托葉が落ちる頃に(1)
※台詞やや多めです。
※戦闘が終わったあとの続き。
サマラフたちは屠殺場のミミズを倒し、アルデバランの娘との戦いも終えて現実に戻ってきた。
エリカが眠りから目を覚ましていないのは変わらずだが、顔を見ると血色は良く、穏やかな顔付きに変わっている。
少年は彼女に近付いて首裏を確認。紋は綺麗に消えていた。脈拍や体温も正常に戻っている。
「うん。無事、助かったようだね」
その言葉を聴いて安心する一同。エンは無言で呪文を解いた。
サマラフは少年に向かって、感謝と敬いを込めた一礼をする。
「ナナチ殿、助かりました」
「え?」カニヴは目を見開けた。
少年は愛想に欠けた、ツンとした態度を変えることなく、ネクタイを整える。
「ぼくが助けたなんて、言いふらさないでくれよ」
「え?」カニヴはセティナの顔を見、気付いてなかったのは自分だけだったとわかる。
サマラフは、医務室の外へ出ようとノブを掴むナナチに訊ねた。
「この子について、詳しく訊かないのですか?」
「興味なし。面倒臭いの嫌いなんだよ」
深入りすれば、望んでいなかった悪いことが周りで起き始めるのは目に見えてる。
「副作用は心配ないと思うけど、目が覚めたときに診察はさせて貰う。近くの宿屋に泊まるから、何か異変があった場合は至急連絡してくれ」
「有難うございます」
「ぼくは医者だからね。それと宿代、あんたの名前で請求するよう、店主に頼んでおく。じゃあね」
「道中、お気をつけて」
ナナチは返事をせずドアを開け、メイベの見送りを受けて屋敷を出た。雨上がりの夜明けに、ほっとした気持ちになる。
「では、私も失礼致します」
「エン、協力してくれて有難う」
「我々は明後日の早朝にロアナを発ちます。また何か手助けが必要なときはお訪ねください。借りは高く付きますけどね」
「もう無いことを願うよ」
サマラフは微苦笑を浮かべた。
すると、エンは離れた場所からエリカの顔を一瞥後、
「卿、此方へ」
玄関口まで彼を連れて行き、二人で話をする。
「サラ様のもとへ帰る前に、一つ情報提供して差し上げます」
「要求は?」
エンは首を左右に振った。
「手ぶらで来ましたから。これは、私の土産物と思ってください」