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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 天牢の雪国シュノーブ
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03:天牢の王




 着替えを渡されたエリカは、パーティションで仕切られた狭い空間へ入った。脱いだ寝装着は籠に入れ、新品の衣服に袖を通す。本土であれば春秋物に該当する薄さだが、防寒に優れた素材とあって寒さを感じにくい。


「エリカ様、髪を結わせていただきます。着替えが済みましたら、此方へどうぞお掛けになってください」


 彼女は、化粧台の前に置いてある椅子に座った。後頭部の上のほうで、髪を一つに束ねられる。


「耳飾りも付けさせていただきますね」


 エンは、効果について説明しなかった。

 飾りに嵌め込まれている、一見、何の変哲もない小粒の宝石。これを装備した人間は、魔法や魔術を発動することができない。魔力によって作動する仕掛けも無反応で終わる。アルデバランの娘に効果あるかは不明だが。



「似合ってますよ。では、参りましょうか」









 一階にある謁見の間へ近付くと、気が弱い泥棒なら腰を抜かしかねない厳つい顔の門番が二人、両開きの扉を守っていた。

 サラは、自分より四倍も体が大きい巨漢に話しかける。


「アルデバランの娘を連れてきた。開けてくれ」


「承知致しました。

 ベレネー」


「うむ」


 ベレネーと呼ばれた右に立っている男は、相棒に合わせて扉を押し開ける。巨漢のほうはわかるが、体の大きさが通常の人間と同じベレネーに関しては、何処にそんな力があるのだろうかと思わせる腕力だった。



  ーー ギイィィ…………。



 扉を動かす音が止まると、エリカの視界の真ん中を塞いでいた、偉そうな背中が退く。

 代わりに見えるようになったものといえば、玉座の後ろ側まで続く、金色の模様などをあしらった濃い水色の絨毯の道。その両側には、高貴な服に身を包んだ年齢がばらばらの男女が五人ずつ立っており、壁側と玉座付近には近衛隊の姿があるのだが、エリカには前方に居る一人以外を注視する心の余裕は無かった。


 口元の動きと声だけで機嫌をわからせるような仮面を着けて玉座に座っている男の姿を見、恨めしそうに表情を歪める。



 列に加わったサラは、ツンとした表情で王に報告。


「アルデバランの娘を連れて参りました」


「ご苦労。彼女、随分怒っているみたいだね」



 エリカは、


(あぁ、この人も最初から騙す側に居たんだ。信じた自分が馬鹿だった)と思う。

 見抜けなかった悔しさと裏切られたことに対して、泣きたい気持ちに駆られた。



 エンは謁見の間へ入り、手と言葉で促す。


「エリカ様、此方までお進みください」


「…………」


 彼女は絨毯の上を歩き、指定された位置で立ち止まると、前方を見てやや強めに声を発した。


「乱暴な扱いを受けたら、怒りたくもなります」


「サラ」


 弟は兄に注意されようが、素知らぬ顔を通す。


「この者の覚醒を知るためです。残念ながら期待に応えれるものが、微塵もありませんでした」


 エン、サラ、近衛隊以外は都合が悪そうに「何だって?」と顔を見合わせた。

 彼らの反応を好都合に捉えたエリカは、それならと遠慮なく言わせて貰う。


「私は両親の行方を知りたくてバーカーウェンを出ました。亡くなってることを旅の途中知ったので、島へ帰ります」


 シュノーブ国内で一番刃向かってはいけない人物は誰なのか熟知している臣下たちは、彼女の申し出にざわついたが、玉座から、


「静粛に」


 という、諌める声が発せられると、皆、口を閉じて黙った。



 王は仮面を外して素顔を見せる。


「そう言わず。ポルネイ以来の、久々の再会だろう?」


「……」


「本名はクリストュル=ヤシュ。オリキスは偽名だ」


「…………」


 エリカは再会を喜ばず、反抗的な視線を向けたまま。

 しかし、彼にしてみれば、その反応も想定内の一つ。自分は不快に感じることは微塵も無い。寧ろ喜びを抑え込んで、冷静な顔を装っている。



「アルバネヒトの首都には行ってみたかい?」


「寄り道程度ですが、行きました」


 クリストュルは仮面を着け直した。


「シュノーブは、あれの二の舞になるそうだ」


「……」


「群島のヤマタヒロと多宗教国家のクダラは、争いを避けて属国になる道を選んだがゆえに、奪われ続けている物が多々ある。

 我が国を南下した先にある砂漠の国チャイソンなどは、表面上、ロアナと友好の形をとりながら搾取される側を選んだが、王に仕えてるはずの一糸のゼアはアイネスのカロル妃の駒になってる状況だ」


 クリストュルの説明を聴いてる臣下のうち二名は相槌を打ち、四名は憂いた表情をする。


「シュノーブについては、二糸をアイネスのために献上しろという要求も含まれててね。抵抗を続けるなら武力行使するとの脅迫まで付いてきた。

 私は他国のそんな暴挙を、一国の主として遺憾に思ってるのだ」



 エリカは、強張った表情で言う。


「糸を切ったら、被害は増えます」


「かもしれない」


 クリストュルは無問題と言いたそうな、余裕を感じさせる笑みを浮かべた。


「それについては策がある。だが、成すには君の協力が必須だ」


「……」



「糸を切って貰いたい理由は、ほかにもある。

 重要な役割を長年担っている他国の貴族や重臣たちは、私の弟君のサラと近衛隊隊長のリラを正当な目で見ることはできないのだと拒んでいるのだ」


「クリストュル様が言葉で一蹴(いっしゅう)なされば、よろしいのではありませんか?」


 臣下の多くは(おいおい)と、顔を青褪めさせた。なかには、度胸があるじゃないかと好意的に見る者も居る。



 クリストュルは、少し意地悪をしてみたい気分になった。


「エリカ殿。彼らが自分たちの損得や見映えのために知恵を働かせて、一国の主や高官が持っている行使力や発言を小さな物として歪めさせれることくらい、国々を見てきた君なら理解できるだろう?」


「……そうであるなら、あなたが私を自由に扱えるのも、シュノーブのなかだけという解釈でよろしいですか?」


「いいよ」


 謁見の間が、酷く重い空気に包まれる。

 エリカの挑発的な態度にサラは苛々し、エンは呆れた視線を送った。



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