


 魔法騎士オリキスの戦闘能力は、バルーガの能力を大きく上回る。アルデバランの娘のチカラを使ったところで、何処まで通用するのかわからない。

 それに、此処はシュノーブの王城。騎士たちに包囲されたらお終いだ。




「エリカ様」


「はい」


 謁見の間から離れた、人気のない静かな通路。彼女の前を歩いていたエンは立ち止まり、後ろを振り返る。


「クリストュル様は、あなたが目をお覚ましになられるのを、毎日気にかけていらっしゃいました。悪くお考えになりませんよう」


「……。……勘違いしてませんか?」


「何をです?」


「早く起きてほしかったのは、私が道具だからでしょう?あの人もみんなと同じ、優しく話せば手懐けることができると思ってる。どうせ騙し続けるなら、ッ……、もっと、マシな嘘を吐いてほしかったです」


 エリカは目から溢れた涙を、服の袖で拭う。

 


「勘違いなさってるのは、あなたのほうですよ。道具ではなく希望です」


 彼女は、首を左右に振って否定した。


「そんなの、言い方を変えただけにすぎません」


 エンは気怠そうに、はあ、と溜め息を吐きかけたが、エリカの後方から迫ってきた足音を聴いてやめておいた。


「いやぁ、頑固なお人ですね」


「アッパッティオ大臣」


「へし折られてくれない何処かの王様を、彷彿とさせますな」


「無礼がすぎますよ」


 アッパッティオはエンの注意を右から左へ聴き流し、気安い態度でエリカに提案する。



「仕事だと思えばいいんです」


「?仕事……」


「えぇ。我ら臣下が!と言えば、誤解を生むでしょうが」


 アッパッティオは愉しげに、ちらっとエンの顔を一瞥。


「王様と国民に仕えるのは仕事だからです。無理に忠誠心とかね、あの人は求めちゃいないんですよ。することしてくれればいい人なんで。そっちから睨んでくる坊やも」


 エリカは、きょとんとして、大人しくなる。


「シュノーブに協力するあいだ、淑女扱いを受け入れて人形になるのが仕事だと思ってください。飯を食う、動く、寝る。ラクに考えてりゃいいんです」


「…………はあ」


 エンは「失礼します」と言ってエリカの左手を掴み、自分のほうへ無理やり引き寄せた。


「行きましょう」


 スタスタと足早に歩き、彼女をアッパッティオから引き剥がした。


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