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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 奸計貴族の国ロアナ【後半】
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砕花





 メイベは、料理を食べて貰えないのは食欲をそそられる盛り付けや味から遠いのが原因かもと思い、試行錯誤に取り組んでみた。だが、翌々日の朝になってもエリカの答えは平行線。


(何が悪いんだろ?幸福状態になる魔法薬を入れたら、ご主人様に怒られるよな……)


 いよいよ、思考が危ない方向へ走りつつある。



「そこのか弱き者よ」


「!」


「拙者らの出番でござるかな?」



 料理の腕に自信を失いかけてるメイベを見て不憫に思ったセティナとカニヴは、エリカの状態を教えて貰い、朝のうちに客室を訪れてみた。

 ドアを開いてすぐ二人に向けられたのは、人見知りのような強張った表情。


 一人掛け用の椅子に座って考えごとをしていたエリカは誰が来たかわかると、少し気弱そうな目をして、


「どうしたの?何か用?」と、控えめな笑みを浮かべて訊ねた。


 サイドテーブルには、心を込めて作られた料理が手を付けられずに置かれたままになっている。


「拙者は人から教わった話でしか知らぬが、シュノーブとやらは、服を何枚も着込まぬと凍え死んでしまう、非常〜〜ぉに寒い国らしいでござる。脂肪を蓄えておいたほうがよいではござらんかな?」


「食欲、湧かなくて」


「体調が悪いなら、医師に診て貰ってはどうじゃ」


「悪い感じは全然無いよ?まともに休んだの久しぶりだから、疲れが出てるんだと思う」


「……」本当にそうなのか、セティナとカニヴは疑わしい気持ちになる。



「ねぇ、私が一人で旅をすることになったら、パーティは解散するんだよね?セナさんはどうするの?」


「イに帰る」


「カニヴさんは?」


「拙者は里へ帰るでござるよ。旅が終わるのは残念でござるが、非力ゆえ、サマラフ殿抜きでエリカ殿を守ることはできぬからのう」


「守るなんて、大袈裟だよ」


「……」


 空気を掴むような会話。

 カニヴは、エリカの前でしゃがみ込むと顔を見上げ、兄のような気持ちで優しい笑みを向ける。



「エリカ殿。拙者たちは、そなたを見捨てるのではないでござるよ」


「…………」



 互いに伝わっているようで伝わっていない、不自然な雰囲気。



「わかってる。励ましてくれてるんだよね?有難う」



「サマラフは、おんしと旅が続けれるよう、ユマにかけ合っておるようじゃ」


 エリカはセティナのほうへ顔を向け、笑みを携えたまま無感情で話す。



「私と旅をするのって、リュイ様と結婚するより、大事なことなの?」


「皮肉か?」


「前なら、うんって肯定してた。だけど、それは私が子どもだったせい。近くに居たのが偶然サマラフだった、その程度の好意だったと思う」



 セティナとカニヴは、二人の恋愛感情の(たけ)が切れるのは正しいことだと思っていた。

 なのに、なぜか自分たちが傷付いている。



「婚約者が居るの知ってたら、好きにならなかったのに。私ってば、セナさんとカニヴさんにも、無駄に迷惑かけちゃった」


「エリカ殿…………」



「ごめんなさい。料理、下げてくれる?メイベさんには、作らなくていいって言っておいて」


 セティナとカニヴが黙って部屋を出るとエリカは椅子から立ち上がり、ベッドに突っ伏した。

 掛け布団を弱々しく握り締め、虚ろな目で涙を流す。



(シュノーブ……、行く意味あるの?また幻滅するくらいなら、オリキスさんに会わないほうがいい気がしてくる。良かった頃の記憶も、悲しかった記憶も、無かったことになるのが怖い)








 その頃、シュノーブの首都クォン・タユにある、国王専用の休憩室では。


「!」


 クリストュルが右手の人差し指を絡めて持ち上げているカップの取っ手にぴしっと亀裂が入り、中身の茶ごとテーブルの上に落ちた。

 近くに控えていたエンは給仕係りをしてる魔法騎士に向かって布巾を持ってくるよう指示を出すと、カップの破片を器用に拾い、白い布に包んでいく。



「エリカ殿はまだ、ロアナに滞在してるのか?」


「妨害を受けずに療養していれば、既に出発している頃ですが、どうでしょう。テムダニャ(こう)とを往復するヤマタヒロ経由の船とシュノーブ直通の船がすべて故障し、出航が遅れているとの報告が届いてますから、難航してるかもしれませんね」


 テムダニャ港とはロアナの東に位置する大きな港町。建国パーティー終了後は二週間のみ、特例で直通便を出す予定だったが、此処に来てなぜか動けない状態になっている。



 クリストュルは肘掛けに手を乗せて深く腰掛けた。

 アイネスかクダラの港を利用すれば、敵の妨害に遭うのは確実。一番安全な港はイ国のポルネイだが、それだとエリカに再会できる日が益々先送りにされる。やるせない気分だ。


「建国パーティーになど、参加させなければよかったろうに」


(また幼稚なことを……)

 

 エンは布巾を渡してくれた騎士に退室するよう、目で促した。ドアを開閉する音を背中で聴きながら、テーブルの上を拭く。


「サラ様に代理をお任せした()()()()()()に、天罰が下ったのでしょう」


「出席していれば、小鳥に会わせて貰えなかった。何も惜しくないよ」


 小言など右から左。クリストュルは涼しげな笑みを浮かべている。


(何を言っても無駄か)


 呆れたエンは代わりのカップを用意して、茶を淹れ直すことにした。

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