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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 天牢の雪国シュノーブ
122/143

01:深層の檻

※此処から二部作目に突入します。

*****



 エリカは色とりどりの花が咲いた花畑のなかで、一人孤独に膝を抱えて座っている。


 山に囲まれた長閑な風景。

 小鳥たちの囀り。

 花の蜜を吸いに来る蝶。

 髪を撫でる優しい風。

 明るい夜空に浮かぶ、神々しい満月。


 しかし、心を照らしてくれる物は存在しない。



 俯いてる彼女の隣りにアルデバランの娘が座り、意地悪い笑みを浮かべて前を見る。


「良かったわね。あなたが望んだ通り、サマラフは命を棄ててくれた。役職も婚約者も、全部ね」


「…………棄ててほしかったわけじゃない。私のせいでサマラフが死んだ。私が追い詰めたの」


 アルデバランの娘は、花を一輪摘み取る。


「彼奴は悪人。世界を処刑した」


「ううん。善い人だった」


「あなたの親を斬ったのに?」


「先に取り返しのつかないことをしたのは、私のお父さんとお母さん。止められなかった責任は私にある」


「また昔みたいに、抱え込んで逃げるんだ?好きよね、被害者になるの」


 アルデバランの娘は花に向かって、ふう、と息を吹きかけて消す。

 エリカは深く俯いた。


「…………バーカーウェンから、出なければよかった」


「それを決め付けるには早いでしょ」


「……寧ろ、遅かった」


 アルデバランの娘は立ち上がると、咲いている花々はすべて枯れ、黒く溶けて無くなった。


「おねんねの時間は終わり。

 目が覚めたときには、あなたの記憶からサマラフは消えてる。悩みが一つ消えたところで新しい悩みは増えるだろうけど、次は自力で乗り越えなきゃね?」


 満月は右側からどんどん黒く塗りたくられ、辺りの景色は暗闇に包まれ始める。



 アルデバランの娘は消え、代わりにサマラフの幻が目の前に現れた。

 エリカは、心が痩せ細った不安げな表情で顔を上げる。



「俺は君の命を救えても、君の心までは救えない。わかるだろ?この意味が」


 彼は感情が込もっていない笑みを浮かべ、顔をくしゃくしゃにして泣き始めたエリカとともに、影に覆われていくのを受け入れる。



 始めは聴こえていた泣き声の嗚咽も、静かな暗闇に吸い込まれて消えた。

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